35羽 「なにそれこわい」①
ここが、かつての軍の前哨基地だったか、研究施設だったか、と言いましたね。
それはどちらも正解だったようなのです。
基地であり、研究もしていた。
そんな記録がテルク=ファルの各地に残っている。
しかし、なぜか施設の名前も、本当のところはどんな場所だったかの正確な記録がない。
たしかに砂丘の中心にありますが、いまだこうして廃墟のまま、打ち捨てられている理由がおわかりになりますか。
過去には何度もね、手を加えて観光資源にしようとの計画がありました。
他にも、すべて壊してしまって都市としての機能をもたせようとの試みもあったんです。
が、すべて途中で頓挫した。
なにか、不思議な力が働いて、完遂できないのです。
私が若いころにも、一度ありましたよ。
歴史的な建造物ではありますし、実際どのように用いられていたのか……調べる価値はありましたから。
申し上げていなかったかもしれませんが、私、少々歴史や伝承の調べ物が好きでして。
当時の調査団に潜り込……いえ、参加させていただいてね。
あれが最後で、ここへ大きな調査が入ったとは耳にしません。
まあ、為政者たちは、気づいているのですよ。
ここは、気安く触れていい場所ではないと。
私たちには手の余る場所だと。
ああ、だいじょうぶです。
こうして一夜の寝床として通り過ぎる者たちへは、快適な場所ですよ、きっと。
雨は凌げませんが、風からは守ってもらえる。
それで十分ではありませんか。
では、私が若いころに実際に見聞きしたことをお伝えしましょう。
あのときの調査は、この場所を切り開いて交通の要所にするためのものでした。
地図の上で言うなら、ここはだいたいテルク=ファルの中心に当たると、言えるので。
でも、そうはならなかった歴史がある。
おもしろいことに、ここにはおよそ60年おきくらいの頻度で現地調査が入っているんです。
そのたびに虚し手で帰って来ているのですよ。
人間とは、過去から学びを得られない愚かな生き物ですね。
そこがかわいらしいのですけれどね。
幸運なことに、私はその調査周期に巡り合うことができました。
調べ物が好きな人間として、逃すわけにはいきません。
だって、次の調査団は私が死んでからになるでしょうから。
急いで身分詐……経歴改ざ……伝手を頼って、どうにか参加することができました。
得難い経験でした。
本当に参加してよかったです。
だって、今こうして、現地にてそのときのことを皆さんへお話しできるんですからね。
私は、この場所でどんな研究が行われていたのかがずっと気になっていました。
テルク=ファルの歴史三不思議のひとつですから。
残っている資料はとても少なく、しかし軍の施設であったことから、容易に非人道的な想像はできました。
周期的に調査しようという風向きがあるのは、きっとその後ろ暗さの元を絶ちたいという気持ちが、時の為政者たちに生じるからなのでしょうね。
私は、そんなことはどうでもよかったのですが、歴史の空白を埋めることには人一倍の興味と関心がありました。
なので積極的に関わっていましたよ。
ここへ来た初日は、すごい砂嵐の日でした。
なにせ、それまではなんの問題もない天候でしたので、到着した途端にそれで、皆で困り果てました。
なんの野営準備もできませんでしたから、ただただ朽ちた壁の陰に身を低くしてやり過ごしてね。
すっかり収まったころには……調査団の人数が、半分になっていました。
そんな、心配そうな顔をなさらないでください。
今日はこんなに晴れて、星もキレイだ。
それに、私たちが立ち寄ったのは、ここの秘密を暴くためではなくて、平和な一夜をもらうためです。
なにか悪いことなど起こりえませんよ。
最初に気づいたのは、私よりいくらか年上の調査団員だと思います。
若者が少なかったので、希少な人材でした。
観察眼と着眼点がすばらしくて、そのゆえに選ばれてやって来ていた人物でした。
彼は、荒れ狂う風が収まったときに、この建物の外を指差して言ったのです。
「取り囲まれている」
と。
私には、なにも見えなかったけれどなあ。
強い風に煽られた結果、砂が風の吹いた方向へと大きく進路を作っていました。
今のうちに、と私たちは野営の準備をし、廃墟内の探索や調査は次の日以降へ、と話し合いました。
その夜、また砂嵐になりました。
とても大きい。
それでもなんとか眠りについて、目が覚めたころ。
太陽が登っていてもおかしくないくらいの時間が経っているはずなのに、辺りは真っ暗で。
さらに、調査団の人数が……縮小しているように思いました。
そして、若者の調査員は、また指を差して言いました。
「近づいている」
と。
たしかに、砂の動いた後が手前になった気がします。
けれど、そんなことは誤差だし些末なことだと私は考えました。
なので、何の気なしにその場所へ行ってみたのです。
若者からは止められました。
すると――私は、そこに見たのです。
砂嵐の結果できた砂のうねりと思えたものは……大勢の人の足跡の流れでした。
「なにそれこわい」






