47羽 「なにができるだろうね」②
僕は思いっきり、物知らずぶりっ子を発揮して「400万代の認識票て、なに?」と笑顔で聞いてみた。中年の商隊主さんはちょっと臆して、口の中でもごもご言った。彼は、僕のことを自分の息子と同じくらいだと思っているみたいなんだ。ちなみに13歳らしい。屈辱。
「……ボンにはまだわからんか。あのな、ヴェルク=ライナの認識票……まあ、身分証のことだな。それにはいろいろ種類がある。それによって、いろいろできることが違う」
「どう違うの? 400万はなにができるの?」
「そりゃあ、いろいろできるさ!」
商隊主さんはちょっと逡巡していたけれど、すぐに僕を説得するのがタルクを取り込む近道だと思ったらしかった。僕らのこと、親族関係だと思っているからね。染めた髪色以外まったく似てないけど。
「まず、こうして私みたいな商い人にくっつかなくてもヴェルク=ライナ内で商いができる。それに、望めばでかい大学に通うこともできるし、必要なら武器を持つこともできる。いろんな特権があるんだよ、400万代は!」
「そうなんだー。500万になったら、ダメなんだ?」
「そりゃあ、まあ。行動に制限が出てしまうな」
露骨に声のトーンが落ちて、言いたくなさそうに商隊主は話を「とにかく」と打ち切った。
「見返りはかなりあるはずだ。三人いっしょに来るなら、あとの二人のことも考えよう。ボンの将来のためにも、悪い話じゃないだろう」
「俺ひとりで決められることではない。時間をくれ」
「それはそうだな。連絡するのに滞在先を教えてくれ」
ところで商隊主さんが、こうして認識票のナンバリングの意味を知っているっていうことは、けっこう常識的なことなのかな。なんでタルク知らないんだ? いちおうヴェルク=ライナの出身なのに。
てことを、移動した宿で聞いてみた。ベッドのシーツの下が、敷き藁だった。びっくり。ちなみにイムロはキリッとした顔で「野暮用済ませて来ます」っていなくなった。
「常識的というか、公然の秘密というか。そもそも、国民全員が認識票を持つわけじゃないはずだ。番号の意味を知らないで生涯を過ごすヤツの方が多いんじゃないか。俺も400万代の内容を詳しく聞いたのは初めてだ」
「意味があるのは知っていたんだ?」
「かなり詳しい情報の塊だ、とは把握していた」
ちょっと考えてから、タルクはどこか遠くを眺めるような感じで言う。
「……俺は、認識票を受け取る前にここを離れたから、よくは知らない」
「そっか、ある程度大きくなってからもらうものなんだね」
じゃあ、マイナンバーとも違うのかー。それに、取得にもなんらかの資格みたいのが必要っぽい? 僕がヴェルク=シーヴィでキャラヤからもらったのは、どんな意味を持つんだろう。
とりあえず、ルムスについてわかったこと。
ヴェルク=ライナの400万後半ナンバリングの認識票を持っていること。それは取得に制限があり、商隊主さんが見返りとして示すくらい、それなりの特権階級を示すこと。
「ねえ、ルムスって、いつから灰巣で勤めていたの?」
僕と同い年だって言っていたのが本当だとして。タルクがこんなに凹むくらい、長いこと友だちだったんだと思うから。
「……俺が、翼騎兵団に来たときには、ヴェルミトゥラに住んでいた。当時は、ひとりじゃなかったと思う」
「え、それって……」
僕は敷き藁ベッドの上であぐらをかいて、腕を組んで考えた。ずっと前に、ムルナヴェンでタルクが黒板に書いた内容を思い出す。ちょっとしか見てないけど。
「……僕が中学上がるころに、翼騎兵団って書いてあった」
「俺が、10歳のころだ」
「ちょっと待って、じゃあルムスまだ13歳とかじゃん」
いつ取ったの、認識票。しかも、ヴェルク=シーヴィにいる状態で。
あとさ。
「……ひとりじゃなかった、って」
「言葉の通りだ。俺の記憶によれば、家族が、いたはずだ」
でも、ルムスは自分のことを「ひとりモン」って言っていた。だから、僕は勝手に、仕事のために単身でヴェルミトゥラへ移り住んできた人なんだと思っていた。
「……なんか、ルムスすんごく複雑な背景っぽい気がするんだけど」
「そうだろうな」
タルクが、ルムスのことをかばおうとしている理由も、わかる気がする。そしてなんだかんだ言って、霜翼卿が僕らのヴェルク=ライナ行きを許可してくれたのも。
なんかやっぱり、きな臭い。
なんかやっぱり、ルムスの意志じゃない気がする。
「……タルクのお父さんが絡んでいるとして、それってヴェルク=ライナのどこでなら調べられる?」
「……ヴェラルーク。もしくは、首都のヴェルンライノ」
「ヴェラルークが、お父さんがいるところ?」
「そうだ」
距離的なことも考えなければならないな。今居るのが国の東端海岸の街ラーナヴェル。
テルク=ファルほど横長の国ではないし、国土規模的にはヴェルク=シーヴィと似た感じみたいなんだけど。レイパスたちを国境辺りに置いてきてしまったのは、やっぱまずかったかなあ。どうしよう。
イムロがほろ酔いで帰って来た。手土産に折寿司ならぬシュウマイみたいな蒸し肉塊を買って持ってきてくれた。肉汁すごくて美味しかった。






