42羽 「それでいいんですか?」②
僕は、そのまっすぐな青い瞳を見返した。言っていることは理解できるよ。まあそうだろうなって思う。それに、スラグヴォルさんが重婚したくないって気持ちも理解できる。
でもさ。
「それは、あなたの逃げじゃないですか」
って、思っちゃった。
その僕の言葉に、クラヴェル王子はびっくりしたような顔をした。そりゃ、すごく悩んで僕にこう話しているんだろうな、とは思うよ。立場もあるんだろうし。でも、他にやりようはいくらでもあると思うんだ。テルク=ファルのお国のしきたりとかぜんぜん知らない僕がそんなこと言っても、いやいやそんな簡単じゃないって言われるかもしれないけど。
でも、巻き込まれてるんだから、意見ぐらい言ってもいいだろ。言っちゃう。
「本当にスラグヴォルさんが好きで、大切にしたいなら、よく知らない外国の人間に託すより自分で守りません?」
「……それができたら、しています」
「そうですか? やろうとしているように見えないです。だいたい、王様の遺言は、次の王様の決め方だけでしょ? その奥さんの決め方じゃないでしょ?」
クラヴェル王子は僕をじっと見た。僕もそれを見返した。ぬるくなったお茶をぐっと飲み干してから、僕はもっとつっこんだ。
「結局、クラヴェル王子のスラグヴォルさんへの気持ちって、そこ止まりなんだと思います。美しい話だとは思いますよ。引き裂かれた恋人の幸せを願うなんて、まるで歌謡曲みたいだ。でも、それに酔ってるだけじゃないですか。なにキレイにまとめようとしてるんですか」
「……あなたには、わからない」
「わっかんないですねー。そも、自分の好きな人を他の男に渡そうとしているのがまず理解できない。他人を引き合いに出して申し訳ないけど、おたくの外務卿のブロムなんか、なにかの法に触れているんじゃないかってレベルの愛妻家ですよ。彼があなたと同じ立場になったとして、あなたと同じ選択をするとは思えないんですよねー。どうにか裏で工作して、既成事実作ってでも結婚すると思います」
クラヴェル王子は口をぎゅっと結んで、なにか言いたいけど言えないって顔をしていた。クラヴェル王子としては苦渋の選択なんだろうけどさ。なんか、本当に好きだったらもっと泥臭くならないかなーって僕は思っちゃったね。
「でも……ラインフェリアは、あなたが好きなんだ」
「それ、本気にしてます? あんなの、恋に恋しているだけでしょ。申し訳ないけど」
幼馴染みだって話だったし、きっとクラヴェル王子以外の男性とどうこうって、考えたこともなかったんだと思う。そこに、こうやって僕との話が来て。なんか変わり種でおもしろがっているのを、勘違いしているだけだ。世間知らずのお嬢様だもん。恋愛っていうのに、憧れみたいのもあったのかもしれない。
「そりゃ、僕だってあんなかわいい子に告白されたら、グラッとしないってことはないですよ。男ですから。まんざらでもないです、正直」
そう言ったら、ちょっとだけクラヴェル王子が焦ったような顔をした。笑う。そうだよ。焦れよ。好きってそういうことだろ。
「それで、本当に、僕がスラグヴォルさんと結婚していいんですか? 結婚するっておままごとじゃないですよ? しっかり子作りとかエロいこととかエロいこととか、あとエロいこととか、いろいろしますよ? 僕、死にそうなおじいちゃんでもぬいぐるみでもないですからね?」
クラヴェル王子がガタって音を立てて立ち上がった。そして「……不愉快だ。失礼する」と言って出ていった。その顔が、いつもの柔らかい笑顔じゃなくてしっかり怒っていたので、僕は「よし、一件落着」とつぶやいた。
僕も帰るとき、ブロムがやって来て「ヨータくん、クラヴェル殿下になにをおっしゃったんです?」ってちょっと怪訝そうに尋ねてきた。
「なんで?」
「なんだか、私と妻の馴れ初めを聞きたいとか。時間を取ってくれと」
「ふーん」
よかった。ちゃんと焚き着いた。僕はブロムを見上げて聞いてみた。
「奥さんを僕にくださいって言ったら、どうする?」
「なるほどお目が高い美しく愛らしい我が妻ドランタに着目されるとはさすが鑑別師殿だそしていい度胸ですね受けて立ちましょう覚悟はいいですね」
「冗談です」
しばらくガチで警戒されました。前にグラが出してた警戒音とか幻聴で聞こえた。もしかしたら出してたのかもしんない。






