44羽 「ただいまー」①
「と、いうことで、ヨータくんへ献上いたします。かわいがってあげてくださいね」
「……はい。うん。ありがとう」
ヴェルク=シーヴィとテルク=ファルの国境沿いにて。ブロムから正式な書状一式をもらった。それはテルク=ファルから僕とタルク、警備さんたちにまで宛てた献上物のリスト。もちろん、4カ月近くもテルク=ファルに滞在して、いろいろお手伝いしたことへのお礼だ。後から送って来てくれるんだって。
そして、その他に。
キュアァアー!
自分のことが話されているってわかった、陸送騎乗用ハルシーピちゃんが、短い羽をバタバタさせて声を上げた。そう、僕に懐いていて、グラにガチ恋している子。
結局、僕へ譲渡する感じでヴェルク=シーヴィへ渡ることになった。まあそうするしかないよなあ……。なにせ、とにかく僕にくっついて回ろうとするし、グラのお嫁さん候補だし。
グラは、すっかりこの子が苦手になってしまったみたいだ。なにせ押せ押せのアプローチにすっごくたじろいでいるし、僕にも近づけないから。僕も、グラと話したいことは山ほどあるんだけれど、この子がいるのでどうにも機会を見いだせていない。……もしかして、連れて帰ったらもっとそうなるんじゃないか、という懸念はとりあえずおいておく。
「……なまえ、考えてあげなきゃなあ」
陸送騎乗用ハルシーピちゃんたちは、識別番号で呼ばれていた。基本的に、それぞれの個体に名前をつけないのは万国共通みたいだ。なぜなら、名付けるのはその子を自分の『愛鳥』に選ぶことだから。僕のつぶやきに、ブロムは目を細めて笑って「ええ、ヨータくんさえよければ。ぜひ」と言った。
国境の検問所である北ハルナシーヴには、ヴェルク=シーヴィからのお迎え団体が来ていた。キャラヤは来ていなかったけれど、若い男性の円環守が代表して迎えてくれた。そして、ブロムと国同士のやり取りがある。テルク=ファルからヴェルク=シーヴィへのお礼は、僕たちがもらった他にあるみたいで、お互い右手を胸にあててからその書状をブロムから円環守さんへ渡していた。
「我がハルに」
もう一度右手を胸にあて、ブロムがそう言った。それは誓いを伴う言葉だって、先日知った。なので、その書状の内容は絶対に果たされるっていうことなんだろう。なにが書いてあるんだろうね。
テルク=ファルと、そしてブロムとも、そこでお別れ。なんだかずっといっしょにいるような気がしているブロムと別れるのは、なんだか変な気分だ。
「ブロム。長いこと、本当にいろいろありがとう」
「それはこちらの言葉です、ヨータくん。テルク=ファルはいつでもあなたを受け入れる用意がありますので、ヴェルク=シーヴィが嫌になったらいつでもご連絡をください。すぐにお迎えに参ります。妻は渡しませんが」
「ありがとう。気持ちだけいただいておくよ。あと本当に冗談だったから根に持たないで」
テルク=ファルの見送り団体は、僕たちが北ハルナシーヴの門をくぐる間、ずっと右手を胸にあててくれていた。僕はその姿を振り返って、手を振ってヴェルク=シーヴィへ入った。
「ただいまー、ヴェルク=シーヴィ」
「おかえりなさいませ。鑑別師殿」
僕のつぶやきにそう返してくれたのは、さっきの若い円環守さんだった。日焼けした金髪に、人の好さそうな表情。初めて会うと思う。たぶん。
「本日は、こちらで一泊されますよう。そして、その後は円環守総長の用意した家へ向かっていただきます」
「あっ、はい。そういえば、引っ越ししたんでしたね」
タルクの家は、ヴェルク=ライナの人間に入られた実績を作ってしまったから、引き払ったんだった。ということは、タルクとは別居生活になるのかな。だいじょうぶかな、ひとりで。あのさみしんぼは。
なんにせよ、しばらくは静かに過ごしたいって気持ちでいっぱいだった。あまりにも目まぐるしく数カ月が過ぎてしまったし、テルク=ファルで入手した本を読んでしまいたいし。帰るための、手がかりを探すために。
思えば……僕はもう、この世界で半年以上も過ごしている。
タルクにはああ言ったけれど。……もちろん、名残惜しい気持ちもあるけれど。もし、帰る手段が明らかになったなら、僕はそれを用いることにためらいはない。
夜に、タルクからいろいろ単語を教えてもらって、テルク=ファルから譲っていただいたハルシーピちゃんの名前をうなりながら考えた。
「よし……じゃあ。レイパスで」
「まんまだな!」
タルクが笑った。こちらの言語で『元気』っていう意味の単語。そんなひねってもしかたないしさ。呼びやすいしいいと思う。
ハルシーピ舎に行って、名前をつけたことをレイパスに告げた。
彼女は何度か大きな目をまたたいて、それから完全に理解したと言わんばかりにキュアアアアアー! と大きく鳴いた。
ちょっとおっちょこちょいで、飛べなくて。でもどの個体よりも元気で体力がある。
僕のイクナだ。
なんか、ちょっと気恥ずかしいな。
第二章は46羽で終わりです。
その後書き溜めのために少しお時間をいただくことになると思います。
詳細はそのときにお知らせいたします。






