45羽 「どうしてるかな」①
そしてそれから僕はと言うと、しばらくは静かに過ごしたいっていう気持ちが叶って、連日図書館へ通っている。
タルクは、以前と同じようにグラに乗って灰翼判庁へ出勤。元気なレイパスはお世話係さんに連れられて郊外を走り回っている。目まぐるしい日々を送っていた中で、ようやっと息継ぎができた感覚だった。
僕がヴェルク=シーヴィへ来たばかりのとき。タルクに頼まれて鑑別したハルシーピの雛たちは、無事中雛まで大きくなって、やはり僕の鑑別は正確だったことが明らかになった。なので、次の雛が生まれたときには、僕がまた駆り出されることになると思う。
全羽を正確に見分けられた記録は、ないそうだ。史上初。僕は名実ともにヴェルク=シーヴィの要人となってしまった。
なので、テルク=ファルに滞在していたときみたいに、警備の方が絶えず着いている。家へ住み込みという形で。ちなみに僕専属護衛に志願してくれた人だ。
「ヨータさーん、まだっすかー」
「まだ来て1時間も経っていないじゃない。退屈なら外で時間潰して来なよ、イムロ」
「それは職務放棄ってヤツなんでムリですねー。毎日毎日、よく飽きませんねー」
図書館の机に座っている僕の背後を守りながら、小声で小言を言ってくるのはイムロ・シラトっていう、黒っぽい金髪を刈り込んだ男性。じつは、テルク=ファルの警護団の中に居た人だったりする。
さすがに、家に雇う人の名前を覚えないっていう選択肢はないし、マンツーマンで僕を護衛してくれるんだからだれかとの序列も生じないから、すぐに気さくな会話のできる関係になれた。
いちおう、最初になんで僕の護衛に志願してくれたのかは聞いてみたよ。
「俺ら、べつに盲目じゃないんで。鑑別師殿が俺らにも気を遣ってくれていたのはわかってますよ。それに、カイラントにいたときのあなたの言動を見ていたらね。底抜けに善意の人だってわかる。でもまっさらキレイな人間って感じでもなくて、ひどく現実的だ。おもしろいなって思ったのが志望動機です」
なんかいい感じに僕のことを評価してくれたらしい。うれしいけど恥ずかしいな、それ。イムロは「俺の他にも、けっこう志願したヤツはいましたよ。倍率高かった」と言った。そうなんだ。ありがたい話だね。
テルク=ファルから持ってきた『ハル古典』は、早々に読み通してしまった。なぜかって言うと、そもそも古語がわかんなくて目が滑っただけだから。現代語訳みたいのは存在しないらしい。なんかさー、せっかくこの世界に来た特典でこちらの言語を読み書きできるんだから、そこは古語にも対応しておいてほしかった。まあいいんだけどね。勉強嫌いじゃないし。
なので、図書館通いは古語に慣れることと、あとヴェルク=シーヴィの歴史を学ぶため。完全会員制みたいな、本当に限られた人しかアクセスできない、中央府内にある場所だ。貸し出しはできないし蔵書もものすごく多いってほどではないので、図書館っていうより資料室って感じかな。本の管理人さんはいるけど、司書さんはいないし。紙が高価だと、こうまで趣きが違うもんなんだね。
途中で中央府内の食堂でイムロといっしょにちょっと遅めの昼食をとって。夕方になる前には家に帰る。それが、ここ最近の僕の日課だった。
「で、ヨータさん、なにをそんなにたくさん勉強してるんすか?」
家に着いたとき、イムロが不意にそんな質問をしてきた。それはまあ、疑問には思うよね。僕は「この国の歴史とか、あと、ハルシーピの伝承」って答えた。イムロはなんとも言えなさそうな絶妙な顔をした。
「なにも、そんなんわざわざ学ばなくても」
「んー。僕には必要な知識なんだよね。よくわかってないからさ」
まあ納得されなくてもいいんだけどね。日本に帰るためだ、なんて言えないからさ。イムロには言ってもいい気はしているんだけれど。いや、むしろ、僕たちの家に勤めてくれている人たちには、ぜんぶ。
みんな、信頼のおける人たちだ。僕やタルクに仕えるのは、口が堅いだけでは務まらないから。
でも、今はふさわしい時ではない気がする。
僕はふと、こんなことを悩むのひさしぶりだな、と思って、なつかしくなってイムロに言った。
「イムロと話していると、ヴェルミトゥラに居る友だちのこと思い出す」
「おー、だれっすか? それはかなりのイケメンですね?」
「うはは、そうだね。ルムスって言って、ノリが良くて親切で、いいヤツ。どうしてるかな」
結局、いろんな事件が重なってしまって、お別れらしいあいさつもできなかった。今度会ったときにはニホンのこと教えてくれ、って言われてたのもわすれてはいないけれど、もう遠い記憶に思えてしまう。
ハッラさんご家族にも会いたいな。どこかで、ヴェルミトゥラに行ってこれないかな。今ならレイパスも居るし、空路並みにとは言わないけれど、わりとすぐに行き来できると思うんだよな。
そんなことを考えていたら、本当に行くことになった。
不本意な感じで。







