【第27章】香り
その香りは、爽やかな朝を思わせるような優しいものだった。
その日、デパートの香水売り場に、僕は普段つけている香水を買いに来た。
クリスマスが近いこともあり、デパートの入口にはクリスマスツリーが飾られている。
僕は、彼女に合う香水があったら、贈りたいと思っていた。
自分の香水を買ったあと、女性用の香水売り場に行き、そこで彼女に合う香りを探した。
甘さは控えめな方が良い。匂いが強すぎるのも違う。
どれにしようか迷っている時、表面に水色のラベルが貼ってある、小ぶりな丸い形の瓶を見つけた。
香りを嗅ぐと彼女にぴったりだった。
あの映画を観に行った雨の日、彼女は明るかった。
きっと、あれが本来の姿なのだろう。
自信がなかった彼女が、自分を取り戻していっている。
その手伝いができて良かったと心から思う。
でも、それじゃあ僕の方はどうなんだろう?
鎧を脱ぎ捨て、彼女の前で繕うことをやめた。
そして、どうしたというのだろう? 見た目だけで、何が変わった? 僕は本当に臆病で、ずるい……。
それでも、彼女は「鎧にも好みがある」と言っていた。
派手だからという理由で、その服を着ていたけれど、確かに数ある服の中から、僕はそれを選んだ。
きっと、今までの人生だって……。
母が死んだ時、僕は自分自身も死んでしまったように感じていた。
生きることが、本当はツラかった。
それでも、僕は生き続けることを選択した。
その為に、みんなが笑顔で楽しくなるよう、いつも明るく振る舞ってきた。
偽りを演じてきたように感じていたけれど、僕はそれを選んだ。
誰とも繋がらず、誰とも話さず、自分の殻に閉じこもることもできたはずだ。
むしろ、本当はそうしたかったのかもしれない。
だけど、僕はそちらには行かなかった。
笑っていないと、誰かを求めないと、不安と恐怖で押し潰されそうだったから、やもなく選んだ生き方だと思ってきた。
でも、今はそれも自分だったんじゃないかと思える。
彼女なら、何て言うだろう?
まだ、彼女の前で別人のようになる理由を話していない。もし話したら、どんな顔をするだろう。
僕は彼女が言っていたことを思い出した。
あの映画の主人公の二人は、最後に結ばれた。そうして、エンドロールが流れて終わった。
でも、永遠に支え合いながら生きていくのではないかと、と言っていた。
お互いを必要としている限り……。
次回が、最終章になります。




