-10.4-09 時間9
ガチャッ……キィィィィィ…………シュタッ!
扉の裏側に誰もいないことを確認してから、牢屋のあった部屋から外へと飛びだすエンデルス少年。そこに広がっていたのは、大きな井戸のような長い縦穴だった。その壁には岩を削って作られた螺旋階段が設置されていて、本当の"外”に行くためには、そこを上っていく必要がありそうだ。
そしてもう一つ。彼の視界に入ってくるものがあった。
「…………!(リビングアーマー?!まだいたのか!)」
つい先ほど倒したばかりのリビングアーマーと同じデザインの鎧が、長い階段の所々にある壁の溝で、まるで置物のように武器を構えていたのである。エンデルス少年がいた場所からは、すべてが見えたわけではなかったものの、少なくとも5体は見えていたようである。
その結果、彼は、反射的に牢屋の中へと戻ろうとするのだが——
ぽふっ……
「ちょっと、いきなりバックしてこないでよ……(機動装甲詰まってるし、後ろにも人いるんだから……)」
——ワルツとぶつかることになる。この場合、ワルツの方がエンデルス少年よりも一回りほど背が高いので、彼女に抱きかかえられた、と表現すべきか。
「で、でも、リビングアーマーが……!」
「あー、大丈夫、大丈夫。今の私たち、向こうから見ると透明になってるし、音も聞こえてないはずだから警戒しなくても襲われないわよ?……多分ね」
「透明……幻影魔法か?!」
「んー、幻影魔法とはちょっと違うけど、まぁ、似たようなものかしら?」
「すげぇ……さすが魔神!」
「…………(あー、ルシアの真似するんじゃなかった……)」
と、自身の"マシン"発言を内心で後悔しながら、エンデルス少年の脇を掴んで、彼を外へと振り向かせるワルツ。そしてエンデルス少年が外に出ていった後、代わりにルシアがワルツの腕の中に飛び込んでいったのは、彼女もまたリビングアーマーを見て驚いたから————ということにしておこう。
そしてグルグルと階段を上り、1体目のリビングアーマーの前までやってきた一行。そこでエンデルス少年は、聖剣を構えたまま、後ろから着いてきていたワルツに対し問いかけた。
「これ、倒した方が良いよな?」
その問いかけに対し、ワルツは、後ろから着いてくる人々の方を振り返りながら、こう返答する。
「こっちの姿は見えてないし、それに殿に勇者……レオたちがいるから大丈夫だとは思うけど、壊しておいた方が無難でしょうね。だけど、触れた瞬間、リビングアーマーに気付かれるでしょうし、だからといって、一撃で仕留めようとして隠しきれないくらいの大きな音が鳴ったら、外の連中にもバレるだろうし……その辺のバランス、大丈夫?」
「弱点は分かってる。つまり……こうすれば良いんだろ?」
そう言ってエンデルス少年は自身の聖剣を鞘に仕舞うと、両手をリビングアーマーの頭へと向けて——
ボフッ……
——その部分を消滅させた。
「何それ?転移魔法?」
「え?いや、土魔法。止まってる相手なら、音も無く大体消せるから、色々使い勝手が良いんだ」
そう言って自慢げな表情を浮かべるエンデルス少年。その際、彼の視線がルシアに向けられたのは、同じくらいの背格好の勇者に、対抗意識のようなものを燃やしていたためか。
そしてその視線には、ルシアも気付いていたようだ。
「……お姉ちゃん、やって良い?」
「殺っていいって……ダメよ?ルシア。いくら憎いからって、エンデルスのこと殺しちゃったら、さすがに歴史が変わっちゃうから」
「「えっ?」」
「えっ?違うの?」
「う、うん……リビングアーマーの事だったんだけど……」
「お、俺……やっぱり憎まれてるの?」
「…………いえ。ちょっとからかってみただけよ?」
と、誤魔化した後で……。微妙な空気を払いのけるかのように、ワルツは妹に対してこう言った。
「やっちゃっていいわよ?だけどピンポイントでね?」
「うん!」
そしてルシアが宙に手をかざした途端——
ブォンッ……
——という得も言われぬ音を立てながら飛んでいく白と黒の球体。その数、合計20。
そのうち、最初に放たれた黒い球体が近くにあったリビングアーマーに触れた途端——
グシャッ!!
——リビングアーマーは、頭部どころか、胴体、腕、足、すべてのパーツを圧縮されて球体の中へと吸い込まれてしまう。
その直後、今度は白い球体——人工太陽が、リビングアーマーを吸い込んだ黒い物体に触れて、ジュッ、という音を立てて、黒い球体ごとその場から姿を消してしまった。……という蒸発現象が、階段のおよそ10カ所で生じていたようである。
「撃ち漏らしは……うん。無さそう!」
「……ねぇ、ルシア?今の何?」
「うん?お姉ちゃんの真似?」
「黒い球体の方は、まぁ、分からなくもないけど、白い方はちょっと……あれ、魔法で作った太陽よね?」
「うん。マネだからまったく同じじゃないよ?ほら、前に"大河"で見せてくれたでしょ?あの、シュゴーッ、って飛んでいくやつ。あれに似せてみたの」
「あー、対消滅ミサイルね……」
そう口にしながら、縦穴の向こう側に広がる空へと、遠い視線を向けるワルツ。その視線は、過去を思い出している類いのものではなく、過去の自分の行動を悔いている類いのものだったようだが……。嬉しそうに尻尾を揺らしていたルシアがそれに気付いた様子はなかったようである。
なお、そんなルシアの魔法を見ていたエンデルス少年が口を開けたまま固まっていたことは、言うまでも無いだろう。
……そう。これまでにルシアの圧倒的な魔力を見てきた人々が、皆、そうだったように……。




