45羽 「どうしてるかな」②
ものすごく厳しい顔をしたタルクがグラに乗って家に舞い戻って来た。たまたま資料室は休みの日だったから、僕はイムロといっしょに洗濯の手伝いとかしていた。
「ヨータ、レイパスの準備をしろ。ヴェルミトゥラへ向かう。イムロも陸送騎乗種借りてこい」
「えっ、急だなあ。なんかあったの?」
「……着いてから話す」
イムロのハルシーピを用意できた時点で、すぐに出発。タルクは僕たちを先導するようにグラと空高く飛んでいる。そのただならぬ様子に、いろいろ覚悟はしていたんだ。いろいろ。
でもさ、そのどれとも違って。
そのどれとも、違って。
グラの後を追うレイパスは、ヴェルンシーヴァとヴェルミトゥラの間にあるいくつかの村々を軽く通り越して行った。すごく速い。だいたい時速60キロってところかな。本当はもっと速く走れるところを、僕たち人間の限界を考慮して加減してくれているんだ。元々レイパスはけっこう僕のことを高く評価してくれているというか、あんたこれくらいならいいでしょ、みたいな感じでビュンビュン走っちゃう子なんだけれど。グラに会ってからちょっとおしとやかになったなって思う。
途中休憩すらなしで、だいたい5時間ほど街道を走った。馬車とかと何度もすれ違ったけれど、まるで救急車がやって来たみたいにみんな道を譲ってくれた。ありがたいね。そういう交通ルールがあるのかも。グラはこちらの速度に合わせて何度も空で旋回していた。慣れたとはいえハルシーピ騎乗中は会話もできない。なにせ聞こえないし舌を噛むし。
ヴェルミトゥラに入ったら、グラが急降下して崖上に降りて行った。――灰翼判庁だ。それで、なんだか僕が思っていたよりずいぶんと大事が起きているんだってことはわかった。あの長い坂をイムロといっしょにハルシーピで駆け上がった。
レイパスたちをお世話係さんへ預けて。僕は、入口のところに立っていたタルクのところへ行った。なんか、すごく影が薄いっていうか、疲れていそうな雰囲気だった。無言で石扉を開いて中へ入って行ったので、僕もイムロもそれに続く。
霜翼卿のところへ行くのかと思ったけれど、違った。でも霜翼卿の部屋へ行くときと同じ手順を踏んだ。その部屋は、一見で簡易裁判所みたいだって僕は思った。入った奥の壇上の席に、水色の丸首制服を着た偉そうな人たちがずらっと6人座っている。僕たちは聴衆席側で。
イムロは、そのまま聴衆席に着くように促された。タルクも。僕はというと、なんと証言台みたいのに立たされた。そして名を問われたので「鑑別師ヨータ・コガです」と答えた。壇上の人々はみな一斉にうなずいた。
「鑑別師殿、この場において、あなたの地位や肩書は考慮されません。よって、我々は平等の立場において審議を行います。あなたの述べられたことは記録され、また精査されます。偽りを述べるならば、たとえあなたでも制裁を受けます。そのことを踏まえて、慎重に我々の質問に答えてください」
「承知しました。僕からの質問はいいのですか?」
「伺いましょう」
「司法の場なのだと思いました。が、なぜ僕はここに連れて来られたのでしょうか」
壇上の人たちの目が一斉に僕の背後のタルクへ向かったのがわかった。そうなんです、こいつ説明苦手なもんだから、なにも言わずに僕を連れて来たんです。どうにかしてください、困っているんで。タルクがちょっと身じろぎしたのを感じた。
「……あなたは、重要参考人として召喚されました。これは諮問審議委員会です。あなたの言葉は、これから審判にかけられる者の進退に関わります。なにもお聞きになっていないのであれば、そのままで参りましょう。より忌憚のない、正確な話を聞けるでしょうから」
そう言ったのは左側の女性だった。委員長なのかな。席次とかわかんないや。僕はとりあえず「僕の知ることであれば、お答えします」と言った。
「あなたは、ヴェルミトゥラの公翼集落域でエルシ公翼といっしょにお住まいだった」
「はい。2カ月くらい」
「その間に、強盗が入った事件を経験されましたね」
あの件を今になって調べているのかー。もしかして、強盗が捕まったとか? 僕は「はい。びっくりしました」と答えて、グラの羽根はみつかったのかな、と考えた。
「そのときのことを詳細に伺いたいのです。あなたは、まずヤーヴ公翼に助けを求められた」
「すみません、助けてくださった方のお名前を存じ上げないんですが、背の高いムキムキの男性でしたら、その方です」
「……承知しました。集落域の規律を守っていらしたのですね。良いことです。では、そのムキムキの男性に助けてもらって警らを召喚したときのことを、詳しく述べてください」
じっとみんなの視線が僕に集中した。詳しくって言われても、おまわりさんたちが来て、実況見分をして、グラのことを話して爆笑されて。でも僕の呪いの媒体って思われたグラの羽根以外の被害は、たぶんなくて。そこらへんを思い出しながらたどたどしく話した。みんな辛抱強く聞いてくれた。
「――で、あのときはライラちゃんが誘拐されたときだったし、僕も気疲れがすごくて。ずっと家の中でぼーっとしていたんです」
「そうでしょうね」
「そしたら日が暮れてから、友だちが訪ねて来てくれて。部屋を片付ける手伝いをしてくれて」
懐かしいなあ。そんなことがもう、すごく昔のことに思える。
僕が一連の流れを話し終えるまで、委員会の人たちは相づちを打ちながら辛抱強く聞いてくれた。背後のタルクの視線が強くて、僕のうなじあたりにじりじりしている。僕が「まあ、こんな流れです」と述べると、みんなふっと息をついた。
「ありがとうございます。あなたの偏り見ていない言葉を聞けたのは幸いでした。ここで語られた言葉は、今後の裁判に用いられます」
真ん中の右側の男性が言った。僕は「質問していいですか」と聞いてみた。促されたので「なんの裁判なんですか」と尋ねる。
「あなたの証言に出てきた人物の裁判です。灰巣にて育雛の任に着いていたルムス・ハルカ。彼は、外患罪の疑いをかけられています」






