36羽 「得意だもん」②
僕も風呂に入って仮眠してから、届けられた記録に目を通した。すごく高価なのに、惜しげなく紙を用いて記してあった。前に西部へヴォルク医務官が持ってきてくれた記録よりも、それぞれの個体に焦点を当てた詳細な点。今回は、僕が言った「体温調節ができていないんじゃないか」という点を加味して対策を取った結果も加えられている。……よかった。1割くらいは症状の軽減があったらしい。だとしても、延命にしかなっていないみたいだけれど。
ドルテランさんは、宣言していた通りテルク=ファルの中央部の比較的気温がマシなところへハルシーピを移動させる指揮を取っていた。なので僕たちを呼びに来たのは翌日の夕方くらいだ。それまでに僕は、タルクにでもわかるように起きていることを説明するにはどうしたらいいかな、とか思いながら考えをまとめていた。
「KNDyニューロンてなんて言えばいいんだ……」
「なんだそれ。美味そうだな」
「あっ、そうか生殖中枢か」
連れて行かれたのは陸送騎乗用ハルシーピ舎。窓や扉を全開にして風通しをよくし、かつ低くて大きい三角屋根の上に、何枚も布が広げて打ちつけられていた。突貫の日差しよけかな。
タルクは無言で汗ダラダラだった。ついてきてくれた警備さんの何人かも同じ感じ。なんかごめん、みんな。
僕たちが来たら、ハルシーピに寄り添っていた医療班やお世話の方たちが順繰りに立って右手を胸に当てた。僕も慣れたもので、それに片手をあげて答えた。
「さて。どこから見てもらえばいいいのか、わかりませんね。ご覧に入れている通りです。ここに残ったハルシーピは、移動に堪えられない個体たちです」
一番近いところにいる子へ、近づいた。鳥らしくなく、地べたに横たわっていて、虚ろな瞳で僕を見る。……腹部が異常に膨張していた。あまりに気の毒で、息を呑んで僕は「……がんばっているね。よくがんばってる」と声をかけるしかなかった。
生理的なものかもしれないけど。その子の目から、ポロッと涙がこぼれた。
立ち上がって、ちょっと離れてから、僕は小声で言う。
「……あの。症状の重い子たちにムリをさせたくないので、よかったら……もう亡くなった子の体を、見せていただけませんか」
「ご配慮、感謝します。……ヴォルク医務官。ご案内して」
「はい」
ハルシーピ舎の、奥の、奥。灯りもなかったので、ヴォルク医務官がオイルランプに火を着けた。ぼうっと照らされた中には、横たわってぴくりともしない、6体のハルシーピ。ずっとここに置いておくわけにはいかないから、きっと本当に直近に亡くなったんだろう。タルクがはっと息を呑んで、震えた。僕はその肩を軽く叩いて、中に入った。
「……検死結果は、通常のハルシーピとどう違いますか」
「まず、ご覧いただいた通りに腹水があります。それと、皮膚炎を発症している個体が多く、今ここにいる個体はすべてです」
「……肌を、見てもいいですか」
「はい。……気持ちのいいものではありませんが」
ランプを床に置き、寝かされている子の羽根を持ち上げて、ヴォルク医務官が見せてくれた。死臭にいっしゅんだけうっとなってしまったけれど、目を背けてはいけないと思って、見る。
いわゆる、鳥肌。ぶつぶつしている中に、乾癬のようなものが広がっている。……かわいそうに。全身かきむしりたいくらいだっただろうな。僕は「……ありがとうございました」と述べて、羽根を下ろしてもらった。
「たぶんもう対策は取られていると思うので、確認なんですが。エサと飲水の管理は?」
「この高温ですので、とにかく傷みが生じていないものを選別して与えています。水は一度煮沸して冷ましたものを。エサは、通常のものはそれまで通り食べられない個体が多いので、乾癬の対策として、最近はライードを多めに」
「それは、栄養面から?」
「そうです。昔から、皮膚炎にはライードがいいと言われていますし」
うーん、と思って、僕はその部屋を出た。続いて出てきたヴォルク医務官とタルクへ「みんなで手を洗いましょう。他の個体に、なにかを移したら困るから」と言ったら、ふたりはあわあわとした。
「亡くなった子たちは、どのように埋葬していますか?」
「ハルシーピの亡くなった手順にしたがっています」
「というと?」
「4日悼み、そののちに土葬です」
僕はヴォルク医務官と、外で待っていたドルテランさんへ言った。
「それ、やめましょう。この暑さの中で4日も遺体を放置するなんて、あり得ない。今この部屋に安置している子たちも、すぐに火葬へ。とにかく、生きている子たちに、生きてもらわなければ。じゃないと、ある種の病原菌は、伝播する」
「……でも、それは」
ヴォルク医務官がいっしゅんなにかを言いかけて「……いえ。そう手配します。今は、伝統がどうのとは、言っていられない」とつぶやく。
ドルテランさんも「……火葬か。なんとも、かわいそうなことをしてしまうな。私たちは」と独り言ちてから、僕を見て「すぐに、そのように」と言った。
タルクは、泣きそうな顔で黙っていた。僕はその肩を叩いた。






