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1.1-25 村19

「あ、ゴメン。もうちょっと弱くが良いわ……」


「えっ?こ、こう?」ドゴゴゴゴゴ


「あー、そうそう……。できれば……一箇所だけじゃなくて、全体に満遍なく……あー、大体そんな感じ……」


まるで、ルシアにマッサージでも受けているかのようなワルツの言葉だが、もちろんそういうわけではない。

彼女たちは今、雷魔法を使って、木を乾燥させていたのだ。


その様子を具体的に説明するのは中々に難しいのだが……。

端的に説明すると、ワルツが重力の力場で作った回路(アンテナ)に、ルシアが雷魔法を使って電流を流して、電子レンジのようなものを空中に作っていたようである。

温める対象は言うまでもなく、先程ルシアが切り倒したばかりの木だ。


「ねぇ、お姉ちゃん……。何やってるのか全然分かんないんだけど……」


「えっ?重力場を使ったマグネトロンを空中に形成して、電子レンジ作ってるだけだけど?」


「…………」


ワルツの意味不明な呪文(?)を聞いて、閉口するルシア。

なお、彼女の言葉は、呪文ではなく、れっきとした科学である。


「まぁ、簡単に言うと、木を内部から温めてるのよ。それも、木に含まれる水分をピンポイントで、ね?」


「……そんなこと出来るの?」


「えぇ。出来るわよ?色々なウンチクはあるんだけど……まぁ、説明するより、直接見たほうが分かりやすいかしらね?」


と、丸太の方へと視線を向けるワルツ。

するとそこからは白い湯気のようなものが立ち上がっていて……。

まるで電子レンジの中で加熱されている濡れタオルのような見た目になっていたようである。


「ほらね?」


「ふーん……。火魔法じゃなくても、こんなことが出来るんだぁ……」


「えぇ。火魔法を使えば、確かに温めることはできるんだけど、それだと水分だけじゃなくて、木そのものも加熱しちゃうから、今回は向かないかな、って思ったのよ。木炭を作るときなら、それでもいいんだけどね?って、そろそろいいかしら」


電力だけを考えるなら、現代世界の大工場に供給されるものと比べても、遜色がないほどに大出力を誇るルシアの雷魔法。

それによって加熱された丸太は、ワルツの読み通り、ごく短い時間で乾燥することに成功したようだ。

なお、余談だが、世の中には、高周波減圧乾燥という木材の乾燥方法があって、今回ワルツは、それを真似たようである。


「さて。じゃぁ、次はカットね」


「うん。でも私の風魔法じゃ細かい作業までは出来ないから……お姉ちゃんが切る?」


「んー……まぁ、そうね。じゃぁ、スパーン、といっちゃいますか!」


チュウィィィィン!!

バキバキバキッ……

ズドォォォォォン!!


「はい、終わり」


「…………え?」


いったい何が起ったのか分からない、といった表情で固まるルシア。

ワルツが単に丸太を切るだけかと思っていたら、何故か丸太だけでなく、その後ろにあった森の木々までもが、突然倒れたのである。

赤外光を見ることが出来ないルシアには、そこに赤外レーザーが飛び交っていた様子が見えなかったせいか、まさに理解不可能な現象だったようだ。


「えーと?」ピラッ「うん……まぁ、あと20本くらい切って乾燥させれば、十分な量の木材が用意できるでしょ。またお願いできる?ルシア」


「う、うん……(やっぱりお姉ちゃん……理不尽かも……)」


いつの間にか音もなく切れていた木材の様子を確かめるワルツに対し、ルシアとしては色々と言いたいことがあったようだが……。

彼女は、いつも通り、それを口に出さずに、飲み込むことにしたようである。



バキバキッ……

スパパン!!

トトトンッ!!


夕暮れ時の村の中に響き渡る、工事現場のような大きな音。

それは、釘を叩く金槌の音でも、重機が動く音でもなく――


「……誰も来てない?」


「うん。今なら行ける!」


バキバキッ……

スパパン!!

トトトンッ!!


――廃屋に隣接する森の中から、人の目を盗んで、家の壁を取り替えるワルツたちの作業の音だったようだ。

どうやら2人とも、この期に及んでも、誰かに作業を見られたくなかったようである。


そんな彼女たちの作業を具体的に説明すると。

大量の木材と共に森の中の茂みに隠れて、人がいないことを確認してから、重力場を展開して腐った壁を剥がし……。

その代わりになる木材を、その場で、レーザーを使ってカットしてから……。

先日精錬した鉄の余りから作った釘を使って、製材した木材の板を、新しく家に打ち付ける、というものである。

なお、ルシアは、誰も来ないように見張る監視役だ。


「――行ける!」


バキバキッ……

スパパン!!

トトトンッ!!


と、どこか嬉しそうに、ワルツへと指示を出すルシア。

その表情は、魔法を使って木材を乾燥させていたときよりも、随分と生き生きとしていたようである。


「さーて。次で最後の1枚よ?」


「えーとねぇ……ちょっと待ってね。狩人さんが、ものすごく不思議そうに家を眺めてる…………うん。酒場に入ってったから、今なら行けるよ?」


「おっけー」


バキバキッ……

スパパン!!

トトトンッ!!


「ふぅ、完成」


「お疲れ様、お姉ちゃん。なんか……本当に、豪邸ができちゃった気がする……」


一通り完成した後。

ワルツとルシアは、自分たちが作り直した家の様子を見て回ることにしたようだ。


それは決して豪邸と呼べるような大きさの建物ではなかったが……。

自分たちの手で作り直したためか、ルシアにはその見た目以上の大きさがあるように感じられたようである。


「さーて。壁は真新しいけど、中はそのままだから、今度は中のお掃除よ?」


「うん!」


そう言って、意気揚々と家の中へと入ろうとする2人。


ただその際。

入り口に鍵を差し込んで、それを回そうとして――


バキッ……


「「あ゛っ……」」


と、鍵ごと古い扉を壊してしまったのは、お約束か……。


こうして。

ワルツたちは、最後の最後に、家の扉を作り直して。

そしてようやく、使い物になるレベルになった家の中の掃除を始めたのであった。



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