41羽 「ごめんなさい」①
キャラヤがめっちゃ心配しているし怒っているっていう体で、可及的速やかにヴェルク=シーヴィへ帰ることになった。なぜなら、タルクがかねてから警戒していた事態に陥りそうだから。
どういうことかというと。
「……全員にだと」
「うははははは。まじで?」
警備さんたちに、お見合い話が来ました。僕たちにテルク=ファルで地縁を得てほしいみたいです。平たく言うと足止め。あからさま過ぎて笑った。ちなみに警備さんの中には既婚者もいるんですよ、ええ。だめだろそれ。
ちなみに当然タルクにも。お相手は由緒正しいお姫様。僕たちが滞在した宮殿へ正式なお伺いを立てた上でやって来られたから、国際儀礼上断ることもできなくて、めちゃくちゃ不機嫌な顔でお茶してました。僕もむりやり同席させられた。すんげーゴージャス美人。これはもう、タルクの相手って感じですわ。どんな話を振ってもタルクが答えないもんだから、なんか僕とお姫様で空気読み社交辞令合戦になった。疲れた。二時間ぐらい拘束されたかな。
そして、僕はと言うと。
「またお会いできてうれしゅうございます、コガ様。このたびはお慶び申し上げます。カイラントでのご活躍は、ずっと耳にしておりました」
ゴージャスお姫様の後に見たから、なおさら小さくて、かわいいって感じる。……クラヴェル王子の従姉妹の、ラインフェリア・スラグヴォルさんがやって来た。
なんか僕はもう、お茶はいいやっていう気だったし、しかも初対面ってわけでもないから、お庭でも散策しましょうかーとなった。スラグヴォルさんだって、来たくて来ているわけではないだろうし、ちゃんとお断りしなきゃいけないな、とは思っていたので。
小さい桃色の椿みたいな花が咲いている並木道をふたりでゆっくり歩いた。ここずっとハルシーピちゃんに乗って走りまくっていたから、こんな風に落ち着いて景色をたのしむなんてひさしぶりだ。なんて言えばいいのかなあ。大学時代の元カノも僕がフラれる側だったし、いい感じの言葉が思い浮かばないよ。うーん、このたびは、ご応募いただき誠にありがとうございました。厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回はご期待に添えない結果となり……うーん。
「……コガ様は、本当にお優しい方ですのね」
歩きながら桃色椿っぽい木を見上げていたら、スラグヴォルさんがそうつぶやいた。僕はスラグヴォルさんを見て、ちょっと考えてから「どうしてですか?」って聞いた。
「だって、わたくしが傷つかないですむ言葉を探してくださっていますもの。最初にお会いしたときから、ずっとそうでした」
花の甘い香りを乗せた風が僕たちの横を通り過ぎた。スラグヴォルさんはすごくたのしそうに笑って、僕を見た。まあドキッとしたよね。かわいいもん。
「エルシ公翼は、フェルミラ様にお言葉をくださらなかったと伺いました」
「うわー、もうウワサになっちゃってます? そうなんですよ、ひとっ言もしゃべらないから、僕とお姫様でどうにか場をつないで」
「うふふ。それはもう、とってもお怒りでしたわ。こちらへ伺う際に、お会いしまして」
そりゃそうだよなあ。テルク=ファルでは女性に王位継承権は発生しないらしいけれど、タルクの相手に選ばれるくらいだから、ちゃんとした立場の人だろうし。僕はとりあえず「すみません。あの、うちのタルクが失礼しましたってお伝えください」と言った。スラグヴォルさんは「はい。言付かりました」と言ってくれた。
「コガ様は、こうしてわたくしと、会話をしてくださいます」
「これが普通ですよ。タルクがおかしいだけ」
「そうでもございません。コガ様の警護の方たちへも我が国の者が伺っておりますでしょう?」
スラグヴォルさんは首を傾げて僕を見上げた。水色の瞳がキラキラ光っている。
「あー、はい。みんなに結婚話が来たって」
「みなさん、エルシ公翼のように態度で拒絶されます。それが、こうした場合では有効なのです」
「えーっ」
そんなん知らんかった。え、どうしよう。今さらだよな。僕はなんとなく首痛めポーズを取って立ち止まって、考えをまとめてからスラグヴォルさんへ向き直った。
「あの、スラグヴォルさん。僕はそういうの、あんまり好きじゃないんで、ちゃんと言葉で言いたいんですけど」
「はい」
「結婚とか、それにつながるおつきあいとか、僕は考えてないです。だれとも。なので、ごめんなさい」
スラグヴォルさんは、きゅっと口端を上げて笑って「はい」と言った。ドキッとした。
「コガ様。少しだけ、わたくしの身の上話をしてもよろしゅうございますか?」
「えっ、あ、はい」
ベンチがあったので、お互い座って。スラグヴォルさんの服、キレイなのに汚れちゃわないかなって座ってから思った。スラグヴォルさんは、向こう側の花垣を見るみたいに視線を遠くに投げて、思い出すように言った。
「わたくし、物心つくころから、ずっとクラヴェルといっしょに育って来たのです」
そうなんだろうな、って思う。ふたりは容姿が似ているだけじゃなくて、柔らかい空気感もすごく似ている。どこか話し方の抑揚とかも。僕は話の腰を折らないように、ただうなずいて聞いた。
「いつかは、クラヴェルと結婚して、穏やかな生活を送るのだと思ってきました。それが当然のことだと、疑ったこともなかった」






