破滅の予兆
夜、私は一人物思いに耽っていた。
隊長のあの言葉が、未だに忘れられない。
私のやっていることは、間違いなのだろうか。
暗殺。まあ、人を殺すことだ。悪い人間を殺すことだ。なんの罪もない人間を殺すことはない。
では、あの男に罪はあったのだろうか。
…。
ある。国の人が、あると言っているのだから。あるに決まっている。
「不安だ」
彼は言った。
何だ、と私は首を傾げた。
「君が何を不安がる。最強の一角を担っているというのにそんな心意気ではこちらが不安だ」
彼は首を振った。
「俺の部下のことだ、ケデロ。暗殺部隊に属しているのだがね。名をムージュという」
「ムージュの、何が不安なんだ」
「彼女はね、国に育てられたのさ。暗殺のスキルのみを叩き込まれてる。学も全く無い。自分の意思も全く無い。操り人形みたくなってしまっているのさ」
私は水を一口飲んだ。
「何か忠告でもすればどうだ。注意とか」
「国に怪しまれるからな、よっと」
彼は立ち上がった。
「…君。それはつまり、国を疑っているということかね」
私の問に彼はニヤついて、頷いた。
「多少ね」
頭に鈍い衝撃が走った。
前方に、受け身も取れないまま吹き飛んでしまった。
非常に痛い。
「…あ…く…」
私は立ち上がった。相手の背丈176センチメートル程。男。
「…何者だ」
男は背中に下がっている余りにも大きい大斧を、ゆっくりと抜いた。そして、呟いた。
「こちらは革命軍だ」
「…武器を捨てろ。今なら間に合う」
クラクラする頭をなんとか抑え、相手を見つめた。
「嫌だね。殺すんなら、早く殺してくれよ」
「国から許可が降りていない」
男は眉をひそめた。
「はあ?死にそうだってのにか?」
「そうだ。罪なき人は殺せない」
男は猪のように走りかかってきた。ぶん、と後ろに大きく、鋭く振り被り、私を叩き斬らんと大斧を振った。
…速い…!
ドッ、と胸に大きな衝撃が走った。
「がぁ…」
後方に10メートル程吹き飛ばされた。危ない。もう少しで柵に激突するところだった。
「く、はあ…」
私はなんとか立ち上がった。
「おお、すげえ服だな。研いであるってのに」
「特注の…防護服だからな…」
男は大きく、担ぐように大斧を構えた。月光の光を帯びて、つらりと輝いた。
「俺ぁ革命軍だぞ。殺さんで良いのか」
「え、革命軍?」
あぁ、なんだ。
革命軍だったのか…。
「…ならば斬っても良いな」
持ち手にふわりと、布のように手をかけた。
昔々、『江戸』という男がこの世界に来たとき、伝えていった剣技らしい。
「ようやくやる気か」
男はさらに大きく、屈んだ。
「…単純な疑問なのだが」
「あ?」
月光が一瞬、世界を染めた。
「人を殺すのに、そんなに大袈裟な構えが必要なのか」
…さあな、と男の口から言葉が漏れた。
瞬間、大地は抉れ、男は獣よろしく飛びかかってきた。
やはり大袈裟なのはいけないな。
太刀筋がわかってしまう。
「革命軍。厄介なのが出てきたな」
翌日、隊長は私に話しかけてきた。
「厄介」
「そう。厄介だ。何かが起こる前兆だ」
隊長は死体を覗き込んだ。
「しかし綺麗な殺し方だ。どうやった」
「飛びかかってきたので」
男の死体は笑っていた。何かを確信したような笑みだった。
「体の下を潜りながらアキレス腱を斬って、後ろから首を刎ねました」




