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加護なしの第七王女ですが、前世が限界社畜だったので離宮暮らしが快適すぎます!  作者: 小狐


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第31話 記録をつけ始めたそうですが、最初に迷うところはあるんですよね

 朝、庭に出ると老庭師のフェルドが花壇の前にしゃがんでいた。

 夏向けに植え替えた苗が、先週より地面に馴染んでいる。

 葉の立ち方が落ち着いていた。


 「根がついてきましたな」とフェルドが言いながら、隣の苗の土を指で確かめた。


 「あとは夏の暑さをどう乗り越えるかです。今週の水やりの様子を見てから、次の管理を決めます」


 「植えた後も、まだ続くんですね」


 「植えたら終わりではありません。最初の根の張り方が後に影響します。ここでしくじると、夏の終わりに一気に弱ってしまいます」


 フェルドはそれだけ言って、次の苗の根元を確かめた。


 部屋に戻ると、廊下で老執事が帳簿をめくっていた。


 「本日は予定通りです。フェルマン様が午前中にお見えになります。記録の件でご確認したいことがあると連絡がございました」


 「記録の件ですか」


 「詳細はお会いになってからとのことです」


 老執事が帳簿を閉じて廊下の奥へ向かった。



 ◇



 昼前に王城会計部門の上席文官フェルマンが来た。定期来訪と変わらない落ち着いた様子で「また伺いました」と言いながら部屋に入り、椅子の前で少し立ち止まった。


 「お座りください」


 「失礼します」とフェルマンが座り、手元の書類を一枚出した。


 「先週から、例の記録様式を試しに使い始めておりまして。つけてみると、一か所だけ現場で迷いが出まして」


 「どこですか」


 「保留にしていた案件が、あとから確定に変わったときの扱いです」


 少し言葉を整えるように間を置いてから、フェルマンが続けた。


 「保留のまま書いていた記録をどうするか、担当者のあいだで意見が分かれまして。保留の記録を残したまま新しく確定の記録を書くのか。保留の方に締めの印を入れてから新しい確定記録に移るのか。あるいは保留分を確定へ書き直してしまうのか。どれが正しいのか、書式に定めがないと気づいて」


 「なるほど」


 フェルマンが書類を机に置いた。

 保留が確定に変わるとき、旧記録の扱いをどう決めるか。

 前世で言えば、進行中の書類が結論に変わったとき、古い方をどう閉じるかという話だった。

 そのまま残すのか、完了の印をつけるのか、書き直すのか。

 最初に決めておかないと、使う側は毎回同じ場所で迷う。


 作る段階では見えなかったが、使い始めると出てくる部分がある。


 「最初に使うと、そこで迷いますよね」とリシェルは言いながら、手元の書面を広げた。


 「少し書き足した方が早そうです」


 老執事を呼んだ。


 「離宮では、保留が確定に変わったとき、記録をどう閉じていますか」


 老執事が少し考えた。


 「こちらでは対応が済んだ書類に完了の日付を入れて、別の綴りに移しております。元の書類は残す形で」


 「書式に定めていたわけではなく」


 「自然にそうなっておりました。やりながら積み上げてきたことです。ただ書面に定めておくと、後任の者が来てもすぐ分かります。今まではそれが必要なほど人の入れ替えが多くなかったということかと」


 老執事が廊下へ戻ると、ルナが様子を見に来た。


 「何かご入用ですか」


 「記録の話です。保留のままなのか確定したのか、書類を見て分かるようにする方法を考えています」


 ルナが首をかしげた。


 「それが分からないと、引き継ぎのとき困ります。同じ棚に入っていたら、どちらを確認すればいいか迷います。あと、終わっていると思って放置していたら、実はまだ保留だった、ということにもなりそうで」


 「そういうことです」


 前世で言えば、対応済みの案件と未対応の案件が同じ山に積まれている状態だった。

 見た目が変わらないから、都度確認しないと手をつけていいか判断できない。


 書面の末尾に2行を足した。

 保留事項が確定した場合、旧記録に確定の日付を付して締め、その上で新たな確定記録を起こすこと。

 書式の見直しは不要で、末尾に1か所足すだけで済んだ。


 フェルマンを呼んで書面を渡した。


 「こちらに2行足しました。保留が確定に変わった場合は、旧記録に日付を入れて閉じてから、新しい記録を起こしてください。両方が残るので後から追えます」


 フェルマンが書面を確認し、補足の部分を読んだ。


 「これなら現場でも迷いません。確定した日付が残れば順番も分かります」


 「使い始めると、最初にそこが出ます」とリシェルは言い、書面をフェルマンへ返した。


 「ご多忙のところ、少し時間を取らせてしまいましたが」とフェルマンが書面をたたみながら言った。


 「書状で往復するより早かったです」


 フェルマンが頭を下げ、部屋を出た。



 ◇



 後からルナがお茶を持ってきた。

 湯を注いで茶杯を置いてから、少し手を止めた。


 「フェルマンさん、また来ましたね」


 「そうですね」


 「でも今回はここで済みましたね」


 「渡した書式の範囲でしたから。ここで済むなら、その方が楽です」


 「また何かあれば来るんですかね」


 「来たら、その時に考えます。その先は向こうで回してほしいですが」


 ルナが「そうですね」と言い、出ていった。


 窓の外で、フェルドが花壇に水をやっていた。

読んでいただきありがとうございます。

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