【第26章】三日月
その日、私は原宿に来ていた。
彼が言っていた店は、有名なファッションビルの中にあった。
私はアイドルだった頃、よくここを訪れていた。
フロアガイドで店の場所を確認すると、店名がロゴで書かれている。
赤いカリグラフィーで書かれた店名を見て、確か同期のメンバーがここの服が好きだと言っていたことを思い出した。
エスカレーターを上がって3階に到着する。
その店は、周りのどの店よりも、かなり個性的で際立っていた。
壁は鮮やかな赤色、床は濃い紫色、洋服が置かれている棚は黒……。
それでも、レディース物も置いてあるからなのか、どこか明るくポップな雰囲気も感じられる。
そして、店内に並べられた、色とりどりの洋服。
表のマネキンが着ているのは、綺麗な真っ青のジャケットに、黄色のシャツ。ボトムの大きなパンツには世界地図が描かれている。
派手な服が多いけれど、それにしては彼のコーディネートは洗練されている。
鎧と言っていた割には、お洒落を楽しんでいるのかもしれない。
すると、男性のショップ店員さんが、私に話しかけてきた。
メンズ売り場を見ていた私に、レディース物もあることを教えてくれて、売り場まで案内してくれた。
そちらも見てみると、レディース物も派手な服ばかりだった。私には、とても着こなすことはできない。
もっとも、私と会う時の彼はシンプルなコーディネートなので、別に私が着る必要はない。
それでも、何となく彼のことが知りたくて、今日はここに来てみたかった。
その時、棚の上にアクセサリーが置いてあることに気づいた。
何気なく眺めていると、金色の三日月に小さなクリスタルがはめ込まれているイヤリングが置いてあった。
素敵……。
存在感はあるものの、私がつけても大丈夫なデザインと大きさだった。
私はイヤリングが好きだ。
欲しいと思い、値札を見ると買うのをちょっと考えるくらいの値段である。
それでも、このイヤリングに心を奪われた私は買うことに決めた。
その隣に同じ三日月の飾りがついたネックレスも置いてあった。
ふと彼がつけている姿を想像した。
贈りたい。
私は彼の誕生日を知らないし、何か特別な日でもない。
それでも、そんな気持ちになった。
私はイヤリングとネックレスをレジに持っていき、店員さんに「こっちはプレゼント用でお願いします」と伝えた。
2つでかなりの値段にはなったけれど、私は彼が気に入ってくれればいいなと思った。
私と会う時の彼は、アクセサリーはつけていない。
ここの服は鎧だと言っていたけど、お洒落を楽しんでいるようだし、普段着ているものに合うものを選んだから、きっと大丈夫だろう。
そんな風に思った。




