04
「クウちゃん、そっち持って」
「了解」
あれからというもの、クウナとフウナさんはより仲良くなったように見える。
眺めているだけでも面白い、なにかのきっかけで変わるということがわかったから。
ただこうして眺めていると問題も起きるもの、私の椅子に座った彼女がすぐ拗ねてしまう。
「あの、サヤカさんは私を見るべきだと思うんですけど」
「至近距離で見つめていたら怖いじゃない」
見ていただけで文句を言われるのは困ってしまうものだ。
「サヤカ、今度3人でどこかに行こうよ」
「フウナさんが許すの?」
「大丈夫、フウは優しいから」
行くとなったらどこだろうか。
この前のクレープは美味しかったけれど、あまりお金を使う場所には行きたくなかった。
緊急の時になかったりすると困るわけだし、できることなら歩く程度に留めておいてほしい。
「ちょっと待ってください、どうして当たり前のように私が除け者なんです?」
「だって宮本はサヤカに迷惑かけるからね、すぐ拗ねたりするし」
「し、しませんよそんなこと、私はサヤカさんに1度も迷惑をかけたことがないです」
「「本当に?」」
「わっ、サヤカさんまでなに言ってるんですかー!」
困ったような顔も可愛い。
意地悪するのもあれなので宮本さんも行けるように頼んでおいた。
クウナは意地悪というわけではないから「サヤカが言うなら」と認めてくれて。
「牛若さん、クウちゃんを取らないでね?」
「大丈夫よ、あなたたちの仲は本物だわ」
「えっ、あ、うん……だったら嬉しいかな」
宮本さんを相手にしていた時とは反応が明らかに違った。
私もそういう風に思えるような相手が見つかればいいとまた思った。
「ああいうのいいわよね」
「確かに仲がいい友達がいるのは安心できますもんね」
「私も自分と合う子と出会いたいわ」
「私がいるじゃないですか」
「本当にあなたがそうなのかしらね」
もしそうなら探そうとしなくても済むわけだけれど。
すぐに拗ねてしまう以外はいい子だから嫌というわけではない。
最低限の常識もあるし、なにより自分といて楽しそうにしてくれるのが良かった。
「サヤカさん、ちょっと教室を出ませんか? 人がいないところに行きたいです」
「別にいいけれど」
連れて行かれたのは教室から少し離れた空き教室。
残り10分ぐらいのためあまり余裕はないが、なにがしたいのだろうか。
「すみません」
え、と言葉を吐き出す前に抱きしめられて少し後ろに後ずさる。
「……嫌なんです、他の人と仲良くしているところを見るのは」
「あのふたりの間に入れるわけがないでしょう?」
「万が一ということがあるじゃないですか、チアキちゃんとだっていてほしくないレベルですよ」
出入り口の扉の前に座って彼女には自由にさせておいた。
これで満足できるというのなら構わない、なんのパワーがあるのかはわからないけれど。
「温かい……」
「生きているもの」
この距離感はおかしいのかもしれない。
それこそクウナとフウナさんレベルだったらするだろうぐらいの行為。
「それにいい匂いですし……」
「楽しいの?」
「楽しいというか幸せです」
抱きしめれば私も幸せな気持ちになれるとか考えて、それでも抱きしめることはしなかった。
私はこの子のことを好きでいるわけではない、こういう行為は好きでもなければしてはならない。
それならこの子は私のことが好きなのだろうか? 言動だけで見ればそのようにも見えるが。
「これから休み時間はずっとこうしていたいです」
「毎時間は無理よ、たまになら許可してあげるわ」
「いいじゃないですか……電話だって結局かけていないんですから」
「だからと言いたいの? それは少し卑怯なのではないかしら」
「とにかく、サヤカさんはこうされておけばいいんです」
これが普通なのかあのふたりに聞いてみようと決めた。
有りえないということなら週1とか月1とかに頻度を減らさなければならない。
彼女のためにもならないからだ、大切な人ができた時に気になることとして残ってしまう可能性があるから。
「あ、予鈴ですね……残念です」
「私はいつだっているわ、来たらいいじゃない」
「はい、そうさせてもらいます」
普通に会話するぐらいなら問題もないだろう。
というか、単純に私が来てほしいだけなのは言わないでおいた。
その後はなにも変わらない、ただ授業を受けて放課後になったら帰るだけ。
家に帰ったら後からやって来たチアキと一緒に勉強をして、夜になったらご飯を食べたり入浴を済ませたりして。
「あら」
久しぶりに携帯をチェックしたら宮本さんからきていたから返事をして少し復習をする。
やはり出かけることよりもこうして勉強をしている方が自分らしくていい。
ちなみに休日にではなく学校の帰りにどこかに行くようだった。
その方が時間がダダ余りしなくて済むし好都合、夜になれば自然と解散になるだろうから。
「サヤカさん」
「ええ」
ただ、通話しながらやるというのは初めての体験だ。
カメラ機能をオンにしているからか彼女の顔が見えている。
いままでにないぐらい軽い服装なのは入浴後だからだろうと考えた。
「いまはなにをしていたんですか?」
「復習よ」
「え、さっきもしていたじゃないですか」
「寝るまで時間があるもの」
意外と通話しながらでも集中できる……か?
