8・変わらぬ姿
俺の魂はあと数時間で壊れる。
この流れ続けてくるエネルギーを流す方法が見つからなければ、終わりだ。
余命宣告を受けた気分だった。
たった数時間で何か方法が見つかるとは思えない。
ー霊界 現世 戻れない 体の異常ー
ぐるぐると最悪な単語が頭を巡る。
もうすぐ、死ぬ。
あまりにも沢山の衝撃に俺の心に歪みが生まれ始める。
「ー…から、今…ら…に」
じいちゃんの声が聞こえるのに聞き取れない。
耳に音を遮るような高い音が鳴り続ける。
(俺が何をしたんだ?すべてが必然で理由があるというのなら、俺が消える理由はなんだ?そこまでされなくちゃいけない理由が、俺にあるのか?)
俺は、ただ 平凡に生きていたかっただけなのに。
落ち続ける意識を戻すように、誰かが俺の肩を強く掴んだ。
「お前は死なせない」
その強く重い声に、言葉に、ハッとする。
「俺が悠人を母さん達のとこに戻してやる」
じいちゃんは俺の肩を強く掴み、俺から視線を逸らさない。
「じいちゃんは嘘つかん。だから、安心しろ」
そう言って俺の肩を優しく叩くじいちゃんの姿は、小さい頃に見ていた強くて優しい、俺の大好きなじいちゃんだった。
ーー・・・
「とりあえず、さっき話した俺の知り合いのところに行くぞ」
落ち着きを戻した俺は、改めてじいちゃんの言葉を聞き直す。
「知り合いってさっきの俺の状況を調べてくれた人?」
「そうだ。まぁ………知ってそうなやつが他にいないからな」
じいちゃんは心底めんどくさそうな顔をしていて、俺はその表情が変に気になった。
(なんかあったのか?)
とりあえず、その人に会ってみるしかなさそうだった。
「じゃあ今から」
言いかけた言葉は、不意に遮られた。
ギイィ、と静かな店内に、扉の開く嫌な音が響く。
現れたのは眼鏡にスーツ、シルクハットを頭に被り、シルバーのスーツケースを片手に持った身長の高い男。
「やぁ、哲馬はいるかい?」
「…行くって言っただろう、レイモンド」
じいちゃんは男を鋭く睨むが、男はそんなものは慣れっこだとでもいうように気にも止めず、俺の方に近付いてくる。
(なんだ…?)
男は俺の目の前までくると足を止め、俺を見下げるように見つめていた。
(この男、身長何センチあるんだ…190は超えてるよな)
身長のせいか、威圧感を強く感じる。
「この子がキミの言っていたお孫さんかい?」
男は俺に視線を向けたまま、じいちゃんに聞いた。
「あぁ、悠人だ」
「そう。この子がねぇ」
男の雰囲気が不穏に変わる。
(っ……なんなんだ 俺を値踏みするようなこの目は)
嫌な視線に不快感が湧き上がる。
満足したのか、男は頭に被っていたシルクハットを取り、お辞儀をしながら帽子の中身を見せるかのように、俺の目の前に差し出した。
「やぁ悠人くん、僕はレイモンド。気軽にレイモンドと呼んでおくれ。」
先ほどの不穏の空気はどこに消えたのか。レイモンドは愛想よく俺に話しかけてくる。
「悪いね。身長が高いが故に、僕から見られると見下さられているようで怖いだろう?この狐みたいな吊り目も相まってね。」
レイモンドは空いている方の手で自分の目を指差す。
「あ、いえ。俺こそなんか、すみません」
(なんだ 身長のせいで怖がられてるだけで普通にいい人だ)
俺はホッと胸を撫で下ろす。レイはニコッと笑い、なぜかシルクハットを揺らし、会話を続ける。
「よかったら挨拶の品にどうぞ。気に入ってもらえると嬉しいんだが」
「あ、じゃあお言葉に甘えて…」
(飴かなんかか?)
そう思ってシルクハットを覗き込み、手を入れようとした瞬間だった。
「キミは」
中からウジャウジャと動く大小の黒い物体が、帽子の外へ出ようと這い上がってくる。
「蜘蛛は好きかい?」
彼は本気で楽しそうに、無邪気に微笑んでいた。
※更新日時が間違っていました。修正致しましたので、よろしくお願いします。
次回更新予定:5月27日18:30
読んでいただきありがとうございます。
新キャラレイモンド登場で物語もどんどん進んでいきます。




