32羽 「やってみます」②
【7:23追記】そういや今日、更新休みの日だった……
部屋から出て、なんだかずんずん進んでいく。
「どこ行くの、タルク」
「さっさと出るぞ、こんな国」
「えっ、もう? 違う街とかは見ないの?」
「どうでもいい。もう問題解決したんだから、いいだろ」
そりゃ、タルク的にはそうなんだろうけどさ。どうせなら観光したい気もしていたので、すごく残念そうな口調になったと自分で思う。建物の外には護衛の方たちが待機していて、なんだか旅装もしている。帰る気まんまんじゃないですかやだー。
しっかり僕の手荷物とかもまとめられて、荷台に載せられていた。しっかりとした集団になってしまったから、人々から遠巻きに注目されている。タルクは「乗れ、行こう」と言った。
「なんでそんなに焦っているのさ? ブロムにもあいさつしないで出るの?」
「嫌な予感がする。こういうときの俺の予感は、外れない」
しぶしぶ僕が荷馬車に乗り込むと、ゆっくりと隊全体が動き始める。街の大通りを移動しているときに、馬で駆けつけたブロムが「まってくださいー!」と焦った声で幌の中へ叫んだ。
「すみませんすみません、あの、聞いてないです、帰るって聞いてないです」
「言ってない」
「そうでしょうとも! あの、すんごく困るんで待ってください!」
タルクは御者席へ「急いでくれ」と声を掛けた。といっても街中だし、大所帯だし、すぐに移動できるわけでもない。そして、滞在しているファルガントは要塞都市だから、高い外壁で囲われている。検問所の待機列へ誘導された。来たときはフリーパスだったのに。ブロムはそのときに馬車へ乗り込んできて「お願いです、もう少し留まっていただけませんか」と丁重な口調で言ってきた。タルクは「なに考えてんだよ、おまえらは。なんか嫌な感じするんだよ」と吐き捨てた。
「我が国の事情に、巻き込んでしまっていることはお詫び申し上げます。でも、そうするしかなかったんです。他に方法はなかったんです」
「ヨータが言っただろ、暑すぎたせいだって。それで問題は解決しただろ。もういいだろ」
「いえ……まだなんです」
ブロムは、よく見るとなんとなくいつもよりよれっとしていた。まだって言われて、僕は「原因は、環境変化だけじゃないっぽいの?」と尋ねる。
「……昨日の今日ですので、対策の結果が出たとは言いにくいです。ただ、比較的症状の軽かった個体には効果的なようだとは、伝書鳥によって知らされました」
「そっか……」
逆に言うと、症状の軽い個体にしか意味がなかったということだ。根本的な解決策にはなっていない。……他に、原因がある。
「ヨータくん、エルシ公翼。お願いです。助けてください。行かないでください」
右手をずっと胸に当てたまま、ブロムはこれまでのどのときよりも真剣な様子でそう言った。僕は、タルクを見てはっきりと「ねえ、残ろう?」と言う。
タルクは、大きく息を吸い込んで、吐いた。タルクだって、ハルシーピが苦しんでいるって聞いて平気じゃないのを、僕は知っている。
ざわっと、馬車の外が騒がしくなった。ブロムが幌から顔を出して外を確認する。そして「来た」とほっとしたようにつぶやいた。
気になって僕はブロムの隣まで這って行った。ブロムの視線を追うと、空に、大きな鳥の影。ブロムは馬車を降りて指笛を吹いてから、手に赤いハンカチみたいのを持って大きく手を振った。影が急降下してくる。もちろん、ハルシーピだ。
人々が散って、警備の方たちが身構えて僕の前や馬車の回りに並ぶ。着陸したハルシーピから降りてきたのは、先日のヴォルク医務官ではなかった。同じ灰色の服を着てはいたけれど。
白髪交じりの茶髪を一本縛りにした、男性。彼は懐から丸メガネを出してかけると、警備さんたち越しに僕を見て、僕がヨータだってすぐにわかったみたいで、右手を胸に当てて言った。
「――ごあいさつ申し上げます。鑑別師・ヨータ・コガ殿。私はクラグ・ドルテラン」
タルクが僕のすぐ後ろまで来て、なにも言わずにただため息をついた。知っている人なんだろうか。僕はあいさつされてなにも言わないのは失礼だと思って、とりあえず「こんにちは、はじめまして」と言った。
「はじめまして。先日はヴォルク医務官へ智慧を託してくださり、本当にありがとうございます。今日は、あらためてお願いに伺いました」
とりあえず、僕は馬車から降りた。乗ったまま話すのもなんだかな、と思って。タルクも降りてきた。ドルテランさんは、警備さんたちに挟まれて立っている僕の前で、両膝を着いて僕を仰ぎ見た。びびった。
「鑑別師殿。どうか、今一度私たちへその力を貸してください。どうか、東部に。カイロントへ渡り、私たちを助けてください。テルク=ファルのドルテランを代表し、伏してお願い申し上げます」
僕は「立ってください。お役に立てることがあるなら、よろこんで」と言った。タルクがやっぱり、ため息をついた。






