39羽 「大成功です」②
それからは、ひたすらトライアンドエラーだったかな。あーでもないこーでもないって言い合って。僕が来た理由は多少なりともあったとは思う。でもやっぱ、ずっと現場に寄り添っていた医療班の方たちのひたむきな努力が功を奏したと思う。少しずつ状況は良くなっているような気がした。ほんと、少しずつ。
今、陸送騎乗用ハルシーピちゃんたちへは、冷ました昆布出汁の具無しアラ汁を提供している。塩分過多にならないように薄めるけど、栄養を摂るにはそれが手っ取り早いじゃんってなって。ちょっと回復してきた子たちへは、もちろん固形物も出して。
虫に関しては、暑い内に根絶するのは難しいかもってなった。でもとにかく濡れた毛布とかかけまくって、ハルシーピ舎の湿度を保つようにした。あとは、医療班の方たちがたゆみなく続けて来た対策を、続ければ、きっと。
正直なところ、現在もうすでにかなり体調を崩してしまっているハルシーピちゃんたちの、回復は難しいかな、と思っている。鶏のKNDyニューロンは比較的プラスチック性が高くて、環境変化で回復しやすいんだけれど。肌感覚的にハルシーピにはそれは当てはまらないと感じている。それに……卵を産み続けて疲弊した子たちには、元には戻れないほどのダメージがある。
肝臓はやられていて、カルシウムの輸送障害もあって、腹水による様々な障害が見て取れる。
僕は、安楽死の選択肢をみんなに示した。
半分くらいの人に、泣かれちゃったな。
症状が初期の子たちは、だいじょうぶ。栄養補給ができたら数日で立ち上がれるようになった子もいるくらい。だから、なにもかもダメだったわけでも、遅すぎたわけでもない。希望はある。だいじょうぶ。
僕が見届けられたのは、そこまで。
テルク=ファルへ来てから、二カ月も経った。キャラヤから「そろそろ帰って来い」っていう手紙が届いた。
「本当にお世話になりました!」
カイラントを発つ日、長期滞在になった宿を引き払ってあいさつすると、店員さんから今生の別れみたいなあいさつをされた。
それはそうだよね。極東に位置するカイラントから見たら、最西端の国であるヴェルク=シーヴィからの客なんて、そうそうないだろうし。警備さんたちにも、一生に一度も来ない場所だって言われた。タルクはめちゃくちゃたくさん珍味を買い込んでいた。
状況が少しだけ落ち着いたので、ドルテランさんは自分のお家があるイグニファルという都市へ帰っていた。そりゃあ、現在のテルク=ファルの代理支配者だもんねえ。ハルシーピのことは国難だから真っ先に取り掛からなくてはならなかったんだろうけど、他にもたくさんお仕事あるよねえ。来る途中で立ち寄った、遺跡の場所で落ち合う予定。元気なハルシーピちゃんたちの退避場所も、そこだからね。僕たちが乗ってきた子たちは、そこからカイラントまで迎えに来てくれている。
医療班の方たちが、総出で見送ってくれた。初めましてのときに、あんまりいい印象のなかったヴォルク医務官とも、ちゃんと打ち解けられた。話してみたらすごくひょうきんな人だった。そして、ハルシーピがだいすきだった。
ちょっと名残惜しい気もする。うん。でも、やれることはやった。
ブロムがハルシーピに乗ってやって来た。ちょっと遠くに降りてから、早足で僕たちのところへ来る。そしてタルクを見て言った。
「エルシ公翼、もしかしなくても、私をつけ回して来るハルシーピ、あなたの愛鳥じゃないですか?」
「えっ」
キュオー!
遠い声が近くなってくる。空に、確かにこちらに向かってくるハルシーピ。
「えーっ、グラ⁉ まじで⁉ 来ちゃったの⁉」
「そうか。問題なく飛べるようになったか。……よかった」
地面に降り立ったところへ、タルクが駆けて行った。僕も。うわー、なんかスリムになってるよ、グラ。ダイエット成功おめでとう。
タルクに会えたのが本当にうれしいみたいで、グラはくちばしを叩かれて羽根をばっさばさしていた。そして僕を見たらきゅああぁあー! と変な声を出す。
近づいたらめっちゃ横腹に頭をすりすりされた。それを見てブロムは吹いていたし、お見送りの医療班の方たちはざわっとして顔を見合わせていた。……最後の最後に変な印象を残しちゃったなあ。
お腹の傷は、すっかり塞がったみたいだ。タルクが確認してたら、グラはだいじょうぶだ、と言うように胸を張った。
そして、背後からキュアー! という、他のハルシーピの声。
振り向いたら、陸送騎乗用の子が引き留める警備さんの手を振りほどいてこっちへ駆けて来た。あっ、最初に僕が乗っていて、国境越えしちゃった子だ! 僕の隣まで来て立って、グラを見た。
そして、もう一度キュアー! と鳴く。
タルクが、真顔で吹いた。グラがびびっていた。そしてそのハルシーピちゃんは……グラの胸に飛び込んだ。
メスからの求愛って、珍しいらしいよ。






