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飛ばない僕と、空を行く君と  作者: つこさん。


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7羽 「おまえも来い」 「もちろん」①

 騒然となった。ひよこのことでやって来ていた業者さんたちも、びっくりして周囲を探そうとしてくれる。


「警ら隊呼んでくるわ」

「たのんだ。俺ぁ、養鶏組合の連絡網で流して来る」

「ハッラ、嬢ちゃん今日はどんな服着てる?」

「しっかりしろ! おまえがグダグダでどうするんだ!」


 みんなやさしい。現代日本にはない温もりがある。なんてことをのんきに考えているヒマはない。僕は坂を駆け上がってタルクのところへ向かって、タルクは僕を見た。


「もしかしてって、思ったこと言っていい?」

「ああ」

「誘拐? グラは、それを追って行った?」

「おそらく」


 どちくしょう。誘拐犯は、ハルシーピの乗り手だってことだ。


「灰翼判庁へ行く。おまえも来い」

「もちろん」


 僕は坂を駆け下りて馬車に向かう。よたよたしながら養鶏場へ向かって「ライラー、ライラー!」って叫んでいるハッラさんへタルクがなにか言って、ハッラさんが号泣して「ありがとう、ありがとう」って言うのが聞こえた。僕は手綱を引いて馬を動かした。身軽なタルクがひらりと僕の隣に座る。


「運転、腕上げたな」

「そりゃ、先生がいいですから?」

「違いない」


 一般道の馬車の走行速度制限ってあるのかな。よくわかんないけど、僕は体感的にスピード違反を自覚する感じで手綱を取った。おしり痛いし馬車壊れそう。割れても壊れてもかまわないって思いながらタルクの家の近くまで来た。


「代わる。こっから岩場の坂道だ」


 言われて僕は即座に手綱をタルクに渡した。灰翼判庁の入口知らないし。ちょっと集落を迂回する感じで、崖際へと向かう。存在をぜんぜんしらなかった石造りの門があって、そこから急な坂道が伸びていた。ちょっと先が霞むくらいに、長い。

 たぶん、ハルシーピではなくてこうして馬車で灰翼判庁へ行くための路だと思う。人工的に造られた物じゃないかな。僕は、舌を噛まないように奥歯をかみしめ、意識してそうやって目に入ってくる情報のことを考えた。だって、そうしなきゃ、嫌な想像ばっかり思い浮かぶから。


 だいぶん馬くんにムリをさせてしまったと思う。あとで労っておこう。にんじん家にあるかな。どれくらいの時間坂を駆けたかわからないけれど、到着したときにタルクが真っ先に馬くんを馬車から離して水場に連れて行ったくらいには、悪路だった。僕の奥歯もすり減ってそう。


 僕が以前立ち入ってしまった場所――グラに求愛された現場でもある、灰翼判庁。

 あのときは、外観をしっかり見るなんてしなかった。でも今こうして対峙して、こんな切り立った崖の上にこんな建物があるなんて、と呆然とする。

 僕が「砦」と呼ぶ、ハルシーピの育雛場。あの施設がままごとのように思えるくらいの、大きく堅牢な、建造物。

 ここでは石塀は必要ないんだろう。だって、ここまで来るのには急な坂の一本道で、あとはハルシーピによる空の路しかない。


「――いくぞ。歩きながら、説明する」


 なんとなく血の気が引いたように見えるタルクに合わせて、僕も重たくて精巧な彫り込みのある両開き扉を押し開いた。中はシンと静まり返った灰色のホール。ずっと奥に扉や階段が見える。


「今、会いに行くのは『翼公』のひとり。霜翼卿(そうよくきょう)だ」

「そも、ヨクコウがわかんない」

「ヴェルク=シーヴィの偉いヤツらの集まりだ。霜翼卿は、国内のハルシーピを管理している部署の長。……援助要請をする」


 緊急事態なのはそうだけど、そんな偉い人が、ライラちゃんひとりのために動いてくれるんだろうか? ちょっとそう思ったけど、いくら高所とはいえ、いつも通りの早足なのにいつもよりずっと苦しそうなタルクに向けて、その質問を投げるのはためらわれた。


 だだっ広いホールを抜けて、階段を上る。上階にあった扉をノックもなく開けて、タルクは「霜翼卿に目通り願いたい。すぐに」と言い放った。


「ご要件は?」

「国内のハルシーピが犯罪に用いられている可能性がある。少なくとも一羽。私のハルシーピが後を追っている。捜索の許可と、ハルシーピの貸与を」

「お待ちください」


 なんだか不思議な部屋だった。壁があって、ちょうど僕の肘くらいの高さで横一文字に空間が開いていて、カウンターみたいになっている。だから、向こう側に人がいるのはわかるんだけど、顔とかは見えない。ちょっと屈んで覗いてみようかと思ったけれど、今は僕の好奇心を満たすための時間じゃない。


「こちらを」


 カウンターから白くてキレイな手が出てきて、クレカくらいのサイズの鉄板を差し出して来た。タルクは奪い取るみたいな感じで受け取って、部屋を出た。あわてて僕もそれに続く。


 もう一度、上の階へ。迷いのない足取りのタルクについて、いくつか並んだ扉のひとつに入った。その中にまた扉。そこに、タルクはさっきもらった板を押し当てるようにはめ込んだ。


 ガコン、って言って、扉が左にスライドする。びびった。急な階段が目の前に現れて、タルクは僕を見て、無言で上るように促した。えっ、僕から?


 おそるおそる上る。なんか暗いし、怖い。そもそも建物全体が、あんまりランプ置いてなくて薄暗いんだ。上りつめたら、また扉。これは木製。いちおうノックしてから、開いた。

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