35羽 「なにそれこわい」②
僕がそうひとことそう言うと、いっしょに話を聞いていた警備さんの何人かが賛同した。タルクは眠そうだった。ブロムは「興味深いですねえ」と前のめりになっている。今日はまったく砂嵐がないけれど、もしかしておんなじように足跡があったりしないかな、と思って、僕は座ったままそこから外側を眺めた。まあなにもないんだけど。
地面に直接薪を組むんじゃなくて、野営をするときは銅製の穴が空いた円筒みたいのに資材を入れて火を点ける。基本的に毎回それ。火の始末がつけやすいのと、燃えカスによる延焼を防ぐためらしい。ここは遺跡でもあるからそれが徹底された。いくつかの島を作って、みんなどこかを囲む感じ。僕は要人島みたいな感じで、タルクとブロムと、ドルテランさんがいっしょ。でも、どの島の人もみんなドルテランさんの言葉に耳を傾けていた。
「続きは……明日起きたときにでも」
「えーっ、なにそれ! めちゃくちゃいいところで!」
僕が抗議すると、ドルテランさんはにこにこと丸メガネ越しに僕を見て、悪びれずに「いっぺんにぜんぶ聞いてしまったら、楽しくないでしょう?」と言ってきた。まあ、現在ドルテランさんが五体満足でいることを考えても、なにもなかったんだけど。
で、じゃあってことで、ドルテランさんのことを詳しく聞いた。
「ドルテラン家を……ご存じではない?」
「はい、すみません。世間知らずで」
警備の方から配られた食事は、携帯食を煮崩したもの。僕の一存でみんながこうやって不便な生活を強いられていることは、すごく申し訳ないなって思う。みんな、たぶんヴェルク=シーヴィに家族がいるだろうし、それにここまでの長期出張になるとも考えていなかったはずだ。それなのに僕は、彼らの名前も知らない。顔は覚えたけどね。どうして知らないかって言うと、タルクから「必要ない」って言われたから。
はっきりと「おまえは、もう下の人間の名前を覚えるべき立場じゃない」と言われてしまった。僕の言動に口を出さなすぎるタルクが、そこだけは強調して何度か僕に言い含めた。なので、文化的にそれは当然なことなんだと思う。すっごく、違和感はあるけどね。
ドルテランさんに関連してはとくになにも言われていないから、そういう会話はしていいんだと思う。たぶん。だから、僕が話しかけてもいいらしい、偉そうな家門のことを聞いてみた。タルクは食事に集中していた。
「そうか。……どう説明したものかな。テルク=ファルが、王政であることは?」
「はい、なんとなく聞いています」
「現在、王が空位なのですが。ドルテランは、その間の治世に責任を持っています」
あー、なるほど。そう聞いて、僕は藤原道長とかを思い出しながら「へー。じゃあ、摂政てことですね」と言った。ブロムがなんか居心地悪そうにもぞもぞしている。ドルテランさんはなんだか苦笑しながら「ええ、そういうことです」と言った。
「じゃあ、正直僕につきあって、ここに居ちゃいけなくないです?」
「それだけ、陸送騎乗用ハルシーピの件は、テルク=ファルにとって重大なことなのだとお考えいただきたい」
「そっかー」
そう言われたら納得するしかないんだけどさ。暫定とはいえ一国の最大権力者が、こんなところをうろうろしていていいのだろうか。そう考えたのがバレたのかもしれないけれど、ドルテランさんはざっと周囲を見回して「ここの、受け入れ状態も確認したかったので」と言った。
「受け入れ? どういう意味です?」
「ここでも、西部よりかなり暑いことは、おわかりになりますか?」
「そうですね、体感温度がかなり違う」
僕はこっちの東部のが好き。というか、慣れている。ファルガントがある西部は、僕が初生雛鑑別師の養成所に通った一年間を過ごした茨城県みたいな気候だった。住んでいた市は、春は桜がすごくて、冬はしっかり雪が降る、四季がわかりやすいところ。雪のある冬なんて初めてだったからまじでしんどかったけど、いい思い出だ。だからヴェルク=シーヴィへ来ても、そこそこ堪えられたっていうのはあるかもな。
ドルテランさんはちょっと言葉を選ぶように視線をさまよわせて、それから僕を見て言った。
「これより更に東部……カイラントは、ここよりも暑い。症状の軽いハルシーピたちを一時的にでも退避させられる場所を選定していました。ここならば、交代で世話人を置けば、しばらく逗留できるでしょう。カイラントへ戻り次第、そう手配します」
そっかー、そうだよなー。わざわざここに来る意味があったんだね。僕のせいで無駄足食ったとかじゃなくてよかった! たぶんね!
ていうことは、やっぱりさっきドルテランさんが話してた怪談もどき、べつに怖くないってことじゃんねー。ネタバレ食らっちゃった。
他にも、いろいろ聞いたよ。ドルテランさんは46歳で独身。元々は、歴史研究家みたいなことをして食べていて、今回はドルテランの一番位が高い人間として担ぎ上げられている感じ。子どもがいないから、摂政としてもちょうどいいんだって。どうして今王様がいないのかはわからないけど、クラヴェル王子みたいに王位継承権のありそうな若者が少なくとも5~6人いる中で、代理支配者に後継者とかいたらややこしくなるだろうからね。そこまで考えて、僕、けっこうやっかいなときにテルク=ファルへ来ちゃったような気がしてきた。しかも、隣国のめっちゃ偉い立場の人間として。
……そっかー、クラヴェル王子が接触してきたのって、政争関連の意味合いもあったのかー。
そりゃ、タルクが警戒するわけだよな。ていうか、なんでそれを教えてくれないの。おかしいだろ。
タルクは、ずっとなにも言わなかった。もともと、僕以外の人と長文を話しているのは見たことないけど。なんとなく、その沈黙が気になるんだよな。問題起こる前にその意味を教えてくれるといいんだけど、ムリだろね!
本当にたびたびすみません。
加筆するので、13:00ごろにリロードお願いいたします。
本当に申し訳ないです。
【13:01追記】
加筆しました、失礼したしました!






