-10.4-04 時間4
「早速、満身創痍ね?」
「こ、これしき……なんてことは……!」
森の中を移動し始める前に、大量の魔物たちに襲われて(?)、エンデルス少年のスタミナは早々に底を突いてしまったようである。それでも彼が立っていられたのは、身体強化の魔法を自身の身体に掛けていたためか。
そんな彼に対し、ワルツが絶望的な一言を追加する。
「あらそう。これから私たち、あの山を超えて、その向こう側に降りるつもりだったんだけど——」
「んなっ?!」
「——大丈夫だって言うなら、戻って休憩する必要は無いわね?じゃぁ、行きましょうか」
そう言って、ニッコリと笑みを浮かべるワルツ。
ちなみにこのとき彼女には、山を歩いて超えるつもりはなかったようである。荷物を届ける先は1300年後とはいえ、どこにアイテムボックスを埋めたのかを可能な限り早く伝えなければならなかったので、悠長に歩いて行くわけにはいかなかったのだ。
そんなワルツの言葉をエンデルス少年がどう捉えていたかは、彼のその真っ青な表情を見れば明らかだった。しかし、それでも彼は、諦めなかったようである。
「行くしか……ない……!」
時折よろけながらも、辛そうに森の中を進んでいくエンデルス少年。
その後ろ姿を見て、ワルツはメイド勇者に対し、問いかけた。
「……勇者?あれ、どうする?」
「……ワルツ様の思うがまま、お好きにすれば良いかと。煮るなり焼くなり、お任せいたします。私からは口出しいたしません」
「貴方、意外と厳しいわよね?」
「相手が相手ですので」
「まぁ、そりゃそっか……(未来のエンデルシア国王だし……)」
メイド勇者のレオナルドとそんなやり取りを交わしてから……。ワルツは勇者の隣にいたリアに対し、問いかけた。
「リア?あの山脈を越えたいんだけど、ここにいる全員を転移魔法で運べる?」
「転移……魔法……?」
「あー、貴女まだ、転移魔法の記憶を失ったまま——」
「これ……ですか……?」ブゥン
「そうそう!それそれ。多分、リアは、ここに来たことがなくて、転移先が分からないと思うから、とりあえずあの山脈の頂上に1回飛んで、その後でもう1回、向こう側に飛ぶって感じでやってもらえる?」
すると、リアは——
「はい……」
——と小さく答えた後で目を瞑ると……。持っていた杖を自身の身体で構えて——
「……じゃぁ、行くわよ!」きゅぴーん
「「「……えっ?」」」
ブゥン……
——転移魔法を行使したのである。それも莫大な魔力を伴いながら……。
◇
ズドォォォォン!!
「「「?!」」」
「到着……しました……?」
「貴女……実は記憶が戻ってるんじゃ……」
「…………?」ぽーっ
「……いえ。何でもないわ……」
その場にいた5人全員を、周囲の地盤や木などと共に転移させたリア。どうやら彼女の魔力は、カタリナの治療の影響か、昏睡する前よりも遙かに増強されてしまったようである。
そんな彼女たちがいた場所は——
ビュォォォォォ!!
——と冷たい風が吹き荒れる高い山の上で……。どうやら山脈のてっぺん部分にやってきたらしい。
そこは岩場の多い場所だった。前に行っても崖、後ろに行っても崖。横を見れば終わりの見えない細い稜線が続き、その表面を白い雲が撫でていく……。
「うおっ?!」びくぅ
先ほどまで辛そうに森の中を歩いていたエンデルス少年ですら思わず飛び跳ねてしまうほどに、高く切り立った場所だったようだ。
それがきっかけで彼は——
ガラガラッ!!
「うわっ?!」
——崖の上から足を滑らせてしまうのだが……。その直後、彼の身体はフワリと宙を浮かぶことになる。
そんな彼を見上げながら、ルシアが口を開いた。
「あっ……ついつい浮かべちゃったけど、そのままにしておいた方が良かったかなぁ?」
どうやらエンデルス少年を浮かべたのはルシアだったらしい。
「ううん。ありがとうルシア。ルシアがやってなかったら、私がやってたと思うわ?何だったら、そのまま放してもらえれば、私がキャッチするけど……」
「そぉ?はい」すっ
「うおっ?!」
「どうしたの?エンデルス。急に奇声なんて上げて……(私もまさか本当に放すとは思わなかったけど……)」
「ど、どうなってんだ?!これ……」
「宙に浮いてるだけだけど?それ以外に何か意味でもあるのかしら?」しれっ
そう言って首を傾げるワルツ。その際、メイド勇者たちが目を細めていたのは、今のエンデルス少年と、かつての自分たちの姿を重ねていたからか。
「さて、リア?ここが雲の中に隠れる前に、もう一度飛ばしてもらえるかしら?ここからじゃ人が住んでそうな町は見えないから……とりあえず、あそこに見えてる森の中に下ろしてもらえると助かるわ?適当で構わないから」
「ちょっ……ちょっと待て!まだ説明を聞いて——」
「……行くわよーっ!!」
ブゥン……
エンデルス少年の言葉を遮るように、やってきたのとは反対側の麓へと転移するリア。なお、2回目の転移魔法を行使した後で、彼女に対し、性格の変化について質問した人物はいなかったようである。
そしてやってきたのは、鬱蒼とした森の中。雰囲気としては、ファンタジーの世界にありがちな"妖精"が住んでいそうな深い森だったようだが……。そこに住んでいたのは、愛くるしい妖精とはかけ離れた者たちだったようである。
さて、どうしたものかのう……。




