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加護なしの第七王女ですが、前世が限界社畜だったので離宮暮らしが快適すぎます!  作者: 小狐


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第36話 前より少ない手間で済みましたが、向こうは少し大変そうです

 朝、庭に出るとフェルドが花壇の前でしゃがんでいた。

 苗の根元を指で確かめるようにして、一本一本に目を向けている。


 「馴染んできましたか」


 「葉が落ち着いてきました」とフェルドが言い、指を土から引いた。


 「植えた直後は苗が環境を測っているような状態です。この段階を越えれば、毎日細かく確認しなくてよくなります」


 「手が離れてくる時期ですね」


 「最初の整え方が合っていれば、根がそのまま伸びます。ここまでくれば、あとは季節に任せる部分が多いです」とフェルドが言い、隣の苗の葉先を軽く見た。


 「植えた時に土の状態を整えておいたので、今のところ問題はないです」


 「最初に丁寧にやっておくと、後が違うんですね」


 「毎回そうです」


 フェルドがまた苗の根元に手を伸ばすのを見てから、部屋へ戻った。



 ◇



 部屋に老執事が帳簿と台帳と書類の束を抱えて待っていた。


 「年次評価の提出書類が揃いました」と老執事が机の上に束を並べながら言った。


 「昨年と比べると、机の上がずいぶん違います」


 「書類が減りましたね」


 「2点が離宮の記録で代替できることになりましたので。照会の往復もありません。昨年は確認が4回ありましたが、今年は1回で済みます」


 目の前に並んだ書類の束は、去年より薄かった。


 照会のやり取りも、今年は起きていない。

 前世で言うなら、押印ラインが5つある申請書類を1枚に削減してもらったのに近い。

 書類の枚数だけでなく、処理のたびに頭を切り替える回数が減る。

 それが本当の楽になる。


 「前回よりずっと楽ですな」と老執事が言い、台帳を一冊開いた。


 「探し直す手間がなく、最初から揃っています」


 「出せるものがすぐ揃うなら、それで十分です」


 控えていたルナが少し前に出て、書類の端を揃えながら言った。


 「今日は朝から探し物がないですね。前はここで何度か言い直しがありました」


 「照会がないと、動きが止まらないからです」


 「それが一番助かります」とルナが言い、後ろへ下がった。


 老執事が書類をまとめ、王城の担当部署へ届けに出た。


 部屋が静かになった。

 

 手元に残った帳簿を引いて、今年の記録に目を通した。

 照会欄の記載が少ない。

 処理した件数は変わっていないが、行き来した回数が減っている。



 ◇



 しばらくして老執事が戻ってきた。

 

 「問題なく受け付けていただきました。担当の方から、記録の形式が分かりやすいとのお言葉もいただきました」


 「それは良かったですね」


 老執事が帳簿を閉じ、後ろへ下がった。


 少し経ってから廊下で声がした。


 「フェルマン様がお見えです。ご案内してよろしいですか」


 「どうぞ」


 フェルマンが部屋に入り、椅子の前で立ち止まった。


 「失礼します」とフェルマンが座り、少し間を置いた。


 「年次評価の提出書類は問題なく受け付けました。書類2点の代替も正式に通りました」


 「ありがとうございます」


 「それと、もう少しお時間をいただけますか」とフェルマンが続けた。


 「どうぞ」


 「他の宮の件ですが、対外対応の状況を少し申し上げたいことがありまして」とフェルマンが手元の書類に目を落としてから言った。


 「秋の行事に向けて準備が進んでいる宮もありますが、客を迎える段取りが揃わないまま進んでいるところがございます。確認が何度も行き来していて、書面が後追いになっているようです」


 「担当が変わるたびに、話が薄くなっているんですね」


 「おっしゃる通りです。表向きの受け答えはされているのですが、裏の整理が追いついていない状態で。対外的には少し不安定な印象になっています」


 整えていない場所から崩れる。

 客を受け入れる形だけ作っても、裏側の処理が追いつかなければいずれ表に出てくる。

 

 「秋の行事については、今年は少し規模が大きいとお聞きしましたが」


 「はい」とフェルマンが頷いた。


 「国が関わる季節の行事と来客対応が重なる時期でございます。王宮が中心になりまして、各施設への確認と調整が出ます。場合によっては、各宮の王族の方々に王宮への参集をお願いするケースもございます」


 「こちらにも、ということですか」


 「正式な参集命令が出た場合は、ということです。現時点では決まっておりません。ただ、そうなった場合にはご連絡が入ると思います」


 少し面倒な方向へ話が動き始めていた。

 王宮へ行くことになれば、準備が要る。

 ただ、今の時点でまだ正式に決まったわけではない。


 「正式に来たら、その時に考えます」


 後ろで控えていた老執事が少し前に出た。


 「秋の行事は毎年ございますが、今年は少し慌ただしそうですな。ただ、こちらは帳簿も書類の形も整っております。急に呼ばれても、準備に慌てることはないと思います」


 「それは助かります」


 「何か動きがあれば、事前にお知らせします」とフェルマンが言い、頭を下げた。


 「お願いします」


 フェルマンが書類をまとめ、部屋を出た。



 ◇



 ルナがお茶を持ってきた。


 「向こうは大変そうですね」と茶杯を置きながら言った。


 「整えていないと、行事の時期に一気に出てくるみたいです」


 「でも、こちらも呼ばれるかもしれないんですね」とルナが言い、少し間を置いた。


 「正式に来たら考えます。今はここを整えておくしかないです」


 「そうですね」とルナが言い、後ろへ下がった。


 窓の外で、フェルドが花壇の苗に目をやっていた。

 植えたばかりの頃より、葉の色が少し落ち着いている。

 根が土に馴染んできた証拠だった。

 

 離宮の中は整っている。

 ただ、王宮の方からはそのうち、大きめの波が来そうだった。

読んでいただきありがとうございます。

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