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四季の姫巫女  作者: 襟川竜
春の章 第三幕・かりん
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第三八話

「う…」

「あ、気が付いた?」

小さな声と共に少年がゆっくりと目を開けた。

それは、火埜(ひや)についてすぐの事。

正確には、わたし達が降り立った東港町『双六(すごろく)』から神薙(かんなぎ)行きの船が出る西港町『鮪川(しびかわ)』へと向かう街道の途中での出来事。

火埜は阿薙火国で三番目に大きな島で、四つの港町とそれらすべてに繋がる街道がある中央町の五つの町があるの。

島の中央には大きな山があって、その山の名前が火埜山っていうのよ。

元々は火山だったらしいけど、今は噴火する気配はないらしい。

神薙行きの船は鮪川からしか出ていないらしく、わたし達は中央町『男船鹿(おふか)』に向かう荷馬車に乗せてもらって街道を進んでいたの。

わたしは埜剛と契約した反動で、すっごく眠くて…というか、寝てしまっていてよくわからないんだけど、前方を行く荷馬車が魔物に襲われていたらしい。

宿祢達が駆け付けると、少年天狗君が一人で戦って荷馬車を守ってくれていたんだって。

植物系の魔物みたいですごく苦戦していたらしく、二人が声をかけるよりも早く宿祢が飛び出して行っちゃったんだとか。

「んー?どうやら片付いたみたいだな」

おおお…という周囲の声に埜剛がわたしの隣でのほほんと言った。

埜剛の腕は二の腕まで戻ってきたけれどまだ本調子じゃない。

相性も悪いとかで今回はわたしと気絶した天狗くんの護衛という名目で街道沿いの木に寄りかかり、のほほんと見学している。

ずずん、という音を立てて毒々しい巨大な花の魔物は倒れた。

「もう大丈夫だよ」

「……」

ぼんやりとわたしを見上げていた天狗君は、次第に意識がはっきりしてきたのか、わたしを認識するとびくりと肩を震わせた。

「あ…ごほごほっ」

「大丈夫?のどをやられているみたいだから、無理して声は出さないほうが良いよ」

「……」

「わたし、七草冬。よろしくね」

少し怯えた目をしつつも、天狗君は地面に指で『一』と書いた。

えっと、彼の名前…かな。

『いち』君…じゃないだろうし、『はじめ』って読むのかな。

「はじめ君だね、よろしく」

彼がリアクションするよりも先に、宿祢が大急ぎで舞い降りてくる。

はじめ君はびくりと震え、わたしの後ろに隠れてしまった。

「冬殿っ、彼は…」

「はじめ君、警戒しなくて大丈夫だよ。宿祢はわたしの仲間だから」

「…はじめ?」

恐る恐る背後から顔を出したはじめ君は、やっぱり怯えたような目で宿祢を見上げる。

宿祢はというと、こっちはなぜか眉をひそめるという、困惑したような表情になっている。

涼しげな顔で戻ってきた埜壬に、埜剛がのほほんと声をかけた。

「お疲れさん」

「某は何も。宿祢が一人で片付けた」

魔物化(トランス・フォーム)した奴をか?」

「ああ」

「へぇ…。いくら植物が元だったとはいえ、よく倒せたな」

その本人はどう接したらいいのだろうという顔ではじめ君を見ている。

はじめ君もどうしたらいいのだろうと困惑気味。

わたし、二人に挟まれてちょっとどうしたらいいのか分からないんだけど。

「あ…えっと、これ」

いつもの宿祢と違いすぎてわたしが困惑してきちゃう。

宿祢は手にしていた鈴のついた錫杖をはじめ君に差し出した。

恐る恐る受け取った後、はじめ君は小さく頷いた。

声が出せないから、ありがとうの代わりなのかも。

「あの、それで、その…怪我は?」

「あ、のどがやられていてはじめ君、声が出ないみたいなの」

「え!?」

「怪我もしてるし、道が通れるようになったのなら町に行って手当てしようよ。はじめ君も、それでいいかな?」

わたしの質問に少しためらった後、はじめ君はこくりと頷いた。

再び荷馬車に乗せてもらって男船鹿を目指す。

埜剛と埜壬は岩鬼という種族ゆえ、体重がすごく重い。

二人は徒歩でわたしと宿祢とはじめ君が荷車に乗せてもらう。

さっきまでは宿祢も歩いていたんだけど、はじめ君が心配らしくて一緒に乗っている。

簡単な救急道具は持っていたので応急手当だけ荷車の上で済ませたけど、町に着いたらちゃんと消毒して手当てしなくちゃ。

でも、そんなに酷い怪我じゃなくてよかったよ。

ただ…その…。

二人に挟まれて、わたし、気まずい…。

更新が長い間止まってしまい、申し訳ありませんでした。

趣味でパソコンをいじる時間がようやくとれるようになったので、また少しずつ更新していこうと思います。

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