46羽 「狙いたいんだけど」①
僕は、タルクをいくらか詰ってしまった。なんですぐに言ってくれなかったのか。なんで騙し討ちみたいに僕を諮問審議委員会へ出したのか。なんでもっと早く……受け留める心の準備をさせてくれなかったのか。
タルクはなにも言い訳をしなかった。それに、僕を止めようとしたイムロを制することすらした。ただ、ひとこと「ごめん」と言った。それだけだ。
冷静になった僕は、気づいた。僕が友人と考えていた人間の裏切りは、タルクにとってもそうなんだってこと。
ルムスには、ヴェルク=ライナの間諜の疑義が上がっている。
以前僕のベッドのしたからみつかった認識票は、彼のものだと目されている。
そう言われて、僕、なにも言えなかった。
だって、ルムスの家から、グラの羽根が出てきたんだって。それに。
「公翼集落域では、互いに名乗らず、表札を出さず、自分がどの家に住んでいるかを明らかにしないのが鉄則です」
あまりの衝撃に声も言葉も失った僕へ、委員会の左側の女性が、言った。
「なぜ、ルムス・ハルカはあなたとエルシ公翼の家を知っており、訪ねられたのでしょうか? ヴェルミトゥラ内、いや、ヴェルク=シーヴィ内において、それは極秘情報であるのに?」
考えたこともなかった。それに、なんだか立て続けにいろいろあってわすれてしまって、僕はルムスが掃除を手伝ってくれたことをタルクに伝えていなかった。
だから、タルクだって、僕に言いたいことがたくさんあるだろう。
でも、なにも言わなかった。
僕は「僕こそ、ごめん」って言った。
ルムスは、黙秘しているそうだ。
面会は、断られた。ルムス自身から。
いくら被疑者だからって、本人の意向をムシしたりはしない。ちゃんと司法が生きているからね、ヴェルク=シーヴィは。
僕は、会ったらなにを言うつもりだったんだろう。
僕は、なにを言いたいんだろう。
わからない。
日本において、外患誘致は、すべからく死刑だ。僕の知る限り、その罪に問われた人はいないけれど。それだけ、とんでもない犯罪だっていうこと。
ヴェルク=シーヴィでは、どうだろう。わからない。知りたくなくて、僕はまだルムスの今後の見通しについて、だれにも聞けていない。ただ。
「……手紙、書いていい?」
灰翼判庁に数日滞在している間に、僕はタルクにそう言った。タルクは、だれへって聞かずに「ああ」って言った。
信じられない気持ちだっていうこと。
なにか理由があったなら教えてほしいこと。
僕はまだ友だちだと思っていること。
ルムスへ。
返事は、あっさりしていた。
『お人好し過ぎない? 犯罪者に手紙書いちゃダメでしょ。元気でね』
なんか、いろいろ覚悟してるんだなってわかっちゃって、ちょっと泣いたよな。
でさ、なんか。納得できなくてさ。
僕、ルムスが言うようにお人好しなんだと思う。わかる。でもさ。納得行かなくてさ。
「減刑、狙いたいんだけど」
「おまえの考えることって、賢すぎて俺にはわからん」
「ヴェルク=ライナへ行ったら、ルムスがだれに雇われてたとか、調べられないかな? 主犯じゃないってわかったら、減刑できない?」
タルクは、僕をじっと見た。僕が見返して、しばらくお互いじーっとしてた。
「……おまえが行ったら、自殺行為だってわかるか?」
「だからって、タルクが単騎で行っても同じことでしょ」
わかってるんだからね。僕が行くって言った瞬間、ちょっと「その手があったか」みたいな顔したの。
そして、僕は……ヴェルク=ライナへ向かうことになった。ちょっと……いや、かなりムリやり。周囲を説得というより、もう脅した感じで。
「許可していただけないなら、僕、テルク=ファルに移住します! おいでってブロムが言ってたので!」
霜翼卿にまで呼ばれてたしなめられたけど、退かなかった。そしたら「二週間でヴェルク=シーヴィ内へ戻るように」っていう厳命の下、しぶしぶ許可された。
それで。僕は髪の毛を脱色して、ルムスみたいな茶色っぽい金髪に。ちょっと自分でも反抗期の中坊みたいっていっしゅんだけ思った。見慣れたけど。タルクは赤毛を染めて重めの茶髪に。なにしても似合うのムカつくよな、このイケメンが!
イムロは「うははははは、資料庫よりずっといいじゃないっすか! 行きましょうよ!」とノリノリだ。イムロはそのままの髪色だから、なんだか三人とも似た感じになった。なので親類一同ってことで押し切ろうと決めた。似てないけど。限りなく似てないけど。
以前、ライラちゃん救出のためにタルクから目隠しされて、ムリやりハルシーピに乗せられめっちゃ高い高度で越えたのは、トゥルハッラ連峰っていう険しい山脈だ。
それの、南端。エグザ山っていう、トゥルハッラの中腹よりはちょっとだけ低い山がある。そこを越えると、南ハルナシーヴがあるんだ。
ハルナシーヴというのは、国境に置かれている関所村のこと。東西南北にひとつずつあって、それの南。
それを越えて、さらに南へ。
タルクは、一足先にグラといっしょに山を越えた。向こうにある街で、いろいろ準備して待っているって。
僕はレイパスとイムロといっしょに。山登りなんてそんなにしたことないから、けっこうキツかった。でも、目標があるからさ。4日で踏破した。
インターネッツのわたしの存在感が希薄だなんてそんな、それは気のせいです、ええ






