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灯葉は黒い布を纏い、草原に立っていた。
黄金の太陽が空を飾り、大地には月が揺らいでいた。
地面は今何よりも曖昧で、境界線としての役割を失っていた。
吹く風は頬を濡らした涙を乾かし、そのたびに草原はざわついた。
ここが天国だろうか。
灯葉は歩いた。
自分の手を見てみると、否、手が無い。灯葉は本当の姿となっていた。そこに肉体は必要なかった。
黒い布をはためかせながら、灯葉は歩いた。
歩くにつれ、日も落ちて、風も弱まっていった。
風は止まった。
目の前に扉がある。
荘厳というよりどこか威圧的で、一歩を踏み出すことが難しかった。
この扉には、別に入らなくても良いのだ。
入れば、また喜びと悲しみが入り乱れる世界に逆戻りだ。
かと言って、入らなければこの中間世界に居続けることになる。
しかし、この世界は落ち着く。
大自然が、永遠に渦巻いている。
灯葉は暫く止まっていた。
考えた。
灯葉は、扉を開いた。
確かに向こうの世界は騒がしい。
正直、疲れる。
現に灯葉の心はもうズタボロである。疲れ切っている。
しかし、灯葉は扉を開いた。
彼は極めて自分勝手な理由で、選択をした。
単純である。
一人では寂しいから、開けたのだ。
やり直しではない。
終わりでもない。
続ける覚悟を決めたのだ。