いや、それよりも彼女の声を聞けていた方がいい感じが……。
「あの、顔が見たいです」
「これでいい?」
「はい」
携帯を前に立てかけて、それでもこちらは目の前に集中し続ける。
別にわざわざ通話してまで見つめ合っていても仕方がない。
彼女の声を聞くことでよりいい感じがするのなら利用させてもらうだけだ。
そう考えていたのに彼女は黙ってしまった。
自分から喋ってくれと頼むのはあれだから気にせず数十分間、やらせてもらう。
そちらに集中していると通話をしていることを忘れそうになり、携帯を見た時だった。
「なんて顔をしてるのよ……」
「あ……」
そんな乙女な顔をされても困るだけ。
私より上の人間なんてそれこそたくさんいるのになぜだろうか。
「そもそも喋らなければ通話をしている意味なんてないじゃない」
「……サヤカさんの方から話しかけてほしかったです」
「そこまで器用な人間ではないし、なにより最初に面白みもないって言ったわよね? それでもって残ったのがあなたなのよ?」
近くに話題にできることがなければなにを言っていいのかわからないのだ。
教室では近くにクウナとフウナさんがいるから普通に会話できたけれど……とにかく私に期待するのは間違いとしか言いようがなく、仲良くなれば私がペラペラ喋るようになってくれると考えているのであれば捨てた方がいい。
「一方通行なのは……辛いです」
「それならあなたが私に教えてちょうだい」
「え、それって……」
「常識的な範囲であれば自由にしていいから」
こういうことに慣れている子ならちょうどいいだろう。
私から引っ張ることはできないから、それにそれなら全て自己責任で片付けることができる。
「そろそろ切るわ、もう寝たいから」
「あ……はい、おやすみなさい」
通話を切ってベッドに転ぶ。
なにを言っているのだろうと少し恥ずかしくなってしまったのだ。
恐らく夜に会話しているのが悪影響を与えたのだと思う。
勢いだけで口にしているといつか後悔しそうだから気をつけなければならない。
「常識的な範囲となると……」
手を繋ぐとかそのレベルだろうか。
同性同士で手を繋ぐというのはどうしたって一般的ではなくなる。
私たちみたいな似ていない者同士がしていたらなおさらのことだ。
けれど私はそう言ってしまったわけだから突っぱねることもできず。
とにかく問題が起きないよう願うしかできなかった。
「カラオケとか久しぶりー」
「嘘つき、1週間前に来たじゃん」
いや、問題なのは宮本さんではなくこちらの方だ。
お金がかかったのはもうどうでもいい。
だが、カラオケなんて利用したのことのない私は、入り口近くで突っ立ったままだった。
「サヤカ?」
「あ、す、座ればいいのよね?」
「うん、そうだよ」
今日はチアキに用事があるからと勉強会をお休みにしていたから大した問題ではないが……。
「もう、サヤカさんはこっちですよ」
「え、ええ」
それでもなるべく端の方に座っておく。
今日の私は観客だ、目立つようなことはしたくない。
が、なぜか出ていこうとするクウナとフウナさん。
「え、もう帰るの?」
「違いますよ、飲み物を注ぎに行ってくれているんです。はい、歌いたい曲を入れてくださいね」
「わ、わからないのよ……初利用だから」
「えっ、あ、そうなんですか」
カラオケに行くとわかっていればマナーなどを携帯で調べておいたのに。
学校から出て、そこから歩いて、お店の前で言われてもどうしようもない。
「ただいまー、あれ? 歌ってなかったの?」
「サヤカさんは初めてらしいです」
「うそ!? 来たことのない人なんていたんだ」
