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1945年7月26日 特高警察

この作品はフィクションです、実在の人物や団体などとは関係ありません

ゲーム内クレジット残額:前日残高15310ゼニ + デイリーボーナス10000ゼニ + 課金分10000ゼニ = 35310ゼニ


1945年7月26日の朝。

ゆみこの家の前で、高圧的な怒声が響いた。

「おい、この家にヤミ米を隠しとる非国民がおるというのは本当か!」

詰め寄ってきたのは、黒い詰襟を着た二人の特高警察だった。

悪ガキが無邪気に吹聴した「銀シャリ」の噂が、運悪く彼らの耳に入ってしまったのだ。

賄賂を期待する卑しい目が、ゆみこと片腕の夫をねめつけ、まさに土足で上がり込もうとした、その時だった。


上空から、文字通り「物理的な制裁」が降ってきた。


ドスッ!! ゴスッ!!


「あべっ!?」

「ぐはっ……!」


何もない空間から突如として落下してきた、それぞれ重さ5キロの『業務用小麦粉』と『業務用上白糖』の大袋。それが二人の特高の脳天を直撃した。頸椎が軋む嫌な音とともに、二人は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。


「ひぃっ……!」


悲鳴を上げるゆみこたちの足元に、ヒラリと一枚の紙片が舞い落ちる。


『小麦粉と砂糖は周りの5家族で公平に分け合うように。警察は一旦暴れださないように保護し、私がなんとかする。 すずの友人より』


神か、悪魔か。すずの背後にいる「得体の知れない存在」の恐ろしさに、ゆみこはガタガタと震えながらも、片腕の夫と協力して気を失った二人を荒縄で縛り上げ、猿ぐつわを噛ませてオンボロの蔵へと引きずり込んだ。

遠巻きに見ていた隣人たちも、特高が「見えない何か」に打ち倒された怪奇現象を目撃し、恐怖に顔を引きつらせて戸を閉ざした。


◇◇◇

奇妙な茶会と陸軍少将の影

◇◇◇


特高を蔵に押し込んで息をついたのも束の間、ゆみこの家のちゃぶ台の上に、今度は見慣れないガラス瓶が二本、音もなく出現した。

琥珀色の液体が入った、現代の安ウィスキー(720ml)だ。しかし、この時代においては間違いなく最高級の洋酒に見える。そこに添えられた二枚の紙片。


『ゆみこさんへ、2名の警察は時期に目覚める。面倒事が増えるので彼らを拘束する縄を解け、丁重におもてなしするとともに、次の文が書かれた紙片と酒を彼らに渡すように』


もう一枚の紙片には、こう書かれていた。


『この周りの家は帝国陸軍・黒田少将の極秘管轄下にある。これ以上の詮索は軍法会議、あるいは「粛清」を意味する。命が惜しければこの酒を受け取り、二度と近づくな』


ゆみこは息を呑んだ。帝国陸軍の、少将……。

あのすずの背後にいるのは、化け物ではなく、軍の最高層の特務機関なのか。それならば、このあり得ない物資の豊かさも、特高の頭上にピンポイントで重りを落とすような芸当も、少しは説明がつくような気がした。


「あなた! 早く蔵へ行って、あの人たちの縄を解いてきて! 私はお菓子を作るけえ!」


ゆみこは支給された真っ白な小麦粉に、同量の砂糖をたっぷりと混ぜ込み、少量の水で練ってかまどのフライパンで焼き上げた。バターも卵もない簡素な「焼き団子」だが、使われている砂糖の量が常軌を逸している。


約一時間後。

頭に大きなたんこぶを作った二人の特高警察は、ゆみこの家の居室で目を覚ました。


「う、ううっ……頭が……」

「おや、気がつかれましたか。お役人様、炎天下で急にお倒れになったものですから、主人が慌てて日陰にお運びしたんですよ」


ゆみこは引きつる笑顔を必死に取り繕いながら、お茶と、焼き立ての砂糖菓子を差し出した。


「な、何を馬鹿な……我々は確かに、頭に何か重いものを……」


言いかけながら、特高の一人が無意識に砂糖菓子を口に入れた。その瞬間、彼の言葉が止まった。


(な、なんだこの尋常ではない甘さは……!?)


