-10.4-12 時間12
そして、しばらくの後。井戸の外で吹き荒れていたブレスが、すべて止んだ。
「……終わったかなぁ?」
「さぁ、どうかしらね?エンデルス?ちょっと外の様子、覗いてみる?」
「死ぬ。うん、死ぬ」
「そんな2回も言わなくたって……」
エンデルス少年の即答を受けて、仕方がなさそうに階段から腰を上げるワルツ。無理矢理にエンデルス少年のことを外に立たせる事も可能だったが、この時代の彼はその見た目通りにただの少年だったので、さすがに可哀想だと思ったようである。
そんな折り、最後尾にいたメイド勇者から声が飛んでくる。外が静かになったので、今なら話しかけられると判断したようだ。
「あの、ワルツ様?何かあったのですか?」
「ううん。何でもないわよ?ちょっとドラゴンたちに火炎放射を貰っただけ。もう終わったみたいだから、ちょっと外の様子を見てくるわ?」
「そうでしたか……分かりました。ですが、無茶はなさらないようにお願いします」
「えぇ、無茶なんてしてないわよ?安心して?」
と、階段の下へと声を向けるワルツ。その際、彼女の隣にいたルシアが、メイド勇者に向かって「私に任せて」と言わんばかりの表情を向けていて……。それを見たレオナルドたちは、何を思ったのか、必死になって階段を上がろうとしたようである。しかし、途中でなにやら見えない固い壁(?)のようなものに阻まれて、結局、そこから前に進めず……。その場で上を眺めながら、立ち往生を余儀なくされていたようだ。
一方でワルツは、ゆっくりと階段を登ると、井戸の淵から恐る恐る顔を出した。ただし、誰に見られても良いよう、リビングアーマーに変身してから……。
「……なんか、すごいことになってるわ?」
「うん?どんなこと?」
「そうねぇ……焦土作戦って言えば分かる?」
「「焦土作戦?」」
「例えば、戦争が起こったときに、自分たちの陣地が急に襲われて逃げなきゃならないような場面に陥ったとするじゃない?で、転移魔法とか、ルシアみたいな重力制御魔法が使えなかったら、物資は持って逃げられないから、そのままそこに放置するしかないでしょ?だけど、むざむざ物資を敵に渡すわけにはいかないから、全部焼いちゃうのよ。建物も食料も」
「それ勿体ないね?」
「(燃やそうとして燃えたわけじゃないと思うけどな……)」
と、何か言いたげな様子で、口をもごもごと動かすエンデルス少年。
それから彼は、ワルツに続いて、井戸の外へと歩み出た。
「なん……」
その光景を見て、エンデルス少年は言葉を失った。そこに魔族は残っておらず、もぬけの殻状態で……。そして何より、ドラゴンたちのブレスによって生じた炎が、魔王の城の思しき大きな建物を包み込んでいたのである。動いているものがあるとすれば、燃えさかる炎と、崩れゆく建物の残骸、それに——
「わざわざ燃やさなくたって、相談してくれたって良いのに……」
——そう口にしながら、元の姿に戻るワルツくらいのものだったようだ。
「…………」じーっ
「……何よ?」
「いや、本当に魔神様なんだなって……」
「どうしてこのタイミングでその話がでてくるわけ?燃やしたの、私じゃないのに……」
と、ワルツが反論しようとすると——
ギギギギギ……バタンッ!!
——炎に包まれていた城の正門が倒れて、その向こう側がむき出しになる。例えるなら、その中へと誘うかのように……。もちろん、ただの偶然だが。
それを見て、エンデルス少年がこう口にする。
「城の中に、まだ生き残りがいるんじゃないか?」
「何?勇者のくせに魔族の心配をするわけ?」
「もう、勇者なんて辞めようと思うし、魔族と人間の区別をするなんて無意味なこともやめることにしたんだ」
「ふーん……。そういうの嫌いじゃ無いわ?」
そう言いながら生体反応センサーを起動するワルツ。
「でも、さすがにこんな状況で、人なんて残ってないと思うわよ?」
「じゃぁ、燃える前に宝探しでもするか?」
そう言いながら城へと向かって水魔法を行使するエンデルス少年。
そんな2人のやり取りに、ルシアが水魔法と共に参加しようとした——そんな時だった。
「……え゛っ」
ワルツが濁点混じりに驚嘆の声を上げる。
「な、なに?」びくぅ
「ん?あー、ごめんね?ルシア。ルシアが魔法を使うことに驚いた訳じゃないのよ。むしろ、水魔法で火を消して欲しいくらいね。っていうか、火を消してもらえる?あのお城の中にまだ生き残りがいるみたいだから」
「えっ?!う、うん!」
そして水魔法を行使するルシア。
彼女は放つ魔法は、基本的に大出力である。一般的な魔法使いの水魔法が、家庭用の水道から出る程度の水量しかない一方、ルシアが同じ魔法を使うと、どんなに抑えても氾濫した小川クラスの流量になってしまうのだ。それはこの場面において、消火するという目的には、十分な効果をもっていたようである。しかし、火災によってダメージを受けていた城に対し、使ったらどうなるのか……。すぐには倒壊しなかったためか、ワルツたちは気付いていなかったようだ。




