【第25章】雨
私は折り畳み傘を持っていたけれど、彼は鞄も持っておらず身軽である。当然、傘もない。
私たちは、雨が止むまでここにいることにした。
その後、会話が弾むということはなかったけれど、私たちはお互いのことをいろいろ質問した。
彼は、今日の私のファッションがいつもと少し違うことを聞いてきた。
この水色のショート丈コートは、最近買ったものだった。
私のアイドル時代のメンバーカラーはピンクだったから、それまで服はピンク系のものが多かった。
でも、最近自分が本当に好きな色は、水色だったということを思い出し、購入したのだと伝えた。
私は、彼に眠れない夜は何をしているのかを聞いてみた。
すると、本を読んでいると教えてくれた。
私は全然本を読まないので、なかなか共通の話題が見つからないなと思ったけれど、彼も最近まで本は読んでいなかったらしい。
子供の頃は好きだったけれど、だんだんと友達に合わせて、漫画やアニメを見て、ゲームをするようになった。でも、自分は本が好きだったことを思い出して、また読むようになったのだと言う。
私は、おすすめの本を聞いてみた。
彼は今日観た映画のタイトルを言ったので驚いてしまった。
たまたま読んでいたのだと彼は言ったけれど、申し訳ない気持ちになった。
内容が分かっていたのでは、つまらなかっただろう。付き合わせてしまったことを謝ると、彼はそれを否定した。
文章が映像になっているのが観れて、楽しかったと言ってくれた。良かった、私は安堵して笑う。
そして、どうして私の前では別人のようになるのかを、本当は聞いてみたかった。
でも、話したくないことを聞かれるのは嫌だろうと思い、せめて普段の彼のファッションについて訊ねてみた。
派手な服とは言わなかったけれど、あの服はどこで買っているのかと。
彼は、原宿にある店の名前を言った。
メンズファッション店だから、知らないはずなのに聞いたことがあった。
そこはレディース物も扱っていて、原宿店にもたくさん置いてあるらしい。
何で、その店の服が好きなのかを聞いてみると、
「鎧みたいなものだから」
と言った。
鎧……?
私もアイドルの時は、自分の好みじゃない服をよく着ていた。
カッコ良く言えば、普段の自分からアイドルの自分に変身していたということだけれど……。
私の場合は鎧というよりも、化けの皮みたいなものだった。
鎧ということは、誰かから攻撃されているのだろうか?
「鎧にしては、結構目立ってるよ」
と言ってみた。
彼は、うんと頷いて「でも、あれが一番いいんだ」と言った。
私は思ったことを伝える。
「確かに、鎧をまとうにしても何でもいい訳じゃない。やっぱり、そこにも好みがあるよね」
彼はまばたきをする。
「でも、今着ている服も、鎧の服も、どっちもしっかり着こなせている。桐山さんは、お洒落な人だね」
そんな私の言葉に、彼は顎を引いてコーヒーを飲む。照れているのが分かった。
少しずつ、少しずつ、私たちはお互いのことを話していく。
雨は、思っていたよりも早く止んだ。
私たちは、店を出て駅まで歩いた。
彼と別れたあと、あることに気づいた。
私たちには、共通の話題がないと思ったけれど、あるとすれば、お互い本当の自分を見失ってきた者同士だということだ。
それがだんだんと思い出してきている。
私はそのことに嬉しさを感じていた。
彼も、そうだったらいいな。




