32羽 「やってみます」①
さすがに僕でもわかったよ。ガチでスラグヴォルさんと僕をくっつけるつもりなんだっていうのは。
ちなみに、タルクから「ぜってえ名前呼びすんなよ」と真顔で言われたので、苗字で呼んでいる。親族ではない成人男女間の名前呼びは、洒落にならないらしい。いつもなにも言わないタルクが珍しく自分から説明したから相当なんだろう。僕も「コガ様」と呼ばれている。
スラグヴォルさんは、とてもキレイな女性だ。小さくて色素が薄くて、いわゆる守ってあげたくなる感じ。方向性が似ている男性のクラヴェル王子と並ぶと、本当にその小ささと繊細さが際立って見える。妖精姫とか呼ばれてそう。でもまあ、正直なところ、僕の好みではないなあ、という。かわいいなあとは思うけどね。
スラグヴォルさんが、小弦楽器の弦をピックで弾く。ツン、と高い音が響く。僕は、この音が嫌いじゃない。
一般的に小弦楽器とこちらで呼ばれているのは、マンドリンのお腹の部分を、しずく型じゃなくて丸にしたような形のもの。三味線を丸にしたって言った方がわかりやすいかな。でも弦の数は6本で、ギターと同じ。女性は立てて持ち、ヘラみたいなピックを使って弾く。男性は横抱きにして指でそのまま弾くことが多いみたい。奏法の違いで音の高低も違って、スクーミでの男女合奏はすごく美しいんだそうだ。で、スラグヴォルさんは僕とそれがしたいんだって。
こちらの楽譜は正直読めない。こちらに来て読み書きに不自由していなかったけれど、さすがに文字ではないのはムリだった。文字は左から右への横書きだけれど、なぜか楽譜は左から始まる縦書きなんだよね。しかも音符じゃない。罫線に横棒が入っていて、その数で音が表現されているの。法則性を理解したらきっと把握できるんだろうけど、なにせ僕があんまり気乗りしていないもんだから、まあ覚えられないよね。だから、クラヴェル王子にも加わってもらって、僕のパートを弾いてもらって、耳コピ。本当ならスラグヴォルさんと僕のふたりの作業をー、みたいのを予定して、クラヴェル王子はあくまで付き添いなんだろうけども。
スラグヴォルさんが、高いパートを弾いていく。クラヴェル王子がそれに寄り添うように低い旋律を乗せていく。同じ楽器なのにまったく違う色の音が重なり合って、部屋の中を満たしていく。ため息が出るくらいに美しい。音楽も、ふたりも。
というかさ。ずっと思っているんだけど。
このふたり、お似合いじゃん。なんで僕いるんだよ、ここに。
曲が終わったとき、僕は思わず拍手した。ふたりともキョトン、とする。ああ、そうか。こっちに拍手文化ってないのか。僕は「これは、僕の生まれた土地で、称賛を表す動作なんです」と説明した。
「お気に召しましたか?」
「すごくキレイでした。おふたりは息がぴったりですね!」
どうにかくっつけられないかな、と思って僕はそんなことを言った。たぶんなんだけどさ、ふたりはしかたなく僕にスラグヴォルさんを娶せようとしているけれど、好き合っているんじゃないかと思うんだよねえ。ただの勘だけど。
僕の言葉に、ふたりは顔を見合わせた。そしてにっこり。クラヴェル王子は「幼いころから、何度も合奏してきましたので」と控えめに言った。
「……さあ、ヨータさんの番ですよ」
クラヴェル王子がそつなく切り替えて僕へスクーミを渡して来た。僕は受け取って、どうせ同じ弦の数だしと思ってギターっぽくかまえた。なんか、クラヴェル王子っぽく横抱きにして弾こうとしても、うまく弾けないんだよね。で、やっぱりギターっぽくやってみた。
「あ、いけそう」
「……なかなか型破りな弾き方ですが、ちゃんと鳴るものなんですね」
感心したような残念そうなような、ちょっと複雑な声色でクラヴェル王子が言う。僕はちょっと弦の張りとか音を確認してから「よし」と言った。
「んーと、楽譜読めないんでぜんぜん違う曲ですけど。やってみます」
親父がアコギ持っていて、生前はまあまあ弾いてたんだよね。その流れで、僕も軽くならギターを弾ける。習ったからさ。勝手は、ちょっと違うけど。
まあいいやって感じで、ガシガシ弾いた。普通に日本のポップスばっか4曲。ふたりともそっくりな顔であっけに取られていて、おもしろかったな。いろいろ間違えていたけど、原曲知らないふたりにバレることはないし、いいや。
で、指が痛くなったのでやめた。すると、スラグヴォルさんが、さっきの僕を真似してか、びっくりした顔のまま手のひらを何度か合わせた。笑っちゃった。そっか、拍手の音じゃなくて手を合わせる方が称賛の動作だと思われたのか。かわいいな。
「すごいですわね、コガ様! お国の曲ですか?」
少し興奮気味にスラグヴォルさんが言う。僕は「ええ、まあ。なんか、流行っていた曲ばっかりです。間違えましたけど」と返した。クラヴェル王子は唸って「スクーミに、こんな弾き方があるなんて、知らなかったな」と大真面目につぶやいた。いえ、すみません、僕が勝手にやっただけです。
「とても、興味深いです。コガ様、よろしければコガ様のお国のことを教えてくださいませんか?」
スラグヴォルさんがめちゃくちゃ目をキラキラさせて言った。うっ、さすがにかわいい。僕がどう断ろうか考える前に「断る。行くぞ、ヨータ」とタルクの声が降ってきて、腕を引っ張られた。いつから居たの。






