31羽 「つっこみください」②
で。たくさん語った。
「さっき言った、ふたつの問題。まずひとつめは『たくさん産む問題』で、メスのハルシーピの体が『卵を作れ!』と命令を出しすぎる。異常な卵がいっぱい出て、体が疲れる。次に『腫れの問題』で、卵が中途半端に詰まって、お腹の中に水が溜まる」
板書して、みんなの反応を見る。ブロムは深くうなずき、タルクはわかっているんだかわかっていなんだかわかんない顔をしていた。ヴォルク医務官は「いいから、続けろ」と僕へ言った。
「――僕が考えたのは、体内の卵を作るスイッチ……んーと、切り替え部分がずーっと卵を産む方向へ傾いてしまっている状態。通常なら平衡がとれているけれど、ずーっと傾いていると、その切り替え部分が動作しなくなってしまう。結果、産み続けてしまうし、体に負担がかかりすぎて嚢胞ができて、衰弱していく」
専門用語使わないで説明するって難しいな。なにに例えればいいんだろう。考えながら「人間でも、風邪を引くことってありますよね。あれも、体が通常とは違う働きをしている状態です」とつけ加える。うーん、どうだろう。わかったかな。わかんないな。
「……もっと詳しく言うと、体の中の『錆び』のようなものが原因のひとつ。生き物は食べ物や空気から力を作るときに、酸化ストレス……少し、毒みたいなものが出るんです。通常は体が掃除してその毒はなくなるけれど、多すぎると掃除が追いつかなくて、細胞……うーんと、なんて言えばいいかな。体内の部品、が錆びる。人間も動物も、錆びが溜まって行くことで老化します」
ブロムが「錆び……ですか。考えたこともない概念ですね。興味深い」とつぶやく。そりゃそうだよなあ。
「錆びが蓄積されていくと、体を構成している部品が死にやすくなるんです。特に卵巣でこの錆びがひどくなると、腫れて破裂しやすくなる。……錆びがたくさん生じるなにかが、あったはずです」
「なにか、目星は」
タルクが声をあげた。びびった。ちゃんと聞いてたんだ。僕は「エサや水に通常とは違う異物が混入していたとか、腐っていたとか」と言うと、ヴォルク医務官が「ふざけんな。養ハル家の人たちの努力を知らないで、勝手なこと言うな。そんなことはあり得ない」と吐き捨てた。それはそう。僕は「では、急激な環境の変化ですかね」と続けた。
「僕は、この話を鶏を基軸に考えながらしています。ハルシーピとすべて同じとは思わないけれど、きっと共通するところはあると思うから。鶏は、たとえば暑すぎても寒すぎても、錆びがたくさん生じて産卵異常を起こすことがあります。天候はどうでしたか? いつも通りでしたか?」
僕がみんなを見ながらそう言うと、書記官さん含め、タルク以外の全員がはっとした顔になった。書記官さんのひとりが「……東部は、この夏、日照りがひどくて」と言った。
「体温調整ができていないのでは? 日陰に連れて行くだけでは、追いついていないのかも。ハルシーピって、基礎体温高かったりします? ちゃんと汗かけます?」
みんな静まり返った。その中で、タルクが「あいつら、めっちゃ温かいぞ。常に。汗は、見たことねーな」と言った。
「それって、空を飛ぶからそういう仕組みの体なのかもしれないですね。陸送騎乗用に改良されたハルシーピでも、基本は変わらないんじゃないかと思います」
ヴォルク医務官が、無言で立ち上がって部屋の入口へとスタスタ歩いて行く。ブロムが「ヴォルク医務官、どこへ?」と制止した。
「……東部に戻ります。やってみるべきことが、わかったので」
「健闘を祈ります」
僕がそう言うと、ヴォルク医務官はちょっとなにか言いかけて、そしてなにも言わずに出ていった。
書記官さんたちが僕の板書を書き写して、かつ話したことを書き終えてから、三人いっしょに右手を胸に当ててから退室して行く。お疲れ様です。
「……いやあ。錆び、かあ。怖くもあり、興味深くもあり。私もどこか錆びてますかねえ」
ブロムが左腕を上げ下げしながら言った。タルクがすごく真剣な表情で「ヨータ、おまえ」と言ったので、僕は身構えて「なに?」と尋ねた。
「おまえ、ぜんぜん錆びてねーな」
「ぶっは」
ブロムが吹いた。なにそれ。
その後すぐに、東部の養ハル家さんたちへ暑さ対策の支援が差し伸べられたと聞いた。具体的にどうしたのかは知らないけれど。スポットクーラーとかないだろうしまじでどうしたんだろう。結果が出るのはすぐじゃないと思うし、原因はもっと他のことかもしれない。議論の余地はめちゃくちゃあると思う。でも、そもそも僕が国賓としてテルク=ファルに呼ばれた理由は、陸送騎乗用ハルシーピの異常事態になにか呪い師的知恵とか恩恵を授けることだったから、目的は達したってことでいいんだと思う。
だから、ヴェルク=シーヴィに戻れるかなーってのんきに考えてたんだよね。
「ごきげんよう、ヨータさん。今日もよろしくお願いいたします」
にっこり笑ったクラヴェル王子。そしてその傍らには、王子そっくりな小さい女性。
げんなりしてふたりを迎えた僕は、バレないようにそっとため息をついた。
なぜか僕、ラインフェリア・スラグヴォルというお嬢さんと、小弦楽器の練習することになっちゃった。
なんかいっしょうけんめい考えたんですけど、書いてみたらめちゃくちゃ単純なことで自分でも拍子抜けしています、はい







