-10.4-10 時間10
薄暗い螺旋階段を進む列の最後尾。そこにいたメイド勇者たちは、助け出した人々と共に、事の成り行きを眺めていた。先頭を行くエンデルス少年が壁のリビングアーマーを1体だけ破壊し、ルシアが超強力な魔法を放って、階段の死角にいた残りを破壊する……。それ自体は、先頭近くにいいたワルツからも見えていたが、レオナルドたちからは、その戦闘(?)の他にも、もう一つ見えるものがあったようだ。
「やべぇよ!やべぇ!絶対やべぇ!」
「何者なんだよ?!あいつら?!」
「耳が……!千切れる……!」
といったように、牢から助け出した人々が、エンデルス少年の立ち振る舞いや、ルシアの魔力を見て、戦々恐々としていたのだ。狂乱状態直前と表現して良いかもしれない。まぁ、それも仕方ないことだろう。特にルシアの魔法は強力で、その魔力を同じ井戸の中で感じるというのは、例えるなら小型の打ち上げロケットのエンジンが噴射している姿を、たった数メートルほど位置から観察するようなものだったのだから……。
そしてそれは囚われた人々だけに限った話ではなかったようだ。ただし、その対象は、メイド勇者たちのことではない。
「拙いな……」
最初に気付いたのは賢者ニコルだった。
「この魔力……間違いなく、外にいる連中にも知られたはずだ」
「恐ろしい……魔王様……ですか……?」
「あぁ、そうだ。ユキさんたちを見る限り、恐ろしいかどうかはまだ分からないが……ただ、恐ろしいと思っているのは、向こうも同じだと思う」
首を傾げる魔法使いのリアに対し説明する賢者。"精霊"を使い、世界の各地から人をさらっていたら、ある日、とんでもない魔力を持った人物が罠に掛かってしまった……。それが魔王側の者たちにとって、どれほどの恐怖なのかを考えた賢者は、無意識の内に苦笑を浮かべてしまったようである。
すると今度は、勇者レオナルドが口を開く。
「私たちが上に出る前に包囲網を築かれて、そこを突破することになる……ということですか。このままだと、今回も、ワルツ様やルシアちゃんに頼り切りになりそうですね……」
「相手の数がどの程度か分からない以上、捕まっていた人々を守りながら脱出するというのは、私たちだけでは無理だろう。だが、ワルツ殿とルシアちゃんだけで包囲網を突破するのも難しいだろう」
「「…………?」」
「あの2人が対人戦闘をすればどうなるのか、レオが一番分かっているのではないか?」
「……手加減しても、塵すら残らないでしょう」
「そういうことだ。しかも今は過去の時代。むやみに人を殺すわけにはいかない。つまり……」
「……ワルツ様やルシアちゃんが対応しきれなかった方々に、私たちが対応する、というわけですね?」
その問いかけに、賢者は何も言わず、井戸の上の方を見上げながら、ただ首を縦に振った。というのも、列の先頭で、何やら動きがあったからだ。
◇
「んじゃ、まぁ、とりあえず、私がリビングアーマーのマネをして外に出て、様子をうかがってみるって感じで良いかしら?」
「なんでだ?」
「(だって、お姉ちゃんだから……って言ったら怒られるかなぁ……)」
井戸の天辺までやってきたワルツたちは、すぐには外に出ず、そこで足を止めていた。井戸の外では何やら人々が集まっている雰囲気があって、下手に頭を上げると総攻撃を受ける予感がしていたらしい。
「なんでって……ここの牢屋を守ってたのって、リビングアーマーだったでしょ?さっき、貴方が壊したやつ。ということはよ?私がリビングアーマーの姿に変身して外に出ていけば、とりあえず総攻撃は受けないんじゃないかなー、って思うのよ。それで、隙を見て周囲を偵察して、可能なら魔王とかいう奴を説得してみようと思ってさ?」
「そりゃ、理屈上は出来るのかも知れないけど……」
「まぁ、見てなさいって(無理に突撃して、相手にも味方にも死人を出すわけには行かないからね……)」
そして決心した様子で立ち上がるワルツ。次の瞬間、彼女の身体が光に包まれると——
「「「…………!」」」
——その光が収まるのと同時に、そこにリビングアーマーが現れた。
「すげぇ、本物みたいだ……!」
「でも、ちょっとデザインが違うような……」
「少しくらい違っても分かんないんじゃない?」
「まぁ、いっかぁ」
「良いのかよ……」
「じゃぁ、ちょっと行ってくるわね?」
何か言いたげなエンデルス少年と、自身を見上げていた妹の頭に手をポンと置いてから……。ワルツは意を決して井戸の外へと歩み出た。
その際、ワルツは、失敗を犯すことになる。彼女の身体は、実体ではなくホログラムで、それを表示していたのは無数の光ファイバーだというのは今更説明する必要も無いことだろう。それが井戸の外に伸びていってリビングアーマー(?)の映像を表示しようとした際、井戸の淵に少しだけ引っかけてしまったのである。普段は重力制御システムで緻密に動きを制御しているのだが、緊張していたためか、小さいところでほころびが生じてしまったらしい。
そしてその結果。
ワルツたちは、とある結果をたぐり寄せてしまう事になる。




