41羽 「ごめんなさい」②
すごくお似合いだと思う。春の陽みたいなカップル。だから、僕はどうしてスラグヴォルさんが僕の元に遣わされたのかが理解できない。スラグヴォルさんは、言葉を解きほぐすように述べた。
「テルク=ファルは、現在ドルテラン家が摂政として舵取りをしております」
「はい、聞きました」
「……次の王は、これから決まるのです」
僕は、スラグヴォルさんがそれに言及した理由を考えた。クラヴェル王子も、王位継承権を持つ人間だ。無関係ではないのだろう。いや、むしろ渦中にあるはずだ。
最初、僕がテルク=ファルに来たばかりのとき。クラヴェル王子は、お父さんである王様の名代として僕のところへやって来たと言っていた。詳しくは聞いてはいないけれど、ドルテランさんが表立って動いて国を支えなければならないほど、またクラヴェル王子が代わりに接待するほど、王様はたいへんな状況だということだ。
スラグヴォルさんの口ぶりからして、僕が滞在中に、亡くなったのかもしれない、と思った。
「本来ならば、ドルテラン家が動く必要もなかったのです。王太子がそのまま、王座に着くはずでした。けれど……ガルドリク陛下は、クラヴェルをとても愛しておいででした。継承権の順位に関係なく、ふさわしい人間が王権を執るようにとお言葉を遺されるほど」
「……なるほど」
タルクと同じ順位だったとしたら、クラヴェル王子は継承権6位だ。それなのに、駆り出されてしまった。それはきっと、他の王子たちも同じこと。
いろいろ、そのままではいられなかったんだろう。
クラヴェル王子とスラグヴォルさんが……想い合ったままでいては、いけなくなるくらい。
「コガ様がテルク=ファルへいらしたのは、そんな折でした。ブラズヴェル防衛卿から打診があり、わたくしは、コガ様にお会いする人間のひとりとなりました。ご記憶にございまして?」
「もちろん。女性がたくさんいらして……」
「はい。みな……このたびの王位に関連して、婚約が白紙になった者たちです」
思わず、僕は空を仰いだ。
十数人いたよ。あのとき。
「クラヴェルは……とても気持ちが優しくて、そして、真に民のことを思える人間です。わたくしはその姿を見てきました。きっといい統治をするでしょう」
「……でも、だからって、スラグヴォルさんとの結婚をダメにする必要、ないじゃないですか」
「彼、知っているんです。わたくしが、ただひとりの人と、愛し愛されたい人間だということを」
そう語るスラグヴォルさんの瞳は、やさしい色をしていた。いつくしむように、愛しむように、スラグヴォルさんは言う。
「王になれば……それは望めませんものね。多くの妃を娶り、子を成さねばなりません。彼、やさしいんです。わたくしが、それに堪えられないと、わかっているんです」
口の端をきゅっと上げて、スラグヴォルさんは笑った。僕はなんて言ったらいいかわからなくて、クラヴェル王子とスラグヴォルさんのそれぞれの気持ちを考えた。
「たくさん居た候補者の中から、わたくしが何度もこうしてコガ様をお訪ねするようになった理由、おわかりになります?」
「あー、なんだろう。身長かな。僕より小さいから?」
「あら、うふふ。まあ、そんな風にお考えでしたの? 体格は関係ありませんわ」
「じゃあ、なんだろう」
小弦楽器が弾けるから? それも違う気がするな。スラグヴォルさんは僕をじっと見て、それから静かな声で言った。
「イグネラ・ファルヴォルン様も、フェルミリア・クルファルド様も、コガ様のことを好ましいとおっしゃっていましたの。なので、これから接触があるかもしれません」
「うえー、そうなんだ」
思わず本音の声が出てしまった。どうすっかな。結婚とか考えるわけがないんだよ、日本へ帰る気なんだから。それに、たしかにみんなキレイだけど、北欧系美人が好きかって言われたらそうでもないっていうか。いっしょに生活するイメージが抱けないなあ。タルクとの生活はまあ、慣れたけど。
自分の与り知らぬところで自分の株が上がっているらしい話を聞いてもピンとこない僕を見て、スラグヴォルさんはすごくたのしそうに、ころころと笑った。僕もちょっと、つられて笑った。
「……わたくし、クラヴェルに言ったのです。最後のわがままよって」
その声とまなざしは柔らかくて、悲しみではなかった。諦めの空気もなくて、ただ、そっとなにかを手放したような、小鳥を空に帰したような……そんな気配があった。
「わたくし、あなたよりやさしい人じゃなきゃ、嫌だわって」
スラグヴォルさんは、僕をじっと見て、僕もそのキレイな笑顔を見返した。
僕は、それにどんな言葉を返せただろう。
「コガ様がいいです。わたくし、あなたがいい。あなたを恋しております」







