60羽 「よろしく!」②
ぜんぜん関係ない大学を選んじゃったけど、僕、高校では世界史Bを選択してたんだよね。おもしろかった。
ベルベット革命てさ、ネーミングが上手すぎるなってずっと思っていた。なめらか過ぎる無血革命をそう表現する美しさというか。
まああの件は、革命自体はうまく行ってもその後がたいへんだったみたいだけれど。
だけどさ。
前例は、あるわけだ。この世界のではないけど。
僕の考えは簡単にまとめるとこうだ。
なんか横暴な今のヴェルク=ライナ政権をどうにかしたいとして。
そのために、ものすごくたくさんいそうな賤当民の人たちを味方に引き込む。
数年前にあったという、賤当民による武装蜂起ではなく、あくまでヴェルク=ライナ国内では非武装・非暴力を貫くこと。具体的に言うと、ゼネストで経済麻痺させる。かなりの労働力を賤当民に依存しているっぽいからね、ヴェルク=ライナは。
ダンさんが亡命したという事実を知ったら、立場をこちらに定めてくれそうな人にもつなぎを取っておく。
そんで、外圧! 外圧! 交渉! 外圧! 交渉!
この手法にはいくつか押さえておかなければならない点があると思う。
まず、ヴェルク=シーヴィの主張が正しいもので、かつ正統なものでなければならない。これは、幼いころにヴェルク=ライナから亡命せざるを得なかったタルクがこちらにいることで、意見できる立場だって言えそう。
それに、交渉相手がだれであり、どこであるかを明確にしておくこと。窓口はここですよーって明らかにしておくことで、相手に言い訳させない。
あとは、ヴェルク=ライナの現王様が、最終的に逃げられるようにしておくべき。じゃないと頑なになって立てこもっちゃったり、最悪自害とかされかねないよね。
細かいところはおぼろげに考えはあって、しどろもどろになりながらキャラヤに伝えたりした。キャラヤにとってはそれで十分だったみたいだ。
「たぶんですけど。……普通の戦争で、人をいっぱい犠牲にして大義名分を成すよりも、こっちの方が。非暴力で、極力血を流さずに主張を通す方が……きっと、歴史と、人の記憶に残ると思います」
キャラヤは、笑っていない目を細めて僕を見ていた。怖かった。
「おもしろいな。……じつにおもしろい」
その言葉が出てからちょっとして、おそるおそる、ルムスとその命を狙っている間諜の話をした。こっちの味方にしたいって。すると「わかった。連れてこい」とのこと。それで、とっ捕まえたわけです。
捕まえた間諜さんを通じて、他の間諜さんの情報も得られないかな、とか。その人たちを全員味方にできたら、元々キャラヤが個人的に放っているヴェルク=ライナ国内の工作員さんと協働して、いろいろできるよな、とか。
現在は、本当に絵に描いた餅ですが。
これを形にする……できるのは、間違いなくキャラヤだ。
僕は、正直なにもできない。かなり一般人だから。だから、言うだけ言って丸投げだ。最悪だな。
でも、存在としてまったく役に立たないてことはないと思う。いちおう、僕は『鑑別師』という固有の称号を与えられるほどの呪い師だって宣言されているわけで。ヴェルク=シーヴィは現在進行系でいい感じにハルシーピをどんどん軍用転換できる力があるんですよ、という威圧にはなる。たぶん。
できることはするし、言った責任はちゃんと負いたいけどさ。
僕自身は、僕の非力さも、この世界での立場も、わきまえている。
世界史Bで学んだ、いろんなことが思い出される。教科担任の先生がいい人だったんだよ。いつも教訓を汲み取れるように、工夫して授業をしてくれた。僕の塾講のロールモデルでもある。
「みんな、校則を変えたい時や、部活のルールでもめたとき、どうやって話し合いをする?」
「多数決ー」
「力こそパワー」
「なんでその言葉知ってるんだよw ビックリマンだぞ、おまえら生まれてないだろw」
たのしかったよ。高2の夏休み前だ。
「力づくで言うことを聞かせようとしたり、意見を通そうとしたら、反発が生まれるだろ」
そりゃそうだ、と思った。でも、政治とかでかい局面では、そういうことってままあるんじゃないの、とも思った。
「武器を一切使わずに、一滴の血も流さず、40年も続いた独裁政権をたった10日で倒した『ベルベット革命』について、考えていこうか。学生役、労働者役、知識人役に分かれて、ディスカッションしてみよう」
わかってるよ。理想論だって。机上の空論て言われたらそれまで。
僕は偽善者で、平和沼に浸かった日本人で、弱っちい非戦闘員だ。それに、この世界の人たちと比べたら、とんでもないお花畑脳だ。
でもさ、理想すら口にできない世の中なんて、その方が間違ってない?
だから、僕は僕のまま、この世界では胸を張って偽善者でいようと思う。






