-10.4-08 時間8
ルシアが檻を切断したために生じた大きな音。それを聞いた人々に、ワルツたちの脱獄が知られてしまう。
「おい!頼む!助けてくれ!」
「ここから出してくれ!」
「妻と子に会いたいんだ!」
他の檻から一斉に上がる人々の声。そこで姿を消せば、知らぬ存ぜぬを突き通せたはずだが、ワルツは消えること無く——
「(どうしよう……放置する……?)」
——と考え込んで足を止めた。……過去の時代における自分の行動が、未来にどのような影響をもたらすのか。あるいは、どんな行動をしたとしても未来は変わらないかもしれないというのに、このまま囚われている人々を見捨てて良いのか……。そんな考えがワルツの脳裏に浮かび上がってきていたようだ。
そして間もなくして、ワルツは一つの結論を出す。見放すという選択は採れなかったので、行動の選択を牢屋の中にいた人々に任せることにしたのだ。
「もう……仕方ないわね」
ワルツがそう口にした瞬間——
ガラガラガラッ!!
——と、その場に響き渡る大きな音。突然、すべての牢屋の檻が途中から切れて倒れてしまったのだ。その切断面は溶けたようになめらかで、それなりに熱を帯びていたようである。
それを見て——
「「「?!」」」
——と、戸惑う人々。一体何が起こったのか、彼らには理解できなかったようだ。
そんな人々の姿は、ワルツが立っていた場所からは見えなかったが、彼女は入り組んだ牢屋の中で、人々に対しこう言った。
「どちらかを選びなさい。ここに留まって魔王の温情を求めるか、後悔を厭わず檻から抜け出すか。ちなみに私のおすすめは——」
「「「行くぞ!」」」
「……あ、うん。そう……」
そして肩を落として、施設の出口へと向かうワルツ。その後ろ姿をルシアたちは見ていたようだが、やはり何も言わなかったのは、話しかける言葉が見つからなかったからか。
そんな中、一人だけ例外的な反応を見せていた人物がいた。この時代の勇者、エンデルス少年である。彼はまさに少年のような表情を浮かべながら、ワルツに向かって問いかけた。
「すげぇ……。今のどうやったんだ?」キラキラ
それに対しワルツは、レーザーで切断した、と素直に答えようとしたようだが……。直前のルシアの発言を思い出したのか、妹の言葉をマネしながら(?)こう返答する。
「だってほら……私、マシンだから」
「魔神……!」キラキラ
「いや魔神じゃなくてマシンね?まぁ、それは良いから、エンデルス?仕事よ?先頭をお願い」
「戦闘……分かった!」
エンデルス少年は、そう口にした後、嬉しそうとも頼もしそうとも表現できる表情を浮かべながら、ワルツを追い越して出口へと向かった。
するとそんなタイミングで——
「…………!」ガシャンガシャン!
——看守が再びやってくる。大きな音が断続的に聞こえたので、牢屋の様子を見に来たらしい。
それを見て、すかさずエンデルス少年が動く。
「ふっ!」
彼は、取り上げられていなかった自身の聖剣を——
ガシャッ……!
——と看守の甲冑の隙間、具体的にはヘルムの付け根に突き立てたのだ。
「「うわぁ……」」
その様子を見て、嫌そうな表情を浮かべるワルツとルシア。2人とも鎧の中でどんなことが起こっているのか、想像してしまったようである。
……しかし。
ガッ!
「うがっ?!」
致命的としか言えないような攻撃を受けたはずの看守が、そのまま動き続けて、エンデルス少年の首を掴んだ。
「えっ……ちょっ?!」
ワルツは咄嗟の判断で、重力制御システムを展開し、看守の腕を吹き飛ばそうとする。
結果、彼の腕は大きな外力を受け——
ガランガラン……
——と意外なほどあっけなく、吹き飛んでいった。例えるならまるで、中身の無い空き缶が風に飛ばされ転がっていくかのように。
それを見て、ワルツたちは気付く。
「リ、リビングアーマー?!」
「へぇ、本当にいたのね?」
鎧の中身は、正真正銘の空洞だった。どんな原理なのかは不明だが、鎧が意思を持って勝手に動いているらしい。
そして、今まで無口だった看守——リビングアーマーが、ここに来て始めて口(?)を開いた。
「……排除スル」
そして再びエンデルス少年を襲おうとするリビングアーマー。
それに対し、エンデルス少年も、負けじと応戦する。
「ばらしてやる!」
ガンッ!!ギンッ!!
体重を乗せてリビングアーマーの腰部分を蹴り飛ばしながら、迫る腕を回避しつつ、それと同時に関節へと剣を突き立てる……。エンデルス少年はそれを繰り返し、リビングアーマーのパーツを次々に解体していった。それは"勇者"である彼だからこそ出来た荒技で……。その様子を見に来た牢屋の人々は、皆、驚いたように言葉を失っていたようだ。
そして最後。首を吹き飛ばしたところで、リビングアーマーの動きがようやく止まった。
それと同時に、エンデルス少年も動きを止め、仰向けの状態で地面に倒れ込む。
「はぁはぁ……」
「お疲れ様。ルシア?一応、エンデルスに回復魔法頼める?」
「うん」ドゴォォォォ
その途端、息を切らすエンデルス少年を包み込む、まるで火柱のような回復魔力。
それを見た人々が、ゆっくりと後ずさっていったのは、リビングアーマーのパーツが依然として小刻みに動いていたから、というわけではなさそうである。