脳の芯が痺れるような、純度100%の上白糖の暴力。こんな贅沢な菓子、高級将校の宴会でしか出ないような代物だ。


混乱する特高たちの前に、ゆみこは無言で二本のウィスキーと、あの紙片を差し出した。


「こ、これは……」


紙片を読んだ特高たちの顔から、サーッと血の気が引いた。

『帝国陸軍・黒田少将の極秘管轄下』『軍法会議』『粛清』。

ただのヤミ米の噂だと思って踏み込んだ長屋が、陸軍特務機関の巣窟だったとしたら? 頭上からの一撃は、自分たちを暗殺しかけた「警告」だったのではないか?

目の前にある、手に入るはずのない甘すぎる菓子と、極上の洋酒が、そのハッタリを「揺るぎない現実」として彼らに叩きつけた。


「……っ! わ、我々は、少し日射病でどうかしていたようだ。ご迷惑をおかけした!」

「この酒は、その……治療の薬として、ありがたく頂戴しておく!」


特高たちは恐怖でガタガタと震えながらウィスキーの瓶をひったくり、逃げるように長屋から転がり出ていった。


◇◇◇

共犯関係

◇◇◇


午後。嵐が去った後、ゆみこは台所で大きな袋を開いていた。

雪のように白く、サラサラとした現代の小麦粉5キロと、光を反射してキラキラと輝く上白糖5キロ。ゆみこはそれを正確に1キロずつ、5つの包みに小分けにした。


「……配りに、行かんとね」


ゆみこは隣の家々の戸を叩き、その真っ白な包みを無言で手渡して回った。最後にすずの家にも立ち寄り、事情を小声で伝えて包みを渡した。


「これ、本当に貰ってええんじゃろうか……」


隣人の主婦の一人が、受け取った砂糖の重みに震えながら呟いた。戦前ですら、これほどの純白の砂糖を1キロも家に置いたことなどない。舐めてみると、涙が出るほど甘かった。


「……すずさんの友人って人が、皆で分けろって。その代わり、今日のことは一切他言無用よ」


ゆみこの声も、低く震えていた。


隣人たちは皆、無言で頷き、配られた白い粉を大切に胸に抱いた。

もはや、すず一家を妬んだり、密告しようなどと考える者は一人もいなかった。特高警察すら瞬時にねじ伏せる、陸軍少将の影(あるいは人智を超えた何か)。

極上の甘みと引き換えに、彼らは絶対的な恐怖で支配され、ひとつの「共犯関係」として強固に縛り付けられたのだった。


◇◇◇

陸軍少将の目覚めと未来世界の処方箋

◇◇◇


1945年7月25日、午前10時。広島市内・陸軍病院。


特別室のベッドの上で、黒田重徳は静かに目を開けた。

……痛くない。肺の奥を掻きむしられるような痛みが、引いている。

何ヶ月もの間、常に彼の脳を茹で上げていた悪魔のような高熱が嘘のように下がり、呼吸が驚くほど穏やかだった。


「……あれは、夢ではなかったのか」


黒田は自身の両手を見つめた。喀血かっけつの血飛沫で汚れるはずの夜が、昨晩は一度も訪れなかった。

あの真っ白な一錠の薬は、大日本帝国のいかなる名医も匙を投げた不治の病を、たった一晩でねじ伏せたのだ。


一方、現代のモニターの前にいる浩平は、黒田のステータスが僅かに好転したのを確認し、次なる手を打っていた。


「黒田の協力は絶対に不可欠だ。完全に動けるレベルまで一気に持っていく」


浩平はショップで、ニューキノロン系、ステロイド剤、止血剤、NSAIDs解熱鎮痛剤、強力な鎮咳薬のジェネリック医薬品を14日分まとめ買いした。(合計で約2800ゼニ)。

さらに、点滴代わりとなる高栄養のゼリー飲料の24パック入り箱(2400ゼニ)を購入。


指定座標をベッドの上と傍らの机に設定し、それぞれ転送した。

ポンッ、という音と共に、黒田の布団の上に大量の薬のシートと一枚の紙片が出現し、机の上にはずっしりと重い段ボール箱が現れた。


黒田が布団の上の2枚の紙片(140文字を超えた為)を手に取ると、そこにはこう書かれていた。


『【処方箋および服用指示】

・白い丸薬(抗菌薬):1日1回、朝食後に1錠

・小さい白い錠剤ステロイド:1日1回、朝に2錠(急に服用をやめないこと)

***

・カプセル剤(止血・鎮咳):1日3回、毎食後に1錠ずつ

・ピンクの錠剤(解熱鎮痛):熱や痛みがひどい時のみ、1回1錠(6時間空けること)

