絶対的
リビアは煮えたぎるような怒りが少し晴れるのを感じた。
ひとまず、灯葉を地獄に叩き落とすことはできた。しかしまだ足りない。もっとズタボロにして、廃人になるまで気がすまない。
「その前に、君達だ。邪魔しないでくれるかな?」
リビアはルビーを放り捨てた。ルビーは血を吐いた。しかし光る眼光はリビアを鋭く刺していた。
「…気力だけは一人前だな」
リビアは空に舞った。
「もう少しいたぶってあげよう…おや」
無数の足音が聞こえた。軍が合流したのだ。彼等は馬に乗り、赤い反旗を翻していた。
そのうちの5人が先頭に並んだ。
「?なんだ」
リーダーと思われる男は、旗をぶんと振った。
「戦闘隊形、突」
5人の男は両手を胸にかざした。すると魔波は不規則に歪んだり戻ったりを繰り返した。
「面白い…」
バッと音がして、リビアの胸が燃えた。炎は瞬く間に体全体を覆い、皮膚を焼いた。リビアは少し驚いた顔をした。
「何だ、これは」
鋭い音が鳴り、両足が凍りついた。リビアは氷を壊そうと腕を振り上げたが、途端に彼女の体は水に包まれた。
「…!」
リーダーの男はニヤリと笑い、叫んだ。
「ガーネット、宝玉をこちらに投げろ!」
ガーネットは壊れた体を無理矢理動かし、宝玉を投げた。
「用意」
5人の男の中心に、光源が出現した。それは太陽のように明るく、見ただけで目が傷ついてしまうほどだった。
「雷槍」
次の瞬間、雷は放たれた。雷は宝玉を通過し、何十倍も鋭く、破壊力を増し、リビアに喰らいついていった。
空気は震え、視界がぼやけた。リビアは轟音と共に雷に撃たれた。
一瞬でリビアの体は焼け焦げ、目が裏返った。
この一連の攻撃の間に、新しく来た軍とリビアに敗れ倒れていた軍は、水に包まれ浮いているリビアの周りを円状に囲っていた。
抜かりなく、殺すために。
「戦闘隊形、極円」
囲う円陣の中心に、これ以上無いほどの魔波の歪みが現れた。狙ったのかどうか定かではないが、そこに宝玉もセットされていた。
体の痺れを感じながら、彼等は順調に魔波を歪ませていった。リビアに反応はなかった。
次の瞬間、リビアは目を開けた。
全魔術師が、呟いた。
「ドポカ」
遠くで凄まじい明るさの光が見えた。どうやらエネルギーの塊らしい。あそこが前線だろうか。
そんなことを思いながら、ムージュは隊長ザクロを見下ろしていた。
ザクロは瀕死の状態で、地を這った。
「ぐ…何故、こんなことを…」
「戦えないかな、と思ったからです」
ムージュはザクロを放置し、一人で歩いていった。ザクロは震える腕をムージュに伸ばした。
「ま、待て…」
「ん…あ、そうそう」
ムージュは立ち止まった。そして、振り返った。
「やはり、一流の暗殺者は誰にも姿を見られていない暗殺者ですよ」
「…はぁ…?」
「まあ休んでいてください」
「どこに行くんだ…」
「決まっているでしょう。戦争しに行くんですよ」
ムージュは歩き去って行った。
結局、ザクロは彼女が何を言いたかったのかわからぬまま、意識を失った。
「馬鹿な」
リーダーの男は高揚しているのか、半笑いで応えた。
「何いってんだよ。相手は悪魔だぜ」
彼は長剣を力強く握り締めた。
「俺達は神に喧嘩売ってんだよ」
リビアは変わり果てた姿で笑っていた。
彼女は巨大な蜘蛛になっていた。人間より何倍も大きく、学校ほどの大きさになっていた。
そこら中に、リビアの焼け焦げた顔面が張り付いていた。
「哀れな人間め、幼稚さが露呈したな!私は悪魔だ!全知全能の悪魔だ!人間の姿なんて、仮のものでしかないのだよ!」
しゅるしゅると音を立てて、蜘蛛の腹から糸が出てきた。その糸は重なり、リビアの姿に成った。
そのリビア状の糸は喋った。
「さあ、どうします」
にたにたと気持ちの悪い笑みを浮かべながら、彼女は近寄ってきた。
「やることは変わらない、戦闘隊形を組め!所詮は的がデカくなっただけだ!」
決死隊が先陣を切り、怪物と化したリビアに突撃していった。
「脚切ってバランス崩すぞ!」
「…無駄なことをする」
途端に蜘蛛の背中がぱっくり割れ、大量の糸が四方八方に撃ち出された。それらは地面に重なり、人間状態のリビアを形作っていった。
「何でしたっけ…戦闘隊形?あれは、なかなか面白い戦い方ですね」
ガーネットは馬に乗りながら、まさか、と呟いた。
「…私もやってみましょうか」
糸で作られたリビア達は、両手を胸の前で組んだ。
「戦闘隊形、護」
魔波ではない何かの力が働いた。間違いなく悪魔の力だ。
その力は瞬く間に、真っ赤な壁を造った。ドーム状にリビアと軍隊を覆ってしまった。
外の世界から、この場所を遮断してしまったのだ。
「逃げられると思わないで下さいね」
リビア達はまた手を組んだ。
「悪魔の力は卑怯ですかね。魔術でも使って見ましょうか?」
蜘蛛は背中から更に大量の糸を出し、大量のリビアを作った。
「戦闘隊形、極円」
レッドカーテンに仕切られた世界で、数え切れないほどの悪魔達が魔波を歪ませ始めた。
「おい糸切れ、糸切れ!!」
「フフ、良いですね。1523人、十人ずつ殺していってあげましょう」
リビアは愉しんでいた。
「まず十人」
音もなく、何人か倒れた。
「おい早くこいつを殺せ!!」
「どうすりゃ良いんだよ!」
「…十人」
人が、パタパタ倒れた。
人々は半狂乱で馬を走らせ、糸のリビアを切っていった。しかし切っても切っても、新しいリビアが作られるだけだった。
一人の男が、震えながら突っ立っていた。
「…俺ら、もう終わりなのか」
「何言ってんだよ!」
リビアは暫く辺りを見回し、フー、と息をついた。
「面倒ですね、二十人」
諦めていた男は、棒立ちのまま倒れた。激励していた男は、悟ってしまった。
ここで死ぬのだ、と。
「さあ次は…」
ピシ、と音がした。
全員が止まった。それほど大きい音だった。
リビアは一点を見つめていた。
赤い壁に、ひびが入っていた。
それはどんどん広がっていき、遂に壁は砕けてしまった。
「…取り敢えず、成功といったところかな」
誰かが居た。
そこに、一人の男が居た。
「久し振りじゃないか、リビア」
リビアは冷たい目線を男に送った。
「これはこれは、いつかの魔術学園の出来損ないじゃありませんか」
レベオは寂しげに笑った。




