50羽 「会える、と思う」①
なんか行けそうって思ったのは本当だけれど、思うのと実際にそれを形にするのではぜんぜん意味が違う。
僕らは今このヴェルク=ライナにおいて異国人で、しかも長期滞在ビザみたいのも持っていない。そもそも霜翼卿から2週間で帰って来いって言われている中、もうその半分が過ぎてもいる。どうしようね。どうしようか。行き詰まった。
イムロは本当に活躍してくれている。お気に入りのピフラさんやそのお仲間に、ナンバリングの意味合いを聞いてきてくれた。
「頭の最初の数字が現在所属している階層、その次のふたつの数字が出身地や出身階層。そんで、その次のふたつの数字が課されている制限だそうです」
「ということは、じゃあ……」
ルムスは第4階層に所属し、97という出身で、80という制限があり、27という職に着ける。僕がそう諳んじると、タルクがベッドの上で右足だけあぐらでうなずいた。
「ピフラさんたちが第5階層ということは、ルムスはそれよりは身分が上ってことだね?」
「でしょうね」
こう考えると、出身が同じであればまったく同じナンバリングの認識票を持つ人たちも現れそうだな、と思ったのでそれを口にした。イムロがうなずきながら「実際に、ピフラの同郷で同じ数字の人間は何人もいるそうです。なので、ヴェルク=シーヴィの個別番号とはわけが違いますね」と言った。あ、ヴェルク=シーヴィでもらったのってやっぱマイナンバーだったのか。ヴェルク=ライナ式じゃ困るからよかった。
「いちおう、97とか98とか、そういう『最後の方の』番号はどこ出身だって聞いてみたんですけどね」
肩こりを直すみたいに右腕をぐるっと回しながら、イムロが真面目な顔で言った。
「ありえねー、みたいな感じで笑われました。そもそも、そんな階層がない、と」
「なにそれ。どういうこと」
ルムスはいるじゃん。ふつーに存在しているじゃん。イムロに言ってもしかたないんだけどさ。もしかして。
「ない階層って……あの、認識票もらえないっていう層の人たちのこと?」
タルクは僕のことをじっと見た。イムロはなんかすごく嫌そうな表情でため息をついて「俺もそれ、思いました」と言った。
だとしたらさ。
「……ルムスは、給料すら払ってもらえない奴隷みたいな身分や地方出身で、でも今は第4階層で、ある種の制限をかけられつつもけっこういい職に就ける」
「不思議な経歴っすねー」
不思議すぎるよ。
そもそも、13歳くらいからずっとヴェルク=シーヴィのヴェルミトゥラに住んでいたっぽいのに、どうやってヴェルク=ライナの認識票を取得したんだろう。
黙秘を続けているルムスにそれ以上つっこまないで、急いでヴェルク=ライナ来ちゃったけどさ。もっと詰めておけばよかったと今になって思うよ。
「……その、認識票のない『作業』している人たちと、会えないかな」
僕がそう言うと、イムロは「難しそうっすねー、国の暗部だし」と言う。
「正直、そんな危ないところへヨータさんに行ってもらいたくもないんで」
「えっ、どうしたのイムロ? なんで突然職業意識に目覚めたの?」
「いやいやいや、ずっと仕事してましたから、まじめに仕事してましたから」
黙って僕たちの会話を聞いて、なにかを考え込んでいたタルクが、おもむろに口を開いた。
「……会える、と思う」
僕らはびっくりしてじっとタルクを見た。すると「小さいころに、船に乗った。……たぶん、そこに居た人たちだ」と確信を込めて言う。
「小さいころって、ほんと小さいときじゃない?」
「……3歳くらいだ」
「とても有力な情報をありがとう」
タルクはちょっとすねたような表情で「居た。船の動力源となっている人たち。たぶん、あの人たちだ」とつけ加えた。
あー……ガレー船方式かー……そりゃ、そんなの見たら、小さい子にとってはショックだろうし、記憶に残るかもなあ。
じゃあ、船っていうと。ここは湖畔の街ヴェラルークだから。
「遊覧船かなあ」
「いいっすね、観光にもなりますし、乗りましょうよ」
イムロは状況をたのしむことにかけて天才的だと思う。僕はうなずいて「そうだね。空振りでもいいから、できることはやってみなきゃね」と言った。
船に乗る手配とかも、ぜんぶイムロがやってくれた。この国の中でタルクが目立つ行動とるわけにはいかないし、僕はそもそも目立つ上にこちらのシステムなんかぜんぜんわからないので、結局そうなってしまう。本当にいっしょに来てくれてよかったよ。ありがたい。
今は繁忙期っていうわけではないみたいで、明日の便に乗せてもらえることになった。なんか変装とかした方がいいのかなーって思ったけど、むしろ今のままのが普通のお上りさんっぽく見えそうだからそれでいいか、ということになった。
そして。
「……でかい」
僕も小さいころ、四国で船に乗ったけれど。それよりもものすごくでかい。遊覧船どころか、クルーズ船規模だよ、これは。
そもそも湖自体も大きいから、それに合わせたってことなのかもしれないけれど。……これがガレー船方式かあ。ため息が出るな。
タルクはじっとその船体を見てから「行こう」と言った。






