49羽 「おまえは、なんでもできる」①
「ヨータのバカ! アホ! 不潔! 淫乱! 腹黒! 不倫男ー!」
「いやちょっとまってなにそれぜんぜんまったくなにひとつそんな自認ないんだが⁉」
タルクが真っ裸で柱に隠れて涙目で僕へ叫んだ言葉に、即答で僕は声を張り上げた。とりあえず知ってる罵倒言葉ぜんぶ言いやがったなこいつ。
イムロは……うん。混浴ブースへお姉さんたちと消えて行った。
三人で来たのは、ローマのテルマエっぽいと言えなくもない、温泉のあるデカい露天スパ銭で。
ひとっ風呂浴びてから食事をーと番頭さんに言われたから、そうしようかーと入浴道具一式借りて、服を脱いで洗い場へ行ったわけですよ。
で、かけ湯みたいな感じで溜め湯と手桶があって、その周りに石の椅子が設置されている。そこに座って、溜め湯を汲んで洗うらしいのね。他の人たちがそうしてた。だから、僕らもそうした。そこまではよかった。
頭をガシガシ洗っているときに、背中を流してくれる人がいてさ。
僕はふつーに銭湯と同じ感じで「あ、ありがとうございます」って言ったんだよ。タルクはびびって声を上げてた。で、頭を洗い終わって顔をあげたら、水着と言うにはちょっと心もとない布を身に着けたキレイなお姉さんがそこに居て、にっこりと「他の場所も洗いましょう」って手を伸ばして来た。僕は「ちょーっとまって」と言い、イムロはもれなく全身くまなく洗ってもらい、タルクは悲鳴をあげて逃げた。
で、謂われなく僕はタルクに罵倒された。そういうこと。
とりあえずそういうサービスがある場所だとはわかった。いや、イムロが来たがっていたんだからそういうところだとはわかっていたけれど、まさか予告なしに来ると思わなかった。さすがにこういうお風呂は僕も初めてだからさ。番頭さんにちゃんとシステム聞いてから入ればよかった。なんか黒服とかじゃないふつーのおじさんだったから、ふつーに入っちゃった。
「とりあえずタルク、隠れていても湯冷めするだけだよ。ちゃんと洗って、湯船浸かろう」
「いやだ!」
「お姉さんたち、イムロが連れて行ってくれたから。洗うのは断ったし、あっちの湯船じゃなければお姉さんたち来ないから」
「うそだ!」
なだめてしっかり頭洗わせるのにけっこうな時間かかった。もしかして女性になんかトラウマでもあんのかなー。イケメンだしな。そうかもな。今度から配慮しようってイムロに言っておこう。
加水されていない方の湯船は熱すぎてタルクにはムリだった。僕は40℃くらいならどんとこいって感じなので「うぁー」とかおっさんっぽい声あげながら入ったけど。ヴェルク=ライナ最高。信じられないものを見るような目でタルクがじっと僕を見ていた。
「イムロー、僕ら先出てていーいー?」
「おー、早いっすねー、わかりましたー」
加水湯船でもタルクがゆだった。壁越しに声をかけて、真っ赤になったタルクを回収して脱衣所へ。なんでのぼせる前に自分で出ないんだよ、風呂の入り方知らなすぎだろ。
完全にダウンしたタルクに水を飲ませて長椅子へ横にならせて、うちわみたいので扇いでやる。水で冷たくした手ぬぐいも首元とおでこに当ててやった。
「ヨータ」
「ん?」
「なんでそんなに、なんでもできるんだ」
なんだ、この脈絡のない話は。のぼせか。のぼせがそうさせるのか。
とりあえず「なんのことさ?」と聞いたら、ちょっと黙って、それから「俺は、風呂に入るのもうまくできない」と自覚あることを言った。
「うん。タルクけっこうそういうところあるよね」
「おまえは、なんでもできる」
ん? のぼせるまで湯船に浸かってたの、もしかして僕に対抗していた? それか真似っこ? どっちにしろかわいいな。なんでときどきてぇてぇポイントちらつかせて来るんだよ、君は。
「なんでもできるわけじゃないでしょ。タルクにできるけど、僕にできないことだっていっぱいある」
「ない」
「ないわけないじゃん。僕がグラに乗れないのわすれたの?」
わすれていたみたいで、タルクは閉じていた目を開いて僕を見た。そしてちょっと考えてから「でも、それだけだ」と言う。
なんで自尊心低下モードなんだこの王子様。出身地に来たから? いいよ、つきあってやるよ、と思って、僕は真っ裸のままそこにあぐらをかいてタルクへ言った。
「あのねー。僕はタルクみたいに早く歩けないし、屋根に登れないし、偉そうな人の前で堂々とできないし、早食いもできない。あと、タルクと同じ量食べたら肥る。なんであれだけ食べてそのシックスパックなんだよ、ムカつくな。たぶん同じだけ運動してもそんなに筋肉つかないし、先にバテる。あと、普通にタルクは物覚えがいいし、勘も鋭くて状況判断能力はずば抜けてるよ。忍耐強いし、環境の悪さとかに左右されずに行動できるし、自分をちゃんと貫ける芯がある。あとはなー、イケメンだし、なに着ても似合うからこんちくしょうって思うし」
「……もういい」
タルクがごろんと寝返りを打って背を向けてきた。なんだよ、せっかく褒めてやってるのに。
ふと気づいたら服を着たイムロがしゃがんで僕らを観察していた。なんかにこにこしながら「いやー、仲良しっすねー、ふたり」って言われた。うん、そうだね。






