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1.1-22 村16

その後。

ワルツとルシアが、酒場の店主に借りた荷車に、合計490kgにも及ぶ鉄塊を載せて、商隊の馬車が止まっていた場所まで引っ張ってきたわけだが……。

それを見た商人たちも、そして村人たちも、全員が全員、思わず固まってしまったようだ。


そんな彼らは、皆、共通した疑問のせいで、唖然としていたようである。

それを、責任者の男性が、代弁することになった。


「これほどの金属塊をいったいどこから……しかも、すべてが高純度の鉄のように見える……。この村にそのような設備はあっただろうか?」


どこから鉄を持ってきたのか。

どうやって鉄を四角く加工したのか。

どうして高純度の鉄がここにあるのか。

そして誰がこれを作ったのか……。


そこに居た者たちは皆、荷車の上にあった鉄塊の山を眼にして、5W1H(?)を考えていたようである。


一方で。

その質問は、ワルツにとって、一番聞きたくない言葉だった。

彼女としては、はいそうですか、とそのまま買い取ってほしかったのである。

要するに、余計な詮索はしてほしくなかったのだ。

それによって、自身の正体が明るみに出てしまうとも限らないのだから……。


とはいえ。

彼女はこの事態を想定していなかった、というわけではなかったようである。

むしろ、ほぼ確実に、こうなるだろうことを予想していた、と言うべきかもしれない。


結果、彼女は、この瞬間のために用意していた言葉を口にした。


「……その辺は察していただけると助かるのですが、詳しい話をしなくてはダメですか?主に、詳細を口外するな、と言いつけられているので、事情を聞かなければ買い取ってもらえないなら…………今回の話は無かったことにしても構わないのですが……」


と、自身もポーカーフェイスを顔に貼り付けて、毅然とした態度でそう口にするワルツ。


その仮面の裏側で、彼女はこんなことを考えていた。


「(なるほど?つまり、高純度の金属を生成するためには、この世界でもそれなりに大きな設備が必要になるってことよね……。ってことは、やっぱり、科学技術はそれほど進んでないし、魔法を科学に転用するようなことも行われてない、ってことになる、か……)」


様々な土地を巡回して、時には大きな町へも出入りしているはずの商人たちが、揃って驚いた表情を見せている様子を見て、この世界の縮図を頭の中で組み上げるワルツ。

どうやら彼女は、商人たちの反応から、これからの自分たちがするだろう行動の安全ラインを見定めようとしていたようである。


それから彼女は、このまま相手に時間を与えると、余計に詮索されるかもしれない、と思ったようで。

責任者の男性に対して、早々に結論を求めることにしたようだ。


「それで、どうです?何も聞かずに買い取ってもらえませんか?」


それが功を奏したのかどうかは定かでないが、責任者の男性は、難しそうな表情のまま小さくため息を吐くと……。

ワルツに対して、こう答えた。


「……分かった。他の村や町で、そういった複雑な事情を持った客がいないわけではないから、買い取ることにしよう。しかし、残念だ……。これほどの技術、そうあるものではないと思うのだが、それを伏せるというのは非常に勿体ない……」


「申し訳ございませんが、主の意向です。私からなんとも言えません」


「ふむ……。では、これから計量するから、ちょっと待っていて欲しい」


そう口にすると、周りの商人たちに目配せして……。

そして、商隊総出で、鉄塊の計量を行う商人たち。


ワルツがその様子を眺めていると、彼女の隣りにいたルシアが――


「…………」


と、彼女に対して、心配そうな視線を向けていたようだが……。

ワルツはそんなルシアの肩にそっと手を置いて、優しげに微笑みかけると……。

再び商人たちに向かって、その視線を真っ直ぐにを向け直したようである。



そして、その後。

酒場の自室へと戻ってきたワルツたち。

そこで彼女たちは、こんな会話を交わしていた。


「……私ね。これ、どうかと思うのよ」


難しそうな表情を浮かべながら、麻の布で出来た袋に、忌々しげな視線を向けていたワルツ。

どうやらその中に、気に食わない何かが、大量に詰まっていたようである。


「この世界って、紙幣は無いのかしら?」


「えっ?しへい?」


「うん。紙のお金。まぁ、正確に言うと、硬貨と交換できる、引換券みたいなものかしらね?」


「ふーん……。でも、その”しへい”がどうしたの?」


「いやさ?2人で細かく分けるには、紙幣じゃないほうがやりやすいんだけど……小銭ばっかりこんな山みたいに貰っても困るじゃない?持ち歩きにくいし……」


と、麻袋の口の中から見え隠れしていた銀色の貨幣を眺めながら、頭を抱えるワルツ。


それは、商隊から受け取った400,000ゴールドにも及ぶ、鉄塊の代金だった。

つまり、ワルツたちは、無事に鉄塊を売ることに成功したのだ。


ただ、その支払をすべて”1000ゴールド硬貨”で受け取ったために、400枚もの分厚い硬貨が、袋の中いっぱいに詰まっていたのである。

一応、世の中には、”10,000ゴールド硬貨”や”100,000ゴールド硬貨”というものがあるらしいが……。

商隊が村々を回っている間は、一切扱うことがないようで、彼らは1000ゴールド硬貨しか持ち合わせていなかったのだという。

まぁ、ワルツが商隊の男性商人に対して行った仕打ちが原因である可能性も否定は出来ないが……。


「そぉ?私としては、おっきいお金を1枚だけしかもらえないよりは、小さいお金を沢山貰ったほうが嬉しいけどね?なんか、お金持ちになった気分になれるし……」


「……なら……いいんだけど……」


ルシアの言葉を聞いて、苦笑を浮かべながら、硬貨の詰まった袋の中へと手をいれるワルツ。


そしてそこから貨幣を取り出し、それを机の上に並べて、半分に分けて。

それをルシアに渡そうか、という所で……。

ワルツは一旦その手を止めて、ルシアに対しこう言った。


「……うん。これ、半分、ルシアに渡そうと思ったんだけど……やっぱり重すぎて持って歩けないわね……」


「……半分?」


「えっ……まさか、半分じゃ足りない?まぁ、私は食費くらいにしか使わないから、全部あげても良いけど……」


「えっ……えっと……私もそんなに……っていうか半分の半分もいらないよ?鉄を作るときも、私はただ魔法で温めてただけだし……。私は、お姉ちゃんの迷惑にならないくらいの生活費があれば、それでいいよ?」


「……今、2人とも、店主さんに、おんぶに抱っこだから、生活費掛かってないけどね?」


「……そうだったね」


そう言って、苦笑を向け合うワルツとルシア。


それからワルツはルシアに対し、お金の管理について、話し始めた。


「思ってたよりも、かなり硬貨が重いから、とりあえずは私が持ってるわね?半分はルシアが自由にして良いお金。そして半分が私のお金。で、使いたくなったら言ってもらえれば、その時に渡すわ?それでいい?」


それに対してルシアは、難しい表情を浮かべると……。

首を小さく横に振りながら、こう返答する。


「……ううん。全部、お姉ちゃんが管理して?だって……私が持ってても、この村で使えるとは思えないから」


「う、うん。そうね……。確かに、使う所、無いわね……」


と、ルシアの言葉を聞いて、微妙そうな表情を浮かべるワルツ。


それから彼女は、出したお金を、袋の中へと仕舞い込もうとするのだが――


「……あ、そうだ。じゃぁさ?早速だけど……これの一部、使っちゃっていい?」


彼女は何かを思いついたようである。


そう。

この村における、お金の使い道を……。



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