48羽 「さて、行きますか!」①
商隊主の男性には悪いけれど、タルクを連れて行かれるわけには行かないし、認識票が欲しいわけでもないので、海の向こうまでいっしょにという話はお断りすることになった。
当然だね。
めちゃくちゃビビられた。それだけ、提示された条件は世の中的にすごいことなんだろう。タルクのイケメンぶりってそこまで効果あるんだな。すごいね。
「なあ、ボン、いい学校通いたいだろ? 兄ちゃんたちを説得してくれ」
僕に泣きついてきたけど、相手が悪いなあ。イムロだったらキレイなお姉さんで釣れたかもしれないのに。僕ははっきりと「申し訳ないですけれど、ウチには必要ないって話し合いました」と言った。すごくがっかりしてた。
発つまでは時間があるから心変わりしたらいつでも連絡をーみたいに言われたけれど、海の向こうのタルク需要てなんなんだろうね。よくわからん。
「さて、ではこれからどうしようかー、ということなのですがー」
さすがにイムロも居るときに話し合う。出かけようとしてたけど座らせた。ちなみにイムロって30代らしいんだけど、もうちょっとその自覚があってもいいと思う。そして年下の僕にこんなこと思わせたらいけないだろ、とも思う。仕事はしっかりしてくれているからいいんだけどもさ。
「ん⁉ ヴェルンライノ行くんじゃなかったんすか?」
「ヴェラルークとどっちが現在地から近いの?」
いっしゅん混乱したけど、イムルが言ったのは、ヴェルク=ライナの首都の名前。僕が言ったのは、タルクのお父さんがいる都市。なんでこんなに覚えづらいネーミングにするの。インテリアじゃないんだから統一感出さないでほしいよね。
「そりゃ、こっからならヴェラルークですけど」
「なら、そっちじゃない?」
お父さん居る方。決まりじゃん。僕がそう思って告げると、イムルはいっしゅんだけ「えー!」と言い、すぐに「ぃや待てよ、ヴェラルークだと……が……で……」と考え込んで、次の瞬間キリッとして「行きましょう。ヨータさんのお考え通りに」と言った。たぶんちょっとエロい感じの繁華街があるんだと思う。ヴェラルークに。
「移動は馬車っすか?」
「どうしようねえ? レイパスたち、置いてきちゃったの失敗だったよね」
「いやまあ、商隊に連れ歩くわけにはいかなかったですし。必要な回り道ですよ、これは」
「俺が、迎えに行ってくればいいんじゃないか。レイパスたちを」
ずっと黙っていたタルクが不意に声を出した。そうだ、こいつ話せるんだった。僕が「でも、グラって近くにいるの?」と尋ねると、タルクはおもむろに窓に近づいて開け放ち、空に向かって思いっきりピーーー! と指笛を吹いた。
キァーーーーーーン
……いるわ。上空に。
ざっくり落ち合う方角を決めると、そのままタルクは窓から宿の屋根に登って、グラに拾われて飛んで行った。なんか……アクロバティックだなあ。高所恐怖の僕には生まれ変わってもできないよ。
イムロはベッドの藁を使ってシーツの上に地図を作って説明してくれた。
「今居る港町のラーナヴェルがここだとすると、ちょうど南西にまっすぐって感じですね。大きい湖があるんですよ。その、こっちの西側の湖畔にあるのがヴェラルークです」
藁で作った輪っかに一本藁を乗っけて二等分しながら、イムロは言った。
「へー。じゃあ、東側の、こっちの湖畔は違う国なんだ?」
「そっちはグラ=ゾルムですねー。この街を真南に行くと、国境線っすよ。テルク=ファルのときみたいに、越えないでくださいよー?」
「まじで凝りたから本当に気をつける……」
茶化し気味に言われたけれど、もう本当に二度とごめんなので、西側に行くまではぜったいハルシーピに乗らないと僕は心に決めた。
で、次の日にイムロと手分けして携帯食とかの消耗品を買い集めていたら、タルクスキーの商隊主さんにそれが伝えられちゃったみたいで、お伺いが来た。まだ諦めてなかったんだねー、と思ったけれど、そもそも「本人が居ませんので、お話はなかったことに」と言って帰ってもらった。イムロのところにも来て、同じように追い払ったらしい。
「……さっさと出ましょうかー」
「うん、僕もなんか、それがいいって気がしてる……」
僕らは示し合わせて宿へ戻って、店主さんに多少のお礼とお願いをして裏口から出してもらった。そして、夕方の陰って来たあたりで、乗り合い馬車内で集合。なんでこんな小細工しなきゃいけないんだろう。ほんとなんなの、タルク需要。気になってきたんだけど。
上手いこと撒けたみたいで、レイパスにすっかり慣れた僕には寝かしつけみたいな速度の馬車で西へ向かう。途中の村でタルクと合流できる目算だ。
2日を費やしたけれど、問題なくたどり着いた。僕もタルクみたいに体を洗わない日々に慣れてきてしまった。ちょっと遠い目になる。僕が馬車から降りると、ちょっと遠くからレイパスとグラの声がいっしょに響いて届いた。
「タルクさん、もしかして、海の向こうに隠し子とか居ます?」
「は⁉ 居るわけねえだろ!」
「じゃあ情婦」
「いねえ!」
顔を合わせるなり開口一番めちゃくちゃ真剣にイムロが尋ねたことに、全身全霊でタルクは否定した。じつは僕も似たようなことを考えてたってことは口にしない。
だってさ、あの商隊主さんの執着ったら、なんかすごかったし。海の向こうにタルク似の偉い人とかがいて「自分に似た男を連れて来た者には~」みたいな懸賞金をかけてるんでは、とか。でも、タルクここの国の王子様だしな。それに、身綺麗にはしないくせに潔癖なところがあるから、たぶんDTな気がするんだよな。子どもも彼女もいないと思う。たぶん。
なんか妙にへそを曲げたタルクはグラに乗って上空へ。
そして、僕とイムロは、レイパスたち陸送騎乗用ハルシーピへ。
「さて、行きますか!」
深夜に大正ロマンスな見切り発車連載の第一話を投げました
罵ってください