だから見ているだけにすると答えて飲み物をと動こうとしたら止められた。
「はい、好みがわからなかったからお茶にしてきたけど」
「ありがとう、甘いものより好きだから助かるわ」
優しい、ただそのせいでフウナさんからじぃと見られる羽目になってしまったのは言うまでもなく。
とりあえず歌おうということで1番を選んだのはフウナさんだった。
普通に上手だ、終わった後に「恥ずかしい」なんて言っていたがそんなことはない。
その後はクウナだったり宮本さんだったり、みんな上手でこの後になんて絶対に続けないレベル。
「フウ、はいあーん」
「あむっ、ふふふ、美味しい」
「そりゃまあ市販のお菓子だからね」
当然こうなるよねという話だ。
彼女たちは親友とかそういうレベルではない気がする。
私たちがいなければこの場でキスだってしてしまいそう。
「サヤカさんは本当に歌わないんですか?」
「ええ、ごめんなさい、空気が読めない行動をしてしまって」
「それはいいんですけど……」
どうせ払うならとアイスなどを食べてみることにした。
機械の前でぼうっとしていたら店員さんが教えてくれてかあと熱くなりながらも貰って。
ひとり部屋でパクパクと食べていたら美味しくて驚いた。
「最後はみんなで歌おう!」
「いいね」
「いいですね!」
それならばとさすがに付き合うことに。
生きていれば誰でも聞いたことがある曲を選択してくれたのと、歌詞がでかでかと表示されているためわからないということもなく。
「ふぅ、楽しかった!」
「だね」
「そうですね!」
終始、彼女たちの明るさに救われた形になった。
会計をしてくれると言うので自分の分をぴったり渡して先に外へと出させてもらう。
「ふぅ……」
「楽しくなかった?」
「あ、フウナさん。いえ、寧ろ申し訳なかったわ」
「そんなこと気にしなくていいよ、それにちゃんと聞いておけば良かったね」
自分の都合で行きたいところに行けなくさせるというのも申し訳ないから詰みみたいなものだ。
気にしないでほしいと口にし待っていると、店内からふたりも出てきてので帰ることになった。
「今日も家に来てよね」
「わかってるよ、私がいないと寝られないもんね」
「寝られるけどクウちゃんがいた方が満足度が高いだけ」
ふたりは依然として仲良く歩いていく。
なるほど、仲良くなれば泊まることだってするか。
だからもし宮本さんと仲良くなったら私か彼女の家で一緒に寝たりもするのかもしれない。
その場合はどういう話をすればいいのかわからなくて困惑することになりそうだ。
もちろんいますぐにではないのだから気にする必要もないけれど。
「あ、私たちはこっちだから、また遊ぼうねー」
「ええ、今日はありがとう」
「「こちらこそだよ」」
割とすぐに彼女とふたりきりになった。
「サヤカさん……」
「ええ」
手を差し出すと比較的強い力で握ってくる彼女。
抱きしめる頻度を下げるかわりにこれを頻繁に求めてくるようになったのだ。
あの時みたいなふわふわとした気持ちにはなれないと。
「えへへ」
単純に弱っていたから優しさに揺らされてしまっただけなのだろうか。
その可能性はこうして一緒にいるだけで高まってくるから間違いないのかも。
「サヤカさんを独り占めできて嬉しいです」
「そう」
「そうって……冷たくないですか?」
「よくわからないもの、あなたが満足できているのならいいけれどね」
彼女なりに教えてくれようとしているのだろうが、やはりすぐには変わりそうにない。
焦ったってしょうがないからあくまでこちらはフラットに接するしかできそうになかった。