38羽 「立ち会えるかな」②
その後の僕といえば、本当に役立たずだったなあとは思う。ハルシーピちゃんたちといっしょにいることはできたけど、添い寝は反対されてしまったし。ただ、僕が高熱で倒れたとき、虫の噛み跡の特徴や症状のサンプルを取れたのはよかった。それのおかげで世界各地の文献に当たることができたみたい。ブロムがかなり動いている。それに、腹水の溜まった理由としてきっと肝臓が弱っていることを指摘した件で、肝臓に効くハーブみたいのを飼料に混ぜ込んで与えていたのが功を奏して、ちょっとずつお腹が小さくなってきた。ただ、どうしても軟らかい卵は産んでしまう。だから、腹水と産卵異常は別問題なんだろうって当たりがついた。
この時点で、僕がテルク=ファルへ渡って一カ月が経過していた。さすがにここまで長期滞在になるとは思わなかったな。その間、僕は7羽のハルシーピを見送った。
そして、息が絶えた8羽目の、頭をなでていたとき。
「特定できました。それに、産卵異常の件も」
高価な紙をおしげなくバサバサと持って、ドルテランさんが早足でやって来た。僕は立ち上がって「よかった!」と叫ぶ。
ブロムが世界各国を文字通り飛び回って、お国の要人に頭を下げまくってそれぞれのハルシーピの病気に関する情報を引き出して来たらしい。なにせハルシーピ関連は国家機密だったりするから、本当に大変だったと思う。やっぱりブロムって有能なんだなって。ていうか、外務卿よりCIAみたいな組織のが向いてるんじゃないかな。しらんけど。
それで、僕がぜんぜん知らないグラ=ゾルムという国から、もらった情報に。
夜間にハルシーピの血を吸って皮膚病を発生させる小さな虫に関するものがあった。なんで僕が刺されたんだよって文句を言いたい気持ちはあるけれど、まあいいや。これで対処ができる。そして、副次的に。
「我が国は、メスのハルシーピを陸送騎乗用として訓練し、各国へ輸出しています」
「うん、前に聞きました」
「グラ=ゾルムでは以前から、我が国から来た陸送騎乗用ハルシーピに生じる病気の知見があった。……やはり、猛暑が要因となるようです」
そうだろうな、と思うことはあったので、僕はうなずいた。猛暑が続いた場合、一般的な鶏でも指で押すと形が変わるくらいの軟卵を産むことがある。2000個にひとつくらいの割合いだけどね。テルク=ファルの陸送騎乗用ハルシーピたちは、その比じゃない数……すべてが軟卵で、しかも通常なら年に二回の産卵期以外には産まないはずなのに隔日くらいのペースで産んでしまっている。
グラ=ゾルムは、年中暑い気候らしい。なので、わりと年中気候が穏やかな環境で生まれ育ったテルク=ファルのハルシーピの短命さが問題になっていた。自分たちで陸送騎乗用に調教できるなら、それが一番いいんだろうけどね。その技術は秘匿されているから、では、来た子たちを対処させるしかない。そうして生まれた、知見。
僕も資料を読ませてもらった。そしてドルテランさんや他のハルシーピ医療班の人たちと、話し合った。
ぜんぶが連動しているんだろう。どれかひとつが原因ではなくて、ひとつ崩れたところへ、またひとつ崩れて。だから、ひとつずつ解決していくしかない。
きっかけは、テルク=ファルの記録上、類例のない昨年の猛暑。それで、飛ばないテルク=ファルの陸送騎乗用ハルシーピたちは、逃げ場がなくて弱りきってしまった。排卵コントロールが利かなくなって、産卵異常はきっとそこから。
そして、卵を何度も産むから体が栄養不足になる。そもそも夏バテで食べる量も減っていた。体に負担がかかりすぎての肝障害と腹水。とどめは……グラ=ゾルムで『ハルロイネン』と呼ばれている、ハルシーピの血液を好む、暑い地方にしか生息しない、虫。
一連の流れを、みんなと整理して、共有した。ぜんぶ事実をつなぎ合わせて、僕の知識の範囲での説明でしかなかったけれど。
あとは、どう対処するかだ。
なんだか納得できないのでこの話はそのうち加筆します






