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君は悪魔の成り損ない  作者: ヨダカ
プロローグ
16/53

魔術訓練と少しの陰

バンバンと扉が叩かれる音で目が覚めた。

俺は今宿に泊まっていた。外が明るい。もう朝か。

「誰だ」

急いで薄いベッドから飛び上がり、扉を開けた。

ケデロだった。

「あ、ケデロさん」

「灯葉君、訓練だ!」

「げ、元気ですね」

「あぁ当たり前だ。とにかく外に出ろ!」

「ちょっと待って、義足が外れかけてる…」

義足を丁寧にはめ直すと、外に引っ張り出された。

余り眩しくない。そういえば、こちらの世界では何が地上を照らすのだろうか。こちらでは太陽だが。

「訓練だ!」

「それは聞きましたよ」

「早速ガリヤ城に行くぞ!」

…寝起きでこのテンションはきつい。

「あの二人に稽古をつけてもらう」

ケデロの視線の先に、あの二人の門番が居た。

「あの、訓練って…?」

「格闘技と魔術を習ってもらう!基礎的なものだがな」

「はい」

「お前、悪魔を殺したいんだろう!」

そう言われた瞬間、あの光景がフラッシュバックした。

「…はい」

「ならば必要なことだ。とにかく本気で学べよ!」

俺は頷いた。

ザワザワと草を踏みしめながら、二人の門番が近付いてきた。

「それでは早速、始めましょうか」

今気がついたが、どうやら門番の内の一人は女性らしい。男女のペアという訳だ。

「貴方は左目で魔波が見える、という話を聞きました」

大盾を持った門番が言った。こちらは男性だ。

「それなら、魔術敵性は高いでしょう。なので今回は、魔術訓練を行います」

槍を持った門番が言った。こちらは女性だ。

「うむ、二人共頼んだぞ!私もこれから自分を鍛えるのでな!」

ケデロがいつになく活き活きとした表情で言った。

大盾は笑った。

「師匠は、本当に鍛えるのがお好きなのですね」

槍も続いて言った。

「この話になるといつも目を輝かせて」

「当たり前だ。昨日よりも、今よりも強くなっていく。成長は無限ではないが確実だ。年になれば体力は衰えるが、その分技術が増す…あぁ、今日はこの辺にしておこう。では私は行ってくる!さらばだ!」

そう言ってケデロは走って行ってしまった。騒がしい人だ。

やがて姿が見えなくなると、急に空気が冷たくなったような気がした。

「さて、お前の訓練だが」

冷たい声で大盾が言った。

「…え?」

「え?じゃないですよ。お話聞いてましたか?」

槍も貶してきた。

「あ、聞いてますよ。魔術訓練をするって…」

門番達は、頷いた。

「師匠はな、気に入っていたぞ?お前の事を」

「な、なんででしょう」

「私が聞きたいくらいですよ」

…なんでこんなに険悪なムードなんだ?

