36羽 「得意だもん」①
「――と、いうわけでして」
「なーんだ。やっぱ怪談じゃなかったー!」
朝起きて煮炊きをしているときに、ドルテランさんから解き明かしをもらった。
自分の身分とかを笠に着て、むりやりフィールドワークに参加してきた小僧のドルテランさんをこらしめるために、他の調査員さんたちが団結して仕組んだドッキリだったんだってさ。
「当時、私は相当のやんちゃでしてねえ。あと、自分が賢いと思っていた。鼻っ柱を折ってくださった、あのときのみなさんには本当に感謝しています」
「ドルテランさんがやんちゃって、あんまり想像できないですね!」
「ははは、ありがとうございます」
警備の方たちの間にも、なーんだっていう空気が流れた。たしかに、あの話の解き明かしは時間置いた方が効果的だったね! 眠れなかった人もいたみたいだからね!
そして、気を取り直して、移動へ。なにごともなければ遺跡から約5日で目的地のカイラントへ着く。なにごともなければ。
僕は、前に言われた通り幌ハルシーピ車へ。ブロムも乗った。ドルテランさんとタルクは、そのままハルシーピ騎乗で。うう、なんか情けないし申し訳ないし。
お陰様でかなりのスピードで進めたと思う。ただ、本当に進むにつれて暑くなっていく。ブロムは上着を脱いで「あー、私が生まれてこのかた、初めてですよ、こんな暑さ!」と言いながらうんざりした顔をした。
ハルシーピたちも、だんだん元気がなくなっていくのが目に見えてわかった。なので、僕たちを運んだらすぐにまた西方面へ向かわせるみたい。
「ヨータくん……なんでそんな活き活きしているんですか……」
「だって僕、暑い方が得意だもん」
九州は福岡に生まれ育ったからね。夏場は真夏日が続くのは当然。むしろ続いてくれないと夏が来たって気がしない。ヴェルク=シーヴィなんかは、年中春か秋っていう気候で、なんだかシャキッとしなかったんだよね。だから、気分的にはありがたい。ハルシーピの病気の原因かもしれないから、そんなこと口が裂けても言えないけどさ。
予定通りの日数で、カイラントへ到着した。見た目は西部のファルガントと似た感じの城塞都市だった。高い壁の上から、僕たちへ向けて大きく旗が振られている。先頭のドルテランさんが赤い布を振り返している。
開門されて、やはり多くの人たちがわらわらと出てきた。そのうちのいくらかは、ドルテランさんと同じ灰色の貫頭衣を着ていたから、ハルシーピ関連の医療団の人たちだと思う。ずっと待ってくれていたんだよね。時間がかかってごめんなさい。
城壁沿いに厚手の布が張り巡らされて日陰が作ってあった。打ち水もしてあった。ハルシーピたちはそこで休ませるらしい。たしかに城壁の中に入ってしまったら、気温がもっと高そうだものね。外よりぜったい風通し悪いもん。
ブロムといっしょにハルシーピ車から降りたら、数名の医療団の人たちがやって来て「ごあいさつ申し上げます」と言った。あ、ファルガントに来てくれた……名前わすれた。
「先日は、たいへん失礼いたしました。現在いただいた助言に従い、対策をとっております。謝って許されることとは思っていませんが、どうかファルガントでの不遜な言動の数々、ご容赦ください。ハルシーピたちの件が解決し次第、どんな罰も受けるつもりです」
「えっ、いやそんな大げさに考えないでほしいんですけど」
「とてもいい心がけですね、ヴォルク医務官。まずは目の前の問題に取り組んでください。あなたの処遇はその後に」
僕の言葉そっちのけでブロムがそう言って、ヴォルク医務官さんは目を伏せて「承知しました」と言った。えっ、まじで待って。べつに罰とかまじで望んでないんだけど?
タルクは、休ませたハルシーピたちを点検していた。やっぱテルク=ファルの陸送騎乗用だとはいえ、気になるんだろうな。そしてめっちゃダラッダラ汗をかいている。だいじょうぶか。ハルシーピより先に脱水で倒れない?
とりあえず、長広い水桶からがぶがぶ水を飲んでいるハルシーピたちはだいじょうぶそうだ。よかった。
「ご案内します。すぐにでも現場にお連れしたいが、まずは旅の疲れを癒やしてください」
ドルテランさんがやって来てそう言ってくれた。僕はいちおう「すぐに現場でもかまいませんけど、たしかに、清潔な状態でハルシーピたちに会いたいので、風呂をいただきたいです」と言った。感染症とかの場合も視野に入れて行動しなきゃ。鳥インフルエンザのときの対策マニュアル、書き出した方がいいかな。
「あと、もし記録があったら、産卵数の推移やそれぞれの個体がどの段階で死んでしまったかについて伺いたいんですが」
「はい、詳細に記録しております。後ほど宿にお持ちしましょう」
ドルテランさんの先導で、かなり大きい宿へ。大所帯だからね。街並みは、どこか埃っぽいイメージを抱いた。これは高温でカラッとした空気によるものかあな。それとも土壁のお家が多いからかな。
ちなみに、僕がさっき清潔な状態でハルシーピに会うって言ったからか、タルクは言われなくても自分からしっかり風呂に入った。えらいえらい。






