33羽 「たのしかった!」①
「うわーーーーーーっ! すげーーーーーーー!」
道路の砂塵が細かく舞い上がり、ハルシーピの足跡が一瞬だけ残っては消えていく。
遠くに見えた岩や樹が、ものすごい勢いで近づいてきて、また一瞬で後ろに流れていく。
思わず僕は叫びまくっていた。まさかこんな展開になると思わなかったし、でも最っ高にワクワクしている。
極東の地へ向かうため、僕は、陸送騎乗用ハルシーピに……乗っている!
空路はもちろん使えない。馬車での移動なら丸二カ月かかる。そんな厄介な僕を速やかに遠くへと運ぶには、他に選べる手段もなかった。
最初の二日は小柄な護衛さんに、ハルシーピへいっしょに乗ってもらった。でも慣れてきたらひとりで。荷物やなんやらはこれまで通りハルシーピ車に載せて御者さんへ任せて。僕は他の人たちと、しっかりと訓練されたテルク=ファル産のメスで走る。もちろん、病気ではない個体。
警備さんたちが全員着いてくるので、けっこうな大所帯。僕が乗っているハルシーピを中心に、円を描くように布陣されている。隣にはタルク。警備さんに遠くまで来てもらうのはたいへんだから、半分くらいヴェルク=シーヴィへ帰ってもらったら? っていう提案はしたんだけど、他国の端まで行くのにとんでもない、とみんなから大反対されてしまった。もちろん、キャラヤへ現状とこれからを報告するために戻った人はいるけどね。その人には今後も連絡係としていろいろ動いてもらうことになる。
メスのハルシーピは気性が荒いってずっと聞いていたけれど、テルク=ファルの訓練された陸送の子たちはそんなことなかった。ものすごく従順だし、でも乗り手を観察しているっぽいところもある。もちろん僕たちヴェルク=シーヴィから来た者たちはみんな、テルク=ファルのハルシーピたちとは初対面だった。だから、グラのもふもふ感よりずっとシュッとしたプロっぽい子たちに、じっと見つめられて値踏みされてから騎乗する個体を決めた。むしろ、それぞれで「あんたならいいよ」みたいな許可をもらった感覚だ。空を護る翼騎兵隊員みたいに、特別な個体って感じで乗るハルシーピを決めるわけではないけれど、それでも相性があるんだろう。選ばれたり振られたり、初日は方々で笑い声があがった。
まず目指しているのは、オレファルという名前の街。テルク=ファルの東西を結ぶ場所にある、関所みたいな機能を持つところらしい。そこへたどり着くにも、僕のハルシーピ騎乗の訓練をしながらだったから、まあまあ時間がかかった。本当ならファルガントから陸路でも4日程度らしいんだけれど、6日かかったよね。申し訳ない。
街の影が見えてきたときには、僕もすっかり騎乗に慣れたと思う。たぶん。とりわけ賢い個体に乗せてもらっているから、たんに空気読んで僕に合わせてくれているのかもしれないけれど。ちなみに、僕が乗っているのはずっと僕から離れなかった子。最初ふたりで乗ったとき、すんごく嫌そうな顔してたな。それもあってすぐひとり乗りに切り替えたんだけど。
先頭を走っていたドルテランさんは、街が見え始めた時点で赤い旗を掲げて大きく振った。遠目にも街の外壁の上から、同じように赤い布を振られるのが見えた。
ドルテランさんは、テルク=ファルの東側のかなり有力な権力者らしい。権力者というよりは、身なりとか雰囲気が学者さんっぽいんだけどさ。野営してごはん食べるときとか、いろいろ話しかけられていろいろ話した。ブロムに買ってもらったけどまだちゃんと読めていないハル古典のこととかも詳しくて、上巻を持っていないって言ったら「家にありますので、お譲りしましょう」って言ってくれた。ありがたい。下巻から読んでも、なんか意味わかんなくてさ。
オレファルが開門していくのが見える。中からわらわらと人が出てきた。ドルテランさんが僕たち後方の者たちへ右腕を振って減速を指示する。手綱を引いてハルシーピへそれを伝える前に、僕の乗っている子は減速し始めた。ありがとう、空気読んでくれて……初心者にやさしい子だな。
「おつかれさまです! お待ちしておりました!」
わらわら出てきた人たちの中には、ブロムも居た。空路で方々へ連絡とかして、先々で準備しながら僕たちを待っていることになったんだ。それって外務卿がすることなのって思ったけど言わなかった。たぶんブロムは、僕とタルクへテルク=ファルから宛てがわれている接待人みたいなものなんだと思う。水が入った容れ物をくれたからありがたくいただく。他の人たちへとハルシーピたちを預け、休ませてもらう。
「どうでしたか、ハルシーピ騎乗は? ヨータくん」
「たのしかった! ガチでたのしかった! まじでたのしかった!」
べつにスピード狂とかではないんだけれども。それでも、なんか男の子の心をくすぐるなにかがあって、めっちゃテンション高く移動してたな。今考えるとほほえましい目でみんなに見られていた気がしてちょっと恥ずかしい。
タルクが「ヨータ、怪我とかしてないか」とちょっと遠くから声を掛けてきた。それなりに心配してくれて、降りたときはいつも確認してくれるんだよね。僕は「だいじょうぶ!」と返した。
とりあえず、オレファルで一泊。それから少し南下してまた東へ向かう。かなりの強行軍だけど、一刻も早くっていうドルテランさんの願いと、僕もそうしたいって気持ちから、そういう行程になった。






