【第17章】報告
「私、高岩さんと付き合ってるんです」
朝、仕事が始まる前。
ロッカールームで制服に着替えている私の隣で、亜紀ちゃんが嬉しそうに報告する。
頭の動きが鈍くなり、全身が冷たくなっていく。そして、心臓がドクドクと鳴っているのを感じる。
静かな衝撃が、私を襲っていた。
「……いつから?」
平静を装っているつもりだったけれど、声は小さく震え、それを隠しながら聞く。
「1週間前です。彼にデートに誘われて、そのまま付き合うことになったんです」
彼女の声は小鳥が歌うようなリズムで、嬉しさが溢れていた。
私とデートしたあとに、今度は亜紀ちゃんをデートに誘った。そして、そのまま付き合うことになった……。
頭が重たくなっていく。
それなのに、亜紀ちゃんが言った言葉が繰り返し鳴り響いている。そこから先に進めない。
「仕事に集中」
と、小さく呟く。
それを聞いた亜紀ちゃんは、分かってますという意味を込めて、笑顔で「はい」と頷いた。
本当は、動揺している自分自身に言ったのだ。
あれから、高岩さんとは朝の挨拶以外は話さず、お互い淡々と仕事をこなしていた。
ランチタイムでお客様が混み合ってきた頃、私はカウンターに出された料理を運ぼうと、お盆に乗せる。
その時、ふと高岩さんの方を見る。
高岩さんは料理をしながら、チラッと亜紀ちゃんの方を見ていた。亜紀ちゃんはというと、同じように高岩さんのことを見ている。
お互いに見つめ合い、笑っていた。
私は、仕事に集中できなかった。
お皿を落としたり、会計を間違えたりすることはなかったけれど、内心ヒヤヒヤしていた。
その日は、いつもより時間が過ぎるのを長く感じた。
この場から逃げ出したい。
何も見たくない。
そんな気持ちを抱えながら、何とか仕事を終えた。
「お疲れ様です」
裏口を出てから、私は逃げるように走った。
美容院に行きたい。
あのソファに座りたい。
そして、永遠にぼんやりしていたい。
時間が止まったように、もうどこにも行かなくていいように。
けれど、もう美容院は閉まっている時間だ。
私は泣きたい気持ちを飲み込みながら、家までの道のりを走った。




