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君は悪魔の成り損ない  作者: ヨダカ
悪魔の目覚め
33/53

愚か者達  

俺はガリヤ城の目の前で立っていた。

一人、人が来た。赤い布を纏っている。

「約束通り来たな、悪魔よ」

俺は頷いた。

「ドロイトも…ドロイトの抜け殻も連れてきた。治してやってくれ」

奥から十人やってきて、俺の胸にある正方形を軽く握った。激痛が走った。

「悪いが、このままついてきてもらう。少しでも変なことをしたら、このコアを破壊してお前を殺す」

俺は頷いた。

「来い」


いつか会議をしていた部屋に俺は連れてこられた。あの時と同じメンバー、いや、ドロイトと…『歴史』とリビアさんがいない。ドロイトは別として、『歴史』とリビアさんは欠席か。

ケデロさんも居た。神妙な表情を浮かべていた。

「灯葉君…」

俺は席に案内された。

「…?座ってもいいってことですか」

「そうだ」

俺は座った。普通こういうのって、座るのは駄目なんじゃ?

『司会』が口を開いた。

「まさか、こんな形で再開することになるとはな。では、会議を始める」

『空』は立ち上がった。

「聞きたいことはいくらでもあるさ。君は暗殺部隊と接触したか」

メンバーは驚いた様な表情を見せた。どうやらいきなり切り込んだ質問をしたらしい。

「しました」

「名は」

「ム、ムージュ」

『空』は頷き、座った。『生物』が項垂れた。

「はあ、やはり暗殺部隊が関わっているのか?」

俺は眉をひそめた。

「どういうことです」

「君は国に狙われているんだよ」

「なんで俺が…?」

『司会』が立ち上がった。

「シェブナ街での惨劇。悪魔が引き起こしたものだ。それは君も見ただろう」

俺は頷いた。

「我々は、その惨劇を引き起こしたのは国だと考えている」

「…えぇ?なんで…」

ケデロさんが口を開いた。

「あの惨劇の後、死体は国が回収した。しかしある情報が入ってきてな」

「情報」

「あぁ。それが、国はその死体を使って怪しい動きをしているというものだ。勿論全て信用しているわけでもないが…最近、どうにも国が怪しくてな。何かをしようとしているのかも知れない」

何かを?

一体それは何なんだ。

「つまり、国は悪魔と手を組んで惨劇を引き起こしたというのだ。それは見過ごせん」

「俺が狙われているのは、その現場を目撃したからということですか」

ケデロさんは頷いた。

「そうだ」

「昨日の騎士達も…?」

「国のものだろう」

「ド、ドロイトは…?」

「私が騎士達を見つけると、何故かドロイト君は置いていったのだ」

これは本当に信用できる情報なのだろうか。俺はなんにも考えられなかった。そもそも何が起こっているのかわからない。

「じゃあ、国に聞かなきゃ…」

「聞いたさ」

『植物』は暗い表情で口を開いた。

「その結果、『歴史』は死んだんだよ」

強い衝撃を受けた。俺は空いている席を見つめた。空虚な空間がそこに佇んでいた。

「じゃあリビアさんは…」

「彼女はわからない。死んでいるかもしれないし、生きているかも知れない。情報が入ってこないんだ」

大丈夫だろうか。不安だ。

その時、ばたんと扉が開いた。

「…あ」

イミカだった。

俺は危うく席から離れそうになってしまったが、なんとか堪えた。

「イミカ!」

イミカは無表情で部屋を眺めた。

「その…灯葉君を借りたいんですが」

ケデロは立ち上がった。

「炎の魔女!リビア君は無事かな」

イミカは頷いた。良かった。どうやら大丈夫らしい。

『司会』は床を杖で軽く叩いた。

「灯葉君は今はここから離れられないのだ。すまないが、もう少し経ってからにしてくれ」

イミカは軽く震えると、渋々といった表情で頷いた。そして扉を閉め、帰っていった。

「…なんの用だったのだろうか…まあいい。では会議を再び始めよう」


イミカは城から出ると、悩んでいた。

どうしよう。

もう痛いのは嫌だ。

リビア様にもっと愛されたい。

このまま帰ったら、リビア様に殺されてしまう…!

