40羽 「なにそれうれしい」①
空高く、タルクがグラに乗って飛んでいる。僕はと言えば、無軌道なハルシーピちゃんに乗って、その後を追うように平地を駆けている。
グラにプロポーズしたハルシーピちゃんは、僕を同志と思ってくれたみたいだった。元々僕以外乗せたくないっていう姿勢だったんだけれど、グラが僕に懐いてくれているのを見て、さらにその傾向が強まった。むしろ、他の子に乗ろうとしたら阻止してくるくらい。その分ちゃんと言うことを聞いてくれるようになったし、グラが飛んでいる方向へと走ってくれるからとても楽。
カイラントを出発してから8日。予定よりも2日も早く、ドルテランさんと待ち合わせした遺跡へと着いた。グラが飛んでいる姿を見て察したドルテランさんも、じきに合流してくれた。
「公翼殿の愛鳥に会えるのは特権です。さすが、すばらしい体躯のハルシーピだ」
ドルテランさんはグラを見てうやうやしくそう言った。やっぱタルクって偉いんだなあって思った。タルクはグラを褒められて悪い気はしないって感じだった。元からおっきいなあとは思っていたけど、ぷくぷく太ったあとに筋トレとダイエットをがんばった感じで、なんかかっこよくなってたんだよね、グラ。ハルシーピちゃんが一目惚れするのもしかたないかなあ。そんなこと本鳥に言ったらいよいよ離してくれなくなりそうだから言わないけど。
そして、野営の準備が終わったあとに、ドルテランさんが言った。
「この後は、ぜひとも我が国の首都テルクヴォルムへお越しいただきたい。円環守総長にはその旨を伝えましょう。有事を助けていただいた方を、なにもおもてなしできずに見送るのはテルク=ファルの流儀ではありません」
まあ、進行方向にあるらしいし、せっかくだからどんなところか見てみたい気もする。めっちゃ嫌そうな顔をしているタルクをスルーして「ええ、まあ。遅くならない日程でなら、寄ってもいいかなあ」と、乗り気じゃない風に返事した。着いてきてくれた警備さんたちの気苦労が増えるかもしれないけれども。都会ってガードするのがけっこうしんどそうなんだよね。人が多いから。
「……本当なら、私の古巣であるイグニファルにもお招きしたかったのですが」
本当に残念そうに眉尻を下げて笑って、ドルテランさんがおっしゃった。南の沿岸沿いの都市だって聞いていたから、そっちを経由しちゃうと、また一カ月延長コースだよなあ。僕は「僕が陸移動しかできないばっかりに、すみません」って頭を下げた。陸送騎乗用ハルシーピでの移動はとても速いけれど、空を飛ぶならさらに半分まで時間短縮できるらしいからね。それに、ここまで警備さんの人数は必要なかったと思う。ドルテランさんは「とんでもないです」と驚いたように言った。
「鑑別師殿の身になにかあっては大変です。誓約を果たされませ」
僕、呪い師として空を飛ばない誓約の元にあるって設定だからね。はははははーって笑ってごまかしておいた。
遺跡からは陸送騎乗で更に6日。それなりの大所帯の僕たちは、準備万端で待ちかまえていたブロムたち……なんかもう、懐かしく感じる趣味防衛おじさんとか、クラヴェル王子とかに盛大に迎え入れられた。
うん。僕の感覚が合っていたら。
パレードだ、これ。
ファンファーレみたいのが響く中、ドルテランさんが先頭で、その次がタルクで、警備さんたちに取り囲まれながら僕、みたいな感じでテルクヴォルム都内へ入って行く。ちゃんと交通規制はされていて、それは以前ヴェルク=シーヴィに近いファルガントっていう都市で歓迎されたときと同じ。テルク=ファルってこういう統制がしっかりしているんだな。歓声がすごい。お花が舞ってる。いったい僕、どんな感じで祭り上げられてるんだろう。なんか聞きたくないな。
しっかり一時間はのろのろ歩かされたと思う。僕はなぜかハルシーピちゃんに乗せられたままだったけれども。なにそれ。ハルシーピちゃんは注目されておすまし顔でお行儀よく行進に従っていた。入る前にドルテランさんがしっかり言い聞かせてくれたのも大きいと思うけど、気分屋なだけでやっぱ賢い子なんだよね。
宿というか……宮殿みたいなところに着いた。タルクの背中がげんなりして見えた。ブロムが満面の笑みで迎えてくれて「ようこそ、テルクヴォルムへ」と両手を広げた。
「なんかさあ、ああいうのって、本人へ知らせずにやるもの?」
「驚きましたかー? 我が国の恩人を首都へお招きするのですから、このくらいのことはしないとー!」
「僕は、できることやっただけ。……カイラント、今、どうなってるの?」
割り当てられた部屋、めっちゃきらびやかだった。ベッドがでかい。僕が20人眠れる。タルクは隣の部屋へ。僕について部屋に入って来たブロムへ、旅装を解きながら質問すると、ブロムはすっと表情をあらためて「はい。おかげさまで、多くの個体が予後良好とのことです」と言って、懐から出した紙を僕へ差し出した。
「ヴォルク医務官から、ヨータくんへ手紙を預かりました」
「えーっ、ありがとう。なにそれうれしい」
お風呂へ入りたかったけど、もちろん先に手紙を読んだ。日付は5日前。手紙だけなら、人を乗せたハルシーピよりずっと速い伝書鳥がいるんだって。時候の挨拶と、現状どんな感じかの報告。そして、僕への謝罪。







