-10.4-07 時間7
カツン、カツン、カツン……。
岩が敷き詰められた床を叩く、硬い金属の音。鎧を着た看守が立てた足音である。
頭の天辺から足の先まで完全装備の鎧を着込んだ看守は、ワルツたちがいた牢屋へと近づくと——
「……ふん」
——中を覗き込んで満足げに鼻を鳴らしてから、隣の檻へと移動していった。どうやら彼は"精霊"が捕まえてきた人々を確認しにきたようである。
「あの反応、なんかむかつくわね?」
「お姉ちゃん……」ぎゅっ
「大丈夫よ?ルシア。心配しなくても、ちゃんと守るから」
「えっと……そうじゃなくて……」
「ん?」
「ううん……なんでもない……」
姉に対して何か言いたげな様子だったものの、そのまま言葉を飲み込むルシア。その他の者たちも、どこかソワソワ——いや、ビクビクとしていたようだが、ワルツがその反応に気付いた様子は無かったようだ。
その後、所々で上がる怒声に耳を傾けながら、看守がいなくなるのを待っていると……。ワルツたちの所へと、再び足音が近づいてくる。そしてやってきた看守は、どういうわけか檻の前で立ち止まると、じーっと中を覗き込み始めた。その際、その視線が女性たちに向いていたのは、その鎧の中身が男性だったためか。
そんな看守の行動に業を煮やしたのか、エンデルス少年が声を上げる。
「おい!お前!俺たちをここから出せ!」
すると看守は、何も言わずに、手に持っていた棍棒を、檻の隙間からエンデルス少年目掛けて、勢いよく突き出した。エンデルス少年の反抗的な態度が気にくわなかったらしい。
対するエンデルス少年は、それを巧みに避けて……。逆に棍棒を脇に抱えて、それを引っ張ろうとする。
しかし、その直前。一部始終を見ていた勇者レオナルドが動き、エンデルス少年のことを後ろから羽交い締めにした。
「エンデルス。止めなさい」
「っ!で、でも!」
「皆さんに迷惑を掛けるつもりですか?先ほど聞いた話を思い出すのです」
「くっ……」
反抗的な態度を取った者は即死刑という話を思い出したのか、渋々といった様子で棍棒を手放すエンデルス少年。
一方、抵抗されたことに腹を立てたのか……。看守は自由になった棍棒を使い、エンデルス少年を打とうとする。しかし——
ガンッ!!
「おっと。これは申し訳ございません。暗くて足下がふらついてしまいました」
——体勢を崩したレオナルドの回し蹴りによって、阻止されてしまう。
それから看守はメイド勇者としばらく睨み合った後、舌を鳴らしてその場から立ち去っていった。
「ちょっと、勇sy……レオ?今の拙いんじゃない?」
「……お気を遣わせてしまい申し訳ございません。ついつい足が出てしまいました。ですが、私がやらなかったとしても……ワルツ様がお守りになっていたのではないですか?」
「……さぁ?どうかしらね?」
ワルツはそう答えてから、悔しそうな表情を浮かべていたエンデルス少年の様子を一瞥した後で……。看守がいなくなった檻の方へと足を進めた。
そこで彼女は、檻の作りを観察しつつ、仲間たちに向かって問いかける。
「時間も無いことだし、さっさとこれ壊して、脱獄しちゃいましょうか?」
すると、看守が来るまで、檻の様子を見ていたエンデルス少年が、首を振ってこう口にした。
「さっき、俺もこの檻を壊せないか試してみたけど……魔力をかき消すみたいでダメだった。魔法を使って切断しようにも、ぜんぜん力が出なくなるんだ。多分、捕まえた人たちが逃げ出せないように、魔力を消す特殊な金属を使ってるんだと思う」
「なんかどこかの漫画で出てきそうな檻の設定ね……」
「ん?漫画?設定?」
「あー、でも前にも同じような効果がある檻の中に閉じ込められたことあったわね……。ねぇ?ルシア。覚えてる?」
「んー……あったかなぁ?そんな檻……」
話を振られたルシアは、姉にそう返答しつつ、檻に近づくと——
「だってほら?この檻、魔法使って簡単に切れるよ?」
スパンッ!ガラガラガラッ!!
——光魔法で易々と切断してしまった。
「んなっ?!」
「なーんだ。やっぱ張りぼてだったのねー」
「一応、檻は檻だったけどね?でも、魔法がかき消されるって、多分、エンデルス君の気のせいじゃないかなぁ?」
それぞれにそう口にしながら、檻の外へと出る姉妹。
そんな2人の背中に向かって、エンデルス少年は狼狽えたような反応を見せていたようだ。
「な、なんだ……その魔力……」
ルシアにとってその問いかけは、まさに耳が痛くなるほど、これまで幾度も聞かれた質問だった。しかし彼女は、エンデルス少年のその問いかけを聞いても眉を顰める事なく……。むしろ、どこか嬉しそうな表情を浮かべて、短くこう答えた。
「うん?だって……私も勇者だもん!(まだ候補だけど……)」
そして、先を行く姉を追いかけるルシア。
その後にレオナルド、他2名も続くのだが……。その際、彼らの表情に苦い笑みが浮かんでいたのは、かつての自分の姿と、今のエンデルス少年を重ねていたから、なのかもしれない。