イミカは恐怖に震えた。もう拷問は嫌だ。ずっと幸せになりたい…。

そうだ。

イミカは天を仰いだ。

「全員壊しちゃえば良いんだ」


「もしこの惨劇を国が起こしたと言うのなら、国はいったい何が狙いだ」

『司会』はハキハキ喋った。全員が頭を抱えた。何故って、全員の専門外だからだ。

『生物』が口を開いた。

「これからは、戦術の専門家も作った方が良さそうだなあ」

俺は一つ疑問があった。

「あの、国王とかっていないんですか」

全員首を振った。

「じゃあ、さっきから言っている国って、どこのことですか?」

『植物』が俯いたまま答えた。

「王国アラム。…いや、『元王国』アラムか。昔はこの世界にも王は居たんだがな」

「そこが国」

「そうだ。王はいないが、王の代わりなら幾らでもいる。アラムはこの世界で一番大きい国でな。権力も兵力も一番大きいんだ。この世界を間接的に支配している」

「はあ…そこが怪しいと」

次の瞬間、ドオンと轟音が轟き、空気を揺らした。

「何だ…!」

グラリと大地が傾いた。

「城が砲撃を受けた!総員戦闘態勢に入れェ!!」

ケデロはありったけの声で叫び、室内から出ていった。

「戦闘なんてできねぇよ!」と『生物』は叫んだ。

俺は急いでドロイトを探した。

「ん…何?何が起こったの…?」

居た。部屋の端でうずくまっていた。どうやら眠りから覚めたらしい。

「ドロイト、いきなりで悪いが脱出するぞ」

俺はドロイトを抱えた。

「えっ、何?」

俺は窓ガラスを割って、外に飛び出した。

「…イミカ!!」

そんな。イミカがやったのか?イミカは眼光をギラつかせ、俺を睨んだ。

「死ね…!」

両手を突き出す。同時に魔波が凄まじい勢いで歪み始めた。とんでもない魔法が来る。避けなければ…

しかし、魔波の歪みは一気に衰え、消えた。

「…え?」

俺は着地した。幸い、骨は折れなかった。

「イミカ、どうしたんだ」

イミカは俯いて、両手を突き出したままで居た。


嫌だ。

殺せない。

でも殺さなきゃ、殺さなきゃ、殺さなきゃ愛してくれないから…

駄目だ。腕の力が抜ける。

リビア様、ごめんなさい。私が出来損ないで。私は貴方になにも応えられない…。

『イミカ』

私は顔を上げた。声が聞こえる。リビア様の声だ。

『失望させるなよ』


リビアは両手を交差させた。

「鏖火」

大気が渦巻いた。

…何だ、魔波の歪みが確認できない!

次の瞬間、渦巻く空気は炎を帯び、焼け付く紅を荒らし焦がした。

炎旋風は重鉄槍のごとく天を穿ち、燃え盛りに盛った。

「おおっ」

ドロイトを逃がそうと、俺は有刺鉄線で壁を作った。しかし数秒も保たず、有刺鉄線共は蹴散らされてしまった。

「畜生」

俺は瞬く間に炎に覆われた。体ごとコアが焼かれる。

悲鳴は豪炎に掻き消される。

エンジン音を鳴らし、俺はエネルギーをイミカにぶつけた。イミカは吹っ飛んだが、空中で浮いて留まった。心做しか火力が下がった。

「イミカ!」

ブン、と何かが飛んできた。大きいハンマーだ。縄がついており、イミカにハンマーが直撃するとともに縄で縛られた。

イミカは地面に堕ちた。

今のはケデロさんがやったらしい。

炎旋風は消滅した。

俺は隙を与えず、有刺鉄線を伸ばした。コアの間近で止めた。

イミカは地面に倒れ伏し、泣いていた。

「ごめん…ごめんなさい…ごめんなさいリビア様…私には出来ません…殺せません…」

ケデロは急いで近づき、傷がないか調べた。流石というべきか、酷い傷は見当たらなかった。

「どうしたんだ、なんでこんなことを」

ケデロは動転しているらしく、震えていた。

イミカは首を振った。

「言えない。言わない」

「どういうこ…」

消えた。

何かが消えた。

なんだ。何が消えたのだろうか。

そうだ。

生に対する希望だ。

俺は動くことすらできなかった。

ケデロさんはなんとか立ち上がり、武器を構えた。


解る。

理解した。勝てないと。殺されると。

それでも、彼らを護らねばならない。私は大槌を構えた。

「どいつも…こいつも…」

蛇に睨まれた蛙という言葉すら生温い。

何故?

何故貴女が?

そんなことは置いておこう。

今はただ、破らねば、この状況を。

歩いてきた。

リビアが、無表情で歩いてきた。白いローブとマントをはためかせ、歯をぎりぎりと食いしばっていた。

「何故是迄の力を…?」

問い掛けは、届かなかった。

この世で最も黒い眼差しが私に向けられた。

「イミカ君」

冷たい声が聞こえた。

イミカは震えていた。

「ひっ…」

「今のうちに、心を決めておいた方が良い」

リビアは髪を掻きむしった。美しい髪は絡まった。

「きっと私は、君に対して手加減出来ないだろうから」

イミカは泣いていた。だというのに、口元は微笑んでいた。

「ケデロさん。貴方に興味は無い。ただ、先程イミカを傷つけてしまった…」

リビアは胸元を抑えた。そして、歩みを止めた。

「拷問もなしに、一瞬で殺してあげましょう。そしてその前に」

リビアは白濁した憎悪の目を灯葉に向けた。

「灯葉。お前が先だ。お前はただでは終わらせないぞ、もっと苦痛が必要だ…」

灯葉君は、固まっていた。眼の前の状況を理解できていなかった。

リビアは私に目を向けた。

「さあ、退いてください。先に灯葉君を壊したいので」

私は覚悟を決めていた。仁王立ちになり、四肢に力を込めた。

「悪いが、その気は無い」

リビアは頭を掻きむしった。頭から血が流れ、口元からも血が覗いた。

「分かった、分かった、あぁ分かった」

次に顔面を眼球ごと手で掻きむしった。目玉はぐちゃぐちゃと不快な音を出して機能を失った。血だらけになった。

「わかった。わかりました死に際に焼き付けておいてください」

紅一色の顔でリビアは吠えた。

「純正の悪魔の姿を!」

白いローブを突き破って、黒い羽が生えた。禍々しく光り、リビアの背中は異常に膨れ上がった。

両腕で自分を抱き締め、発作のように高笑いを吐き出した。

「君達人間の、限界のその先を」


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