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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。
第二章 テルク=ファル

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37羽 「そのつもりだったけど?」②

 想像よりはずっとハルシーピのエサって美味しかったよ。タルクも文句言わずに食べていた。直食いじゃなくてさすがに二股フォーク使わせてもらったけど。

 人間でいうところの嚥下障害を抱えた方向けの刻み食みたいな感じだった。総合栄養食って言われているライードを刻んで、ハルシーピの主食でもある鶏も細かくして、炒めて。味つけはもちろん人間っぽくないから、まあ醤油ほしいなって思ったけど。僕といっしょだってわかると、添い寝していた子ががんばって食事しようとしてくれた。タルクもドルテランさんも同じだったみたいで、看護の人たちが泣いてよろこんでくれた。症状が重くなるにつれて、食事も嫌がるようになるんだってさ。ハルシーピは賢いから、きっと気持ちの問題もあると思うんだ。

 僕みたいにこのために来た人間はただいっしょにごろんと横になっていればいいけどさ、他の方たちはそうもいかない。でもなるべくそうした方がいいのかもって思った人が、僕らの真似し始めた。いちおう僕らも、体はひとつだからね。ぜんぶのハルシーピに着けるわけではないし。

 僕はなるべく、ハルシーピちゃんに負担をかけないように、意識がはっきりしていそうなときに話しかけるだけで、あとは本当に添い寝に徹した。もちろん、卵を産みたがったときは看護の人たちとそれを手伝ったし、出てきた卵が実際に軟殻化していることも確認した。……かわいそうに。


 ときどき、看護の人以外の医療班の人がやってきて、僕に相談していく。


「鑑別師殿、先日おっしゃっていたことで――」

「飼料に混ぜ込むものについて――」

「この環境のことなのですが――」


 みんな、横になっている僕を申し訳なさそうに覗き込んで話しかけて行く。僕は思ったことを言う。そんな感じ。


「すべて人間と同じ見方をするわけにはいかないけれど、でも考え方の方向性は合っていると思います」

「肝臓が弱っていることは確実だし、腹水はそれが原因です。なにか、肝への薬効が認められる薬か、飲食物を薄めて――」

「ああ、思ったより快適ですね。僕、ハルシーピも務まるかもしれません」


 ハルシーピといっしょに過ごすことは、正直思いつきだったんだけど、いろんな効果が絶大だった。まず、医療班の人々の間で僕への評価が爆上がりしたっぽい。現場へ入るにしても、まさかのハルシーピ目線とはだれも思わなかっただろうしね。それだけ、僕が本気で原因究明したいって思っていることは伝わったっぽい。

 最初のうちは差し入れとか持ってこられる人がときどきいらしたんだけど、そもそもハルシーピと同じ生活したいから寝ているので、持ってこないでってお願いして徹底してもらった。お菓子とか作って持ってきてくれた人には申し訳なかったな。タルクがよろこんで食べてくれたけど。


「……ヨータ」

「なに」

「これ、いつまで続けるんだ」

「どうしようねえ」


 4日目に、タルクが音を上げた。一番平気じゃないかと思ってたんだけど意外だ。もしかしてお風呂へ入る清潔ライフに目覚めたのかな。そんなわけないな。

 ドルテランさんは、さすがに現場指揮の人だから、ずっと寝ているわけにもいかなくて、夜だけここで寝る感じになっている。むしろそれじゃあ疲れが取れないだろうから、普通にベッドで寝てくれてかまわないんだけど。それを言ったら断固拒否された。なんで。


 僕もさ、平気ではないよ。自分ばっちいなって思うし。頭かゆい。でもさ、気になることがあって。


「亡くなったハルシーピちゃんたちの肌、見ただろ」

「ああ。かさぶたみたいのがあった」

「あれってさ、どの段階で生じると思う?」


 僕が寝転がったまま問いかけると、立板の向こうで熟考しているんであろう沈黙が流れた。


「……たしかに。いつだろうな」

「なにか原因があるはずなんだよ。そして、記録を見る限り、ほぼすべての亡くなった子たちには、あの症状がある」


 タルクが起き上がった気配。ややあってから、すごくほっとした声で「……よかった。こいつはだいじょうぶだ」とつぶやく。


「でしょ。ここにいる子たちには、まだ生じていないんだ。ていうことは、あれがとどめになっている可能性は、あるよね」

「……どうしたら」


 僕は、寝返りをうって伏せて、隣のハルシーピちゃんの寝顔を見た。


「……ふつうの乾癬だったら、栄養のあるものを食べて、身ぎれいにして、保湿をしっかりすれば予防はできる。でも、この4日でわかったけど、それだけのお世話はされているよね」

「うん」

「なにか、あるはずなんだよ。他に、外因……原因となるものが」


 それは、次の日にわかった。


「……いってえ……」


 朝目が覚めたら、僕の左ふくらはぎが、ボトムスを脱げないくらいにパンパンに腫れていた。それに、とんでもない熱を持っている。

 タルクが「どうした?」って心配そうに声をかけてた。僕は「足、腫れた。ハサミとかないかな。とりあえずどうなってるか見たい」と言ったら、起き上がって看護の方を呼びに行ってくれた。

 で。すね毛処理できていない僕の足をみんなへ見せることになっちゃったんだけど。


「……あー、これは、鳥肌ではわかんないわ」


 一箇所、内側がとんでもなく腫れていて。

 どうみても、虫に食われた痕があった。

 そして、僕、高熱出して寝込んだ。だっせえ。

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