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君は悪魔の成り損ない  作者: ヨダカ
悪魔の目覚め
26/53

少し戻った日常 

今日は宿に泊まることにした。

「…しかし、俺が悪魔か…」

まさかこんなことになっているとは。

俺は部屋に入り、目深に被った帽子を取った。レベオさんがくれたのだ。変装用にとのことだが、申し訳程度のものだ。

あの後、レベオさんは少しのお金をくれた。ドロイトもお金を持っていたので、取り敢えず暫くは大丈夫そうだった。

クルル、と音がなった。ドロイトからだ。

「お腹すいたか」

ドロイトは起き上がった。サラサラとした長髪が揺れた。何だかドロイトじゃないみたいだ。臆病にもなってしまったし。

「…ちょっと空いた」

またクルクルとなった。

「…本当にちょっとなのか」

ドロイトは俯いた。

「とても空いた」

俺は再び帽子を被った。

「ちゃんと言うんだぞ、そういうことは」

銀貨を握りしめた。金属の感触は冷たく肌に染みた。


「そういえば、食事には詳しかったよな」

街をコソコソ歩きながら俺は言った。

「ちょっとだけ…ねぇ」

何だ、と俺は振り向いた。ドロイトは不安そうに辺りを見回していた。

「手、繋いで」

俺は不安になったが、手を繋いだ。

「怖いのか」

「だって、…暗殺の人、どこに居るのかもわからないし」

言われてハッとした。確かにそうだ。俺は辺りを見回した。人、人、人。

この中に、死神は紛れているかもしれない。

俺も怖くなってしまった。

「だ、大丈夫だ。多分」

道行く人びとが全員、俺達を見ているような気がした。


「この店」

ドロイトは止まった。

「いい店なのか」

ドロイトは思い出、と頷いた。


買ったパンを、帰って机の上に置いた。

「食べようか」

いただきます、と呟き、一口食べた。

…硬。

ギチギチとなんとかパンの皮を歯で突破すると、柔らかい繊維の部分に突入した。外側の部分とは打って変わって、綿菓子のような、それでいてある程度の弾力があるものだった。

「…おいしい」

ドロイトは呟いた。

「良かった」

そのまま無言で食べ進めた。食べ終えた時点で、気がついた。

「そういえば、ドロイトのリュックの中に食料あるんだったな」

ドロイトはまだ食べていた。口いっぱいにパンを頬張り、コクコクと頷いた。

それを飲み込むと、ケホケホと咳き込みだした。

「ああ、ゆっくり食べれば良いものを」

俺は急いでリュックから水筒を取り出しドロイトに渡した。

ドロイトは二口程飲むと、フーっと息をついた。

「危なかった」

「馬鹿か」

ドロイトはくすっと久しぶりに笑った。

思う程久しぶりでもないのだろうが、何だかとても嬉しかった。


「ドロイト」

「何」

「…邪魔だ」

夜、二段ベッドの一段目にドロイトと俺が居た。

「一段目が良いのか」

ドロイトが首を振った。

「怖い」

「怖い…どういう感じなんだ」

ドロイトは俺の胸元あたりを見つめた。

「たまにあるでしょう?シミが人の顔に見えたり、風の音が人の声に聞こえたり」

俺はあるな、と言って頷いた。

「それがずっと聞こえるの」

ずっと。

「子供の泣き声とか、女性の叫び声とかに聞こえて…」

ドロイトは手を握る力を強めた。

「それで、あの光景がふとした瞬間に浮かんできて」

「…わかった、恐怖だとか不信感だとかが倍増して出てくるんだな」

ドロイトは頷いた。

「…そりゃきついな」

どうにかならないものか、と考えた。


「灯葉君、何か話ない?」

え、とちょっと戸惑った後、ケデロさんのことを思いついた。

「…ケデロさんに、会っても大丈夫かな。一応ケデロさんって国の人だろ。…あの人が俺を殺そうとするかな」

ドロイトは俺の胸に額をくっつけた。

「ん…何があるか分かんないからね」

「そうだな。…なあ、いくらなんでも近いぞ。性別が無いとはいえ」

それにドロイトは、どちらかというと女性に近いじゃないか。

「…離れたくない」

俺は妙な気持ちを抑えながら、まあいいや、と思った。

妙な気持ち、というのは性欲だろうか。いや、なにか違うような気がする。

もしくは、もっとこう…なんだ。これは…

…もしや、母性か?



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