「…何が言いたいんですか…」

「…うむ、正直に言おう」

大盾が肩をすぼめた。

「嫉妬している」

「…なぜ?」

「貴方が何の理由もなく、師匠に気に入られていることにですよ」

「あの、そもそも俺って気に入られているんですか?」

そう言うと、大盾は不思議そうな顔をした。

「…そういえばそうだな」

「え?」

「まぁ、なんとなくの雰囲気だ。それでわかるんだよ」

…そんなんで決めつけて良いものなのだろうか。

「この訓練、厳しく行かせてもらう」

「はぁ」

鋭い拳が飛んできて、俺の顔に命中した。

フードで顔が見えないが、なんだか凄い視線を大盾から感じた。

「返事ははい、だ」

「は…はい」

この世界では、体罰は違法ではないらしい。

「手を前に突き出して…」

「はい」

槍が魔術を教えていた。大盾は、魔術は得意ではないのかもしれない。

「そして空気を掴む感じで…」

「…?はい」

俺は空気を握った。

「…何してるんです?」

冷たい声で槍が言った。

「え、空気を掴もうとしました」

「それは比喩ですよ。実際に空気を掴む訳じゃありません」

「じゃぁどうやって?」

そうですね、と槍は一瞬思案した。

「なんかこう、空間を捻じ曲げようと考えるというか、身体を力ませるというか?」

なんだそりゃ。

どうやら彼らには第六感のようなものがあるらしい。俺には理解することができなかった。

「魔波の歪みを、体感させてみたらどうだ」

大盾が口を挟んできた。実際に体感してみることで、なんとなくでもいいから理解してみる、というわけである。

「じゃ、ちょっと後ろを向いて」

「はい」

俺は回った。

肩に手が触れた。槍の手だ。門番なだけあって、予想以上に力強かった。

次の瞬間、身体の毛穴という毛穴がざわついた。なんだか血管から電流が走ったような感覚で、ゾワゾワとした。

「うおっ」

「あ、感じました?歪み」

俺は頷いた。

「その感覚を忘れないでください」

では、もう一度。と言われた。

もう一度と言われても…と思いながら、俺は左目で見る魔波がいつもより鮮明になっていることに気が付いた。

「あ」

なんとなく、行ける気がする。

何かを成し遂げるときは、意外に自分でもわかるものだ。

俺は何かを掴んだ。冷たくてぐにゃりとしたものだ。なんだか生卵みたいで気味が悪い。

それを、捻り曲げた。

すると地面の芝に、小さい炎がついた。

「やった」

「あ、できましたね。大分小さい炎ですが」

槍はそれを踏みにじって消した。少し残念な気分になった。

「今のが最も基本的な魔術、炎です」

「なるほど」

「熟達すれば炎の形を変えることも可能になります」

「というと?」

槍は両手を広げた。

手と手の間を、炎が紐状になって垂れ下がった。

「おおっ」

「面白いでしょう」

槍は炎をふらふらと振ってみせた。炎は途端に消えた。

「ちょっと疲れます」

「へぇ」

槍はため息をついた。

「見世物じゃないんですよ?ほら、とっとと練習を始めて下さい。付き合ってあげてるんですから」

それからは炎の形を意識しながら魔波を歪めるという、繊細な作業が続いた。

俺はどうもこういった作業が苦手なので、よく集中力がきれた。

その度に罵声が飛んできたので、かなり疲れた。と思う。

三、四時間経っただろう。

遂に、炎が紐状に変化した。

紐というより糸と言った方が良いかもしれない。そのくらい細く弱々しいものだったが、とにかく成功した。

「で、出来た!」

「あ、そうですか。待ちくたびれましたよ」

空をぼーっと見つめていた槍が言った。

「…何を見ていたんですか」

「何って、空ですよ。雲だとか鳥だとかが居て、飽きないでしょう?」

俺の訓練風景は、雲だとか鳥だとかに負けたのか。

「今日はこれで終了です」

扉の前で律儀に門番の仕事をしていた大盾が歩いてきた。

「お、やっと終わったか。転移者にしては遅かったな」

俺はその言葉に疑問を持った。

「え?普通転移者の方が魔法の習得は遅いんじゃないんですか?」

大盾は首を横に降った。

「いや、転移者の方が魔術の習得は早い。しかし、ならば魔術の扱いも転移者の方が上手いのかと聞かれると、そういう訳ではないんだ。不思議なことだがな」

変だな、と俺は思った。

「とにかく、今日はこれで終わりです。今回のことを応用すれば」

再び槍の手と手の間に炎の紐が垂れ下がった。

「棘を生やして殺傷能力を高めたり」

…炎の紐に、棘が生えた。

「あっ」

「ん、どうかしましたか?」

「…なにもないです」

心臓の鼓動が高まってゆくのを感じた。

嫌な汗が吹き出た。

「…?まぁいいです。今回のことを応用すれば、殺傷能力を高めたり、防御力を高めたりと色々魔法に細工できるということですよ。今回覚えたことを忘れないで下さい。無駄な時間にしたら承知しませんからね?」

「はい」

それじゃあ、帰ってください。

そう言われた瞬間、俺は走ってその場を離れた。やっと忘れることが出来ていたのに。

纏わり付く度に、頭を振って振り払った。まさかこんなことで思い出すとは思わなかった。

俺は無我夢中で走った。

そういえば俺には帰るべき場所が無い。イミカも居ないし、宿ももう泊めてくれないだろう。

何処に行けば良いのか、わからなくなってしまった。

「…絨毯を探そう」

イミカと俺はあの絨毯に乗って来た。

あの絨毯がここに残っていれば、絨毯の近くで待っていれば良い。イミカは絨毯を取りに来るはずだ。しかしその絨毯が無ければ…。

ケデロに頼るしかない。

あの記憶を振り払うように、矢継ぎ早に今現在のことについて考え出した。

しかし考えても考えても、あの記憶は染み付いたままだった。

周囲の雑音が騒音に変わり始めたその時、誰かが俺の肩に触れた。

恐る恐る振り向くと、そこには淡い水色の髪をした、ショートヘアーの中性的な見た目をした人物が居た。

俺はその人物を知っていた。

「…『心理』の席に座ってた…」

その人物は、自分の顔に微笑みを貼り付けた。

「やっぱり、複雑だね」

声を聞いても尚、性別を判断できなかった。

手を、差し出された。

「ドロイト。よろしく」

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