※机の上の箱には、消化の必要がない高栄養の流動食が入っている。蓋を開けて吸い込み、水分と栄養を補給せよ。』


浩平が現代のAIに作らせた、簡潔で完璧な処方箋もどきだった。

そして、ゼリー飲料の箱の上には、もう一枚、さらに重要な紙片が置かれていた。


『黒田さん、今すぐとは言わないが、貴殿が回復次第、桜ヶ丘町の山沿いに住むすず、ゆみこと周りの家を、特高警察が詮索しないように取り計らってもらいたい。

貴殿は直に治る。これからは国のためではなく、広島の人々の為に尽力せよ。

今後の事は追って指示を出す。現在は療養と回復に専念せよ。』


黒田は、その手紙を握りしめ、震えた。

「桜ヶ丘町の、すず……? 特高警察だと……?」

この天の使いは、ただの善意で自分を救ったわけではない。明確な「目的」と「要求」を持っている。しかも、軍の将官である自分に対して『国ではなく、広島の民のために尽力せよ』と言い放った。大日本帝国軍人にとって、それは明らかな反逆の教唆である。


だが、布団の上に散らばる見たこともない包装の薬と、自らの肺に訪れた奇跡的な安らぎが、黒田の帝国軍人としての常識を打ち砕いていた。


「私に、何をさせようというのだ……」


黒田は無意識のうちに、机の上のゼリー飲料のパウチを一つ手に取り、キャップを捻った。

甘く、冷たいゼリーが喉を通り抜け、乾ききった細胞に生命力が染み渡っていくのを感じながら、彼は自身の命がもはや自分のものではないことを悟った。


◇◇◇

黙示録の先渡し

◇◇◇


モニターの前の浩平は、さらに思考を巡らせていた。


「俺の命令をただ聞かせるだけじゃダメだ。黒田自身に、心の底から『広島を救わなければならない』と理解させる必要がある」


浩平はブラウザの別タブでAmazonを開き、原爆に関する書籍を検索した。

過度な政治的イデオロギーや現代の解説が少なく、当時の惨状と事実を淡々と、そして「写真中心」で伝えるドキュメンタリー調の歴史本。

一時間ほど探し、『広島原爆の日』というタイトルの写真集に近い資料本を見つけ出した。


「ゲーム内のショップにも……よし、あった」


浩平は検索窓にタイトルを打ち込み、その本を2000ゼニで購入。黒田の枕元へと転送した。


『十日後に起きる事だ。はったりではない。療養を中心にしつつ読むように。

なお、私が指示を出す前に、本の内容は絶対に他言無用だ!』


黒田の目の前に、突如として分厚い本が出現した。

紙質も、装丁も、見たことがないほど滑らかで美しい。表紙には『広島原爆の日』という奇妙な題字と、巨大なキノコ雲の写真が鮮明に印刷されていた。


黒田は怪訝な顔で表紙をめくった。

そして、数ページ読んだところで、彼の全身の血の気が引き、心臓が早鐘のように打ち始めた。


「ば、馬鹿な……なんだ、これは……っ!!」


そこに印刷されていたのは、絵空事ではない。極めて精巧な、いや、精巧すぎる「写真」だった。

一瞬にして消滅した広島の市街地。黒焦げになった無数の死体。皮膚を垂らしながら幽鬼のように歩く人々。熱線で溶けたガラスと、ひしゃげた鉄骨。

そして、その地獄の光景の日付として、明確に『昭和20年8月6日 午前8時15分』と記されている。


十日後。あと十日後に、この広島の街に、新型爆弾が落ちる。

数万人、いや、十数万の人間が、この写真のように消し飛ぶというのか。


「あ、ああ……ああっ……!」


歴戦の将軍である黒田の口から、恐怖と絶望の呻き声が漏れた。

彼は理解した。自分になぜ、あの神のごとき薬が与えられたのか。なぜ「国のためではなく、広島の人々の為に尽力せよ」と命じられたのか。


この恐るべき未来を知る「監視者」は、この黙示録を回避するための手駒として、死に体の自分を地獄の淵から引きずり戻したのだ。


「……承知、いたしました」


誰もいない病室で、黒田は布団の上で姿勢を正し、見えない神に向かって深く頭を下げた。

震える手で本を抱きしめる彼の目には、もう病魔への諦めはなく、恐るべき未来に立ち向かおうとする軍人としての強烈な使命感が宿っていた。

改変された歴史は、少しずつ動き出す

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