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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第三章 ヴェルク=ライナ

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47羽 「なにができるだろうね」①


おーひさしぶりでぇす

 南ハルナシーヴでの検問、そしてヴェルク=ライナ側での検問を経ての入国は、あまりにもあっさりとしていた。十数年に渡って冷戦状態だって霜翼卿から聞いていたし、身分確認とかかなり厳密にされるのかな、と思ったけれど、ぜんぜんだ。テルク=ファルへ入ったときとほとんど変わらない。そもそも、境に低い山があるとは言え地続きの隣国同士だし、民間人の行き来も通商もある。僕やイムロはともかく、タルクは元はと言えばこの国の王子様だ。それにヴェルク=シーヴィでは公翼だし、めちゃくちゃ変装とかするのかな思ったけど、髪色変えただけで顔も隠さないでそのまま。それでもいいのか聞いてみたら「こっちの国は、子どものころの俺しか知らないからな」と言われた。そっか、そもそも面が割れてないのか。


 ヴェルク=シーヴィが冷涼な空気感の国だとしたら、ヴェルク=ライナはその対局にある雰囲気だった。国境線をまたいだからってなにかがあるわけではないけれど、肌に感じる日差しが違う。この世界が地球みたいに丸いのかもわからないけれど、やっぱ南下すると暑くなるのは変わらないみたいだ。わかりやすくていいよね。

 商隊の警備員として、国境を守るみたいに城塞が築かれたヴェルラインという街に入った。ここは、二カ国間で戦争があったときには最前線だったんだろう。戦火を思わせる焼け焦げた痕が生々しかったけれど、その元で人々は普通の表情で暮らしている。中央の六車線の太い目抜き通り沿いに商店が広がり、その先にまた城塞があった。さらにその中にもあるらしい。石壁のマトリョーシカみたいな。


「でー、お友だちの出自を探そうにも、本人はなにも言わなかったんすよね?」


 イムロが、がやがやとした人混みの中でゆっくりと進む商隊の馬車を守るフリをしながら、僕を警護し尋ねてきた。ルムスは重罪犯として収監されているのを知っているのに、それでも僕やタルクの我がままにつきあってくれたイムロには感謝しかない。僕はうなずきながら「認識票の番号を照会できれば一番なんだけれどね。国外の僕らがそんなことできるはずもない」と言った。それにそもそもだけど、ヴェルク=ライナが間者として送り出した者の番号を調べるなんて、怪しすぎる。

 4978027

 覚えちゃったよね。


「番号の法則性とかで、なんか割り出せないっすかねー」

「それは僕も思った。なんにせよどこかで情報を仕入れないと」


 雇ってくれた商隊は、この街でいくらか商売をした後、国境沿いを東に向かった港町まで行く。警護の約束はそこまで。行って帰ってきて、ちょうど二週間かな。距離だけを考えたらね。

 僕は見た目から弱っちいと思われているし、実際そうだから、警護というよりは目配り気配りで、物が盗まれたりしないように見張っている役目を仰せつかった。だからけっこうきょろきょろしていても、ちゃんと仕事をしているって思われていると思う。たぶん。

 タルクは、商隊の中でも偉い人の傍に連れて行かれて、その馬車の御者席で警護している。やっぱイケメンってなにをするにも重宝されるんだな。最近ちゃんと体を洗っているからなおさらだと思う。イムロも方向性が違うイケメンだけど、完全に未成年だと思われている僕の保護者みたいな感じで、いっしょにいるようにって言われた。なんかいろいろ言いたいことはあるけど、もういいや。


 レイパスは、国境沿いのハルシーピ舎に預けて来た。さすがに仕事をしながら連れて歩くには大きすぎるからね。グラは勝手知った感じでどこかへ飛んで行った。たぶん野良ハルシーピみたいな生活をして、タルクが呼べばすぐに応じられるところに潜伏しているんだろう。テルク=ファルの東端に居た僕たちを追いかけて来たときに、そういうのには慣れたみたいだ。


 なんにせよ、今はまだ自由に動けない。怪しまれたくもないし。まあ働くのは嫌いじゃないから、せいいっぱいお勤めさせていただきますよ。


「なにができるだろうね、僕は」


 考えていたことをなんとなくつぶやいたら、イムロは「なんでもできますよ、ヨータさんなら」って言った。


 丸三日をその街で過ごして、そして東へ。そのころには、タルクは商隊内外の女性陣からねっとりとした秋波を送られまくってぐったりしていた。イムロにもときどき。たぶん隠れてしっぽりしていた。僕は飴ちゃんならぬ焼き菓子をたくさんもらった。永遠に「えらいねー」って言われ続けた。屈辱。

 東の海沿いの街ラーナヴェルに着いたのは、さらにその4日後だった。


「うっわ、キレイだねー!」


 テルク=ファルの東端のカイラントとは、海の色も香りも違う。カイラントはもっと色が濃くて荒々しかったけれど、ラーナヴェルは、子どものころに行った高知県の海を思わせるくらい澄んでいて、底が見えそうだ。それに、磯の香りがそこまで強くない。


「観光でもしたいですねー。水着のおねーちゃんたくさんいますかねー」

「とりあえず後腐れなくいろいろやってね、イムロ……」

「そこはもう、任せてください」


 キリッとした顔で言われた。そこで決め顔されても。

 

 ヴェルク=ライナの認識票についてちょっと聞けたのは、海の向こうまでタルクを連れて行きたい商隊主さんから粘り強い交渉を受けているときだった。


「いやいや、本当に、着いてきてくれるなら400万代の認識票取得も手伝おう。それが欲しくて入って来たんだろう、ヴェルク=ライナに?」


げんきでぇす